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香るトマト note食品学 3食目

初めてトマトにかぶりついたのは何歳だっただろう?

畑で取れたトマトをその場でかぶりついたのが初めてだった気もするし、サラダに使うはずの大きなトマトを親に内緒で丸齧りしたこともあったような気もする。

少し緑がかる部分に歯を入れると、青くさい匂いとともに瑞々しいトマトの液果が溢れ出す。

ジューシーな液果と肉厚の果皮を一緒にじゅりじゅりモシャモシャと食べれば、なんだか甘い香りもしてくるよう。

いつからトマトを丸かじりしなくなっただろう?

あの、かぶりついた瞬間の香り、最近感じてないなぁ。

皆さんはトマト丸かじりしてますか?

トマトの香り感じてますか?


トマトの香りってどんな香りでしょう?

「甘い香り」「夏を感じる爽やかな香り」とイメージする人もいれば、「青臭い」「葉っぱのようなにおい」などと感じている人もいるかもしれません。

トマトを好きかどうかでも感じ方が変わるかもしれませんね。

畑になっているトマトをもいだ時、トマトを切ったとき、トマトを口に入れた時に感じる、あの香り。

さて、トマトの香りはどこから来るのでしょうか?


食品の匂い

トマトの香りについて追及するl前に、食品の匂いについての基本的なことから。

鼻にある嗅上皮の嗅覚受容体が、食品に含まれる化学物質(香気成分)を感知することでヒトは食品の匂いを感じています。

食品に含まれる香気成分は6000種類程度とされ、コーヒーでは800種類、トマトでは400種類!!と非常に多くの香気成分を含んでいることが分かっています。

一つの食品にこれだけ多くの香気成分が存在すると、人によって感じ方も違うでしょうし、品種や生育具合によって、または調理の仕方によってもいろんな香りを感じられるはずですね。

嗅覚で感知できるのは空気中に漂う成分なので、食品に含まれる香気成分は揮発しやすいというのも特徴の一つです。

食品の香気成分の生成では、

・生合成によって生じる成分
・調理・加工で生じる成分

の大きく2つに分けられます。

生合成による生成と言うのは、野菜の成長や果実の成熟によって生成する成分です。柑橘類のリモネンやグレープフルーツのヌートカトン、モモに含まれるγ-ウンデカラクトンなどが有名です。

調理・加工で生じる成分としては、ニンニクやニラを切った時に組織が破壊されて感じる特有の匂いが有名ですね。

あれは、ニンニクの組織が破壊されてアリイナーゼという酵素が働いて、アリシンやジアリルジスルフィドという含硫化合物が作られて強い匂いを放っています。

わさびの辛味成分として有名なアリルイソチオシアネートも独特のにおいを持っています。

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その他、肉を焼いた時に香るロースト臭や微生物が関与する味噌や醤油の香り、油脂の酸化した臭いなども調理加工で生じる香気成分が匂いに関わっています。


トマトの香り

さて、トマトの香りはどうやって作られているのでしょう?

あの青臭いようなフレッシュな青葉のようなトマトの香りは「脂質」がキーポイントなんです!

トマトの脂質?と思った人はぜひ「食品成分表」を調べてみましょう!

トマトにも、あの水分しか無いと言われるようなキュウリにも含有量としてはわずか0.1%ですが、脂質が含まれています。

植物には細胞があります。

その細胞を取り囲む細胞膜の構成成分は主に脂質です。

その細胞膜の構成成分としての脂質を出発物質として、トマトのあの香りを感じさせる香気成分が作り出されているんです。


トマトの香気成分の生成

トマトを切ったときやトマトをかじった際に、細胞が破壊されると、加水分解酵素(リパーゼ)が働いて、膜脂質などのトマトの脂質を分解して、リノール酸やα-リノレン酸といった脂肪酸を生成します。

α-リノレン酸がリポキシゲナーゼ、リアーゼの作用を受けることでcis-3-ヘキセナールが生成されます。

このcis-3-ヘキセナールから異性化酵素によってできる異性体のtrans−2-ヘキセナールを「青葉アルデヒド」と呼びます。これは新鮮な青葉の香りとも表現される香気成分で、トマトの匂いにおける重要な成分です。

トマトをかじったときに感じるあのフレッシュな青葉のような香りは、トマトの脂質から作られていたんです!

cis-3-ヘキセナールからはcis-3-ヘキセノールというやはり青葉のような香りを感じさせる香気成分も変換されます。こちらは「青葉アルコール」と呼ばれ、トマトの香りに重要な役割を果たしています。

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トマトの香気成分の生成は、細胞が壊された時だけでなく、生育過程においてリパーゼによる分解を経ずに、膜脂質を基質として香気成分が生成されることも知られているようです。

かじらずともトマトがたくさんなる畑に行き、トマトの果実や葉に顔を近づけるだけで「トマトの香り」を感じることができるんですねぇ


トマトではαーリノレン酸をもとにフレッシュな香りを作り出す一方で、リノール酸からはヘキサナールという香気成分が生成されます。

これは、ヒトにとっての不快臭に分類されるため、大豆の加工品などでは、加工時にリポキシゲナーゼを吸着させ、失活させることで不快な臭いの生成を抑制しています。

この他、植物の脂質をもとに作り出される香気成分としては、キュウリが作り出すtrans,cis-2,6-ノナジエナールやtrans,cis-2,6-ノナジエノールも有名です。これら成分はそれぞれ「スミレ葉アルデヒド」「キュウリアルコール」と呼ばれ、キュウリの新鮮な香りに関与しています。

食品の香りには「脂質」が重要な役割を果たしていたんですねぇ

おわりに

今回はトマトをかじったときに感じるあの香りについて学んできました。

香気成分についての講義を行うと、学生さんからは、「いつも食べるときに感じていた香りに名前があったなんて!?」と驚かれることが多いので、皆さんも香りに名前があることを意識したことはなかったかもしれません。

食べ物の香りに名前があるって知ると、食べ物のことがますます愛おしくなってきますね。

食品には、食べる楽しみとしての機能があると言われます。食品に含まれる嗜好成分としての「香気成分」について学ぶことで、おいしく食べる楽しみや喜びをさらに感じられるようになると思います!

これからも食事や食材の買い出しの際に、「食品」に目を向けて、そこに含まれる香気成分や反応について少し考えてみてください。

自分の目で見て、頭で考え、作ってみて、そして食べてみる。この経験をどんどん積み重ねていくことが管理栄養士となった時のあなたにとって役に立つはずです。

それでは、ごちそうさまでした。


【参考文献】
食品学ー食品成分と機能性ー 久保田紀久枝・森光康次郎 東京化学同人
エッセンシャル食品化学 中村宜督・榊原啓之・室田 佳恵子 講談社
新版 調理と理論 山崎清子・島田キミエ・渋川祥子・下村道子 同文書院

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