ジャパンウォーズ4　君の名は

kikuzirou

2021年4月25日 11:39

【神武東征編】エピソード4　君の名は

大分市おおいたし佐賀関さがのせきは、関鯖せきさば、関鯵せきあじの水揚みずあげで知られる港町みなとまちである。

小さく突き出た半島の先端に位置し、四国の佐田岬さだみさきとの間に、豊予ほうよ海峡かいきょうを成している。

古代の人々は、この海峡を速吸之門はやすいなとと呼んだ。

潮流ちょうりゅうの激しい海域かいいきである。

当然、狭野尊さの・のみこと（以下、サノ）ら天孫てんそん一行いっこうも、この海域を進んだ。

速吸之門はやすいなとを通過する直前のことである。

一艘の小舟が近付いてきた。

よく見ると、釣つり人びとが乗っている。

そこで、サノは釣り人に声をかけてみた。

サノ「汝いましは誰じゃ？」

釣つり人びと「うちは、国津神くにつかみで、珍彦うずひこと申もうします。曲わだの浦うらで釣りをしていたら、天孫てんそん一行いっこうが来ると聞いたので、お迎むかえにあがりました。」

サノ「国津神くにつかみ？」

珍彦うずひこ「なるほど。読者のためですな・・・。土着どちゃくの神かみっちゅうことです。」

サノ「解説かたじけなしっ。それと、曲わだの浦うらとはどこじゃ？」

珍彦うずひこ「よく分わかりませぬが、近くの海でしょうな。」

ここで、博学はくがくの天種子命あまのたね・のみことが口くちを挟はさんできた。

天種子あまのたね「では、汝いましに水先みずさき案内人あんないにんをお願いしたい。ええか？　潮流ちょうりゅうが激しく、たいへんな航海になるのは目に見えておる。地元じもとの案内あんないがあると助かるんや。」

珍彦うずひこ「えっ？　うちを、かてちくれんの？」

天種子あまのたね「何なにを言ゆうてるのか分わかりません。説明してくださりませんか？」

珍彦うずひこ「仲間にしてくれるんですか？って意味やに。」

サノ「いっちゃが、いっちゃがいいよ、いいよ！　今後、水先案内人が必要となるは必定ひつじょう。さあ、この椎竿しいさおにつかまり、我われらの船に乗り込め。」

珍彦うずひこ「椎しいの木きで作った竿さおってことですな。では、お言葉にあまえて・・・。」

こうして、地元の神である珍彦うずひこが、水先案内人として、仲間に加わったのであった。サノは、感謝の気持ちとして、珍彦に名前を与えてやることにした。

サノ「では、椎竿しいさおにつかまったことを記念し、椎根津彦しいねつひこ（以下、シイネツ）という名前を与えようぞ。」

珍彦うずひこ「えっ！？　そ・・・そんな・・・。」

サノ「い・・・如何いかが致いたした？　気きに入いらぬか？」

珍彦うずひこ改あらためシイネツ「いえ、あまりにものかたじけなさに、言葉もなく、心中しんちゅうお察さっし上あげ願ねがいとう存ぞんじ申もうし上あげ奉たてまつりまする。」

ここまでが、台本・・・もとい「日本書紀にほんしょき」の記述である。

だが、ここに付随ふずいする伝承がある。

それは冒頭ぼうとうに紹介した佐賀関さがのせきに鎮座ちんざする、早吸日女はやすひめ神社じんじゃの伝承である。

シイネツが仲間になった直後のこと、一行は急激な風雨ふううと荒波あらなみに襲われた。

シイネツが海面を覗のぞくと、海底から異様な光が差している。

シイネツは、すぐさま、従したがえていた姉妹しまいの海女あま、黒砂いさごと真砂まさごに潜もぐって確かめるよう命じた。

黒砂いさご「とりあえず、私が姉あねということで進めたいと思います。」

真砂まさご「じゃあ、私は妹いもうとということで・・・。」

サノ「初登場で、たいへんな務つとめじゃが、気張きばってくれい。」

姉妹しまいは海中かいちゅうに潜もぐった。

すると、そこには大蛸おおだこが待まち受うけていた。

二人を見て、大蛸おおだこは、嬉うれしそうに呟つぶやいた。

大蛸おおだこ「天孫てんそん一行いっこうが来たんだね。これでようやく、こいつをお返かえしできるって訳わけですな。」

そう言うと、大蛸おおだこは、一本の剣つるぎを取り出した。光の原因は、この剣であった。

黒砂いさご（こ・・・これは？）

大蛸おおだこ「これは伊弉諾尊いざなぎ・のみこと（以下、イザナギ尊みこと）が絶たえず佩はいていた神剣しんけんだよ。ミー私がずっと預あずかっていたのさ。」

真砂まさご（イ・・・イザナギ尊みことって、国生くにうみ神話しんわで有名な、あの？）

大蛸おおだこ「そうだよ。黄泉よみの国くにから戻もどってきて、禊みそぎをおこなった地ちが、ここなのさ。禊の最後に、この神剣を海底に沈しずめたんだけど、畏おそれ多おおくて、ずっと守護しゅごしていたんだよ。」

黒砂いさご（ここって、佐賀関さがのせきのすぐ目の前にある、権現礁ごんげんべいっていう岩礁がんしょうですよね？　まさか、ここが禊みそぎの場所だったなんて・・・。）

大蛸おおだこ「禊みそぎっていうのは、体と心を清きよめる儀式ぎしきのことだよ。」

真砂まさご（ちょっ、何なに言いってんのか分わかんないっす。）

大蛸おおだこ「今のは、読者向けに言った台詞せりふだよ。では、ミー私は使命しめいを果はたしたので、ここらで退場たいじょうさせてもらうよ。ガクッ。」

黒砂いさご・真砂まさご（おおだこぉぉ！！）×２

大蛸おおだこは神剣しんけんを返かえすと、燃もえ尽つきたように、海底へと沈しずんでいった。

それから数分後・・・

黒砂いさご「そういうことで、この神剣しんけんをお返かえし致いたしますとのことで・・・ガクッ。」

サノ「なっ！？　どういうことじゃ？」

真砂まさご「我われら姉妹しまい、長く潜もぐり過すぎたようです。お会あいできて光栄でし・・・ガクッ。」

姉妹もまた、長時間の潜水せんすいがたたって息いき絶たえたのであった。