JW438 止屋の淵
【崇神経綸編】エピソード13 止屋の淵
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
紀元前38年、皇紀623年(崇神天皇60)秋。
ここは、出雲国(いずも・のくに:現在の島根県東部)。
出雲君(いずも・のきみ)の振根(ふるね)と、弟の飯入根(いいいりね)は語り合っていた。
振根「弟よ。さっきは悪かったに。頭に血がのぼって、落ち着いて考えることが出来なかったに。」
飯入根「いえ、こちらこそ・・・。勝手なことを致し・・・。」
振根「もう良い。汝(なれ)の言う通りだに。出雲は、夜麻登(やまと)には勝てん。潮時(しおどき)というヤツだに。されど、わしには、それをする意気地(いくぢ)がなかった・・・。」
飯入根「あ・・・兄上・・・(´;ω;`)ウッ…。我が君・・・。分かってくださりましたか・・・。」
振根「さあ、弟よ。仲直りを致そうぞ。近頃、止屋(やむや)の淵(ふち)に、あばかんほど(たくさんの)菨(も)が生えちょるそうだ。一緒に、見に行かんか?」
飯入根「そ・・・そげですね。そげですね。」
こうして二人は、止屋の淵に向かった。
振根「ちなみに、止屋とは、二千年後の島根県出雲市(いずもし)の大津町(おおつちょう)や今市町(いまいちちょう)、塩冶町(えんやちょう)の辺りだっちゃ。」
飯入根「菨(も)は『アサザ』という水草のことだっちゃ。淵は、川の流れが弱く、深いところを指すんだに。なので、斐伊川(ひいかわ)に、そういうところが有ったと思うんだに。」
そんなことを語っているうちに、二人は、淵に辿り着いた。
振根「淵の水は、清くて冷たいぞ。どうだ? 一緒に、水浴びをしようではないか。」
飯入根「懐かしい・・・。子供の頃、よく水浴びをしましたな。久々に、やりますか。」
こうして二人は、腰に佩(は)いていた剣(つるぎ)を解き、淵の傍に置くと、水の中に入った。
しばらく水浴びをしていたのだが、唐突に、振根は、陸(おか)に上がり、飯入根の剣を佩いてしまった。
あとから上がってきた、飯入根は驚くほかない。
飯入根「我が君? それは、我(われ)の剣にござりまするぞ?」
振根「ん? そうか? まあ、気にするな。汝(なれ)は、わしの剣を佩けば良いではないか。」
兄の不審な行動に、引っかかるモノを感じながら、飯入根は、振根の剣を手に取った。
飯入根「あっ! 兄上! これは、木剣(ぼっけん)ではありませぬか?!」
振根「その通り! 木剣よ・・・。抜(ぬ)きたくても、抜けまい。」
そう言いながら、剣を鞘(さや)から抜く「振根」。
ことここに及んで、飯入根も理解した。
飯入根「兄上? お戯(たわむ)れを・・・。我(われ)を斬ったところで・・・。」
振根「問答無用! 裏切り者には、死をぉぉ!」
斬りかかる「振根」。
木剣で、これを防ぐ「飯入根」。
飯入根「あ・・・兄上! おやめくださりませ!」
振根「そげな木剣で、どれだけ持つというのか・・・。死ねぃ!」
ザシュ!
飯入根「ぐはぁ!」
騙(だま)し討ちにて「飯入根」は死んだ。
出雲は、どうなるのであろうか?
次回につづく
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