JW210 皇子失恋
【孝元天皇編】エピソード13 皇子失恋
第八代天皇、孝元天皇(こうげんてんのう)の御世。
時は流れて、紀元前195年、皇紀466年(孝元天皇20)となった。
秋も深まるヤマトにて、孝元天皇の息子、稚日本根子彦大日日尊(わかやまとねこひこおおひひ・のみこと)(以下、ピッピ)は、紅葉を楽しんでいた。
供連れは、下記の二人である。
ピッピの伯父、彦五十狭芹彦(ひこいさせりひこ)の娘、包媛(かねひめ)(以下、カネ)。
ピッピの遠い親戚、和邇日子押人(わにのひこおしひと)の息子、和珥彦国姥津(わに・の・ひこくにははつ)(以下、ニーハン)である。
ニーハン「お初にお目にかかりまする。『ニーハン』にござる。」
ピッピ「そう言えば、汝(いまし)は初登場であったな?」
ニーハン「左様。されど、そんなことよりも、気がかりがござりまするぞ!」
カネ「気がかりとは、何ですか?」
ニーハン「お二人とも、お気付きになりませぬか? 紀元前195年に記事など有りませぬぞ!」
ピッピ・カネ「えっ!?」×2
ニーハン「よく見てくださりませ。『記紀(きき)』にも、『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』にも、どこにも記事が見当たらぬのでござる。」
カネ「じゃあ、作者の陰謀であると?」
ピッピ「まあ、良いではないか。美しき紅葉を愛(め)でることができたのじゃ。」
ニーハン「ま・・・まあ、そうではありまするが・・・。」
ピッピ「なっ! あ・・・あれは・・・。」
カネ「どうしたのですか? ピッピ様?」
ピッピ「な・・・なんと美しい・・・。あのようなオミナ(女)がおるとは・・・。」
カネ「えっ!? アタシがいると申しますのに、そのような浮気をなされるのですか!?」
ピッピ「なにを言っておるのじゃ? 汝(いまし)と、そのような関係になった覚えはないぞ?」
カネ「覚えはなくとも、そうなるのです!」
ピッピ「な・・・なにゆえ、そうなるのじゃ?」
ニーハン「供連れがいるところを見ると、どこかの豪族の娘でしょうなぁ。」
ピッピ「そ・・・そうか・・・。良し。では『ニーハン』! 歌を贈って参れっ!」
ニーハン「えっ? 歌? さ・・・されど、これは作者のオリジナル設定にて・・・。」
ピッピ「されど、家来が歌を贈るは、作法ぞ! エピソード63にて、御初代様も、そうしておるではないかっ!」
カネ「い・・・いやぁぁ! アタシのピッピ様がぁぁ!」
ピッピ「そのような覚えはないと、言うたではないか!」
するとそこに、大伴角日(おおとも・の・つぬひ)(以下、ツン)がやって来た。
ツン「何をしちょるんです? 皇子(みこ)?」
ピッピ「おお! ツンか! あちらの姫に、歌を贈ろうと思うておるのじゃが、『ニーハン』の奴、歌の才が無く、困っておるのよ。」
ニーハン「い・・・いや、これは、作者に文才が無いからでありまして・・・。」
ツン「贈ったにせよ、無理やじ。」
ピッピ「なにゆえじゃ?」
ツン「あの御方は、大王のお妃様やかい(だから)・・・。」
ピッピ・ニーハン「えっ!?」×2
カネ「やったぁぁ!!」
ピッピ「よ・・・喜ぶなっ!」
ニーハン「お妃様に、あらせられまするか・・・。」
ツン「じゃが(そうだ)。それゆえ、諦めるほかないっちゃ。」
ピッピ「そ・・・そのような・・・。」
ツン「そんげなこつより、今年、何が有ったか、皇子は御存知か?」
ピッピ「そんなこととは、何という申され様か・・・。今、我(われ)は失恋したのじゃぞ!」
カネ「それで、何が有ったのですか?」
ツン「うむ。大陸で皇帝(こうてい)を称しておった、劉邦(りゅう・ほう)という人物が亡くなったそうやじ。」
ピッピ「む・・・無視か・・・。」
ニーハン「たしか・・・漢(かん)という国の皇帝でしたな?」
ツン「じゃが(そうだ)。そして、半島では、新たに衛氏朝鮮(えいしちょうせん)という国が出来たそうやじ。」
カネ「えっ? これまでの箕子朝鮮(きしちょうせん)は?」
ツン「南に追いやられ、韓王(かん・おう)を名乗ったそうやじ。」
ニーハン「では、半島の北半分が『衛氏朝鮮』で、南半分が『韓』ということですな?」
ツン「まあ、そんげな感じや。」
ピッピ「し・・・しばし待たれよ! 海外の情勢を説明せんがため、今年に設定したのは分かりもうした。されど、それがため、我(われ)に失恋させるとは、合点(がてん)がいかぬっ!」
ツン「皇子・・・。この失恋・・・。忘れること、無きように・・・。」
カネ「えっ? もう終わりで良いのですが・・・。」
ピッピ「勝手に終わらせるでないっ!」
ツン「とにかく、忘れてはダメやじ。」
ピッピ「何か、大きく関わってくることになるのじゃな?」
ツン「まあ、そんげな感じや。」
カネ「なるべく小さめで、お願いします。」
ピッピ「大きく関わっても良いではないかっ!」
ニーハン「もう、こうなったら、ピッピ様とカネ殿は、夫婦(めおと)になりなされっ。」
カネ「アタシは、そのつもりよ!」
ピッピ「な・・・何を言うか・・・。『記紀』には、そのようなこと、一言も・・・。」
カネ「安心してくださいませっ! 中世に編纂された『本朝皇胤紹運録(ほんちょう・こういん・じょううんろく)』と『帝王編年記(ていおうへんねんき)』には、ちゃんと書かれております!」
ピッピ「なっ!? そうなのか?!」
こうして、ピッピはカネと夫婦になったのであった。
つづく