JW302 舟戦の前に
【丹波平定編】エピソード9 舟戦の前に
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
丹波道主王(たにわのみちぬし・のきみ)が、多遅摩(たじま)の平定に勤(いそ)しんでいた頃、丹波(たにわ)の加佐(かさ)では・・・。
陸耳御笠(くがみみのみかさ)(以下、みかさ)が唸(うな)っていた。
みかさ「聞いてた話と、ちゃうやんか! 早すぎんねん!」
そこに、同じ丹波の豪族、匹女(ひきめ)がやって来た。
匹女「ちょっと! 『みかさ』はん! どういうこと!?」
みかさ「なんや? 匹女か・・・。どないした!?」
匹女「どないも、こないも、ないわぁ。夜麻登(やまと)の軍勢が攻めて来たでっ!」
みかさ「分かってる! せやけど、早すぎんねん。武埴安彦(たけはにやすひこ)こと『安彦』が、こないに早く討たれるやなんて・・・。」
匹女「せやから、夜麻登の奴原(やつばら)なんて信用できんって言うたんやっ!」
みかさ「しゃぁないやろっ! ホンマだったら、安彦が、夜麻登君(やまとのきみ)を討ち取って、中つ国は大混乱! そこへ、わてが、やって来て、中つ国を併合! ついでに出雲君(いずものきみ)も家来にして、わてが、大八洲(おおやしま)の王様になるはずやったんやっ!」
匹女「もう! そないな夢物語は、ええから・・・。これから、どないすんの?」
みかさ「ど・・・どないする・・・言うてもなぁ・・・。」
匹女「夜麻登の軍勢は、大人数やでっ! 勝てるん?!」
みかさ「まともに戦っても、勝てんことくらい分かってるわっ! こうなったら、加佐の津(つ)は、捨てるっ。」
匹女「はぁぁぁぁ??!! 加佐の津を捨てる?! そないなことしたら、夜麻登に、北津海(きたつうみ:日本海のこと)の交易を握られてまうでっ!?」
みかさ「せやけど、しゃぁないやろ! ここは一旦、青葉山(あおばやま)に立て籠もって、隙(すき)を見て、夜麻登の軍勢を討ち破るんやっ!」
こうして「みかさ」たちは、青葉山に立て籠もり、戦支度(いくさじたく)を始めたのであった。
一方、彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)と、副将の尾張倭得玉彦(おわり・の・やまとえたまひこ)(以下、玉彦)は、無事、加佐に辿り着いた。
イマス「これがいわゆる、無血入城というヤツじゃな・・・。」
玉彦「敵は、青葉山に逃げたみたいだがや。」
イマス「青葉山?」
玉彦「若狭富士(わかさふじ)とも呼ばれとるでよ。」
イマス「若狭? 聞いたことのない名じゃのう。」
玉彦「千年後には、若狭国(わかさ・のくに)と呼ばれる地で、高志国(こし・のくに)の西端に位置するところだがや。」
イマス「すなわち、青葉山は、丹波と若狭の国境(くにざかい)に有るということか?」
玉彦「そうだがや。それで、どう攻めるんだ?」
イマス「うむ。敵も、加佐の津から、陸(おか)を伝って、青葉山を攻めると思うているはずじゃ。我(われ)らは、その裏を突く。」
玉彦「裏というと、海から攻めるんきゃ?」
イマス「その通りじゃ。敵は、加佐の津を明け渡したこと、悔やむであろうな・・・。」
玉彦「では、さっそく、舟戦(ふないくさ)の支度(したく)に取り掛かるがや!」
伝承では、何も語られていないが、舟を調達したということは、加佐の津で商(あきな)いをする者たちに協力を要請したはずである。
ここでは便宜上、架空の名で呼びたいと思う。
加佐の住人、サムとジェフである。
サム「なんや? わてらに何か用か?」
ジェフ「侵略者か、守護者か、ここが、勝負どころやね。」
玉彦「何を言うとるんだ?」
サム「ええか? わてらはなぁ。交易を保証してくれて、海賊から守ってくれるんやったら、誰でもええねん。」
ジェフ「せやで。わてらは、商人(あきんど)や。儲(もう)けになるか、ならんか、そこが問題やねん。極論を言えば『みかさはん』でも、『ミマキ(崇神天皇)はん』でも、どっちでも、ええねん。しっかり守ってくれる方に、味方するっちゅうことや。」
サム「で? わてらの商(あきな)い、しっかり守ってくれるんか?」
イマス「当たり前じゃ。ヤマトの大王(おおきみ)は、加佐の商いどころか、秋津洲(あきつしま)の商いを守ろうとの思(おぼ)し召(め)しじゃ。悪い話では無かろう?」
ジェフ「秋津洲? 大八洲の商いってことか? 冗談やろ?」
イマス「冗談にあらず。我(われ)らの時代は、物々交換じゃ。されば、互いの値打ちが、分かっていなければ、商いにならぬであろう?」
サム「まあ、いくつの米俵(こめだわら)で、何個の翡翠(ひすい)と換えられるんか、互いの値打ちを知らんと、商いには、ならんわなぁ。」
イマス「その通りじゃ。そこで、考えてほしい。ヤマトが、大八洲を一つにしたならば、商いが、どうなるのか・・・。」
ジェフ「大八洲を一つにしたら? 値打ちも、一つになるんか?」
イマス「その通りじゃ。定められた値打ちで、取引ができるようになるっ。」
玉彦「津々浦々、どこでも同じ値打ちで、取引できるんだがや。そうするとよぉ。高いとか、安いとか、喧嘩(けんか)にもならんし、商いも捗(はかど)るで、たくさんの物を扱えるようになるがや。」
サム「せやけど、出来の悪い米だったりしたら、諍(いさか)いが起きるやろ?」
イマス「そのような時こそ、大王の出番じゃ。豪族たちの争いを収めるのが、大王の務め。して、地元の声を大王に伝えるのが、県主(あがたぬし)や国造(くにのみやつこ)の務めなのじゃ。」
玉彦「それによぉ。定まった値打ちでないのを良いことに、ヤマトの商人は、汝(いまし)らに、高く売りつけとるかもしれんでよ。」
サム「た・・・たしかに・・・。それは、否(いな)めん・・・。」
ジェフ「よう分かった。そんなら、合力(ごうりき)しよか!」
こうして、作者オリジナルの説得で、舟戦の支度が進められたのであった。
つづく