戦地からの便り(9)
遺書
僕は唱歌が下手でした
一、僕は唱歌が下手でした
通信簿の乙一つ
いまいましさに 人知れず
お稽古すると 母さんが
優しく教へてくれました
二、きょうだいみんな 下手でした
僕も 弟も 妹も
唱歌の時間は 泣きながら
歌へば皆も 先生も
笑って「止め」と言ひました
三、故郷を出てから十二年
冷たい風の 獄の窓
虫の音聞いて 月を見て
母さん恋しと 歌ったら
皆が 泣いて 聞きました
四、僕のこの歌 聞いたなら
頬すり寄せて 抱きよせて
「上手になった良い子だ」と
賞めて下さる ことでせう
陸軍曹長 佐藤源治命
昭和二十三年(1948)九月二十二日
インドネシア、ジャワ島ツビナンにて法務死
岩手県出身
三十二歳