JW342 石の楯
【桃太郎編】エピソード12 石の楯
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
吉備(きび:現在の岡山県と広島県東部)では、温羅(うら)が暴れまわっていた。
鎮圧の使命を受けたのは、彦五十狭芹彦(ひこいさせりひこ)(以下、芹彦)と稚武彦(わかたけひこ)(以下、タケ)。
一行は、ウラの矢攻めに遭(あ)い、吉備中山(きびのなかやま)を下山する。
そのとき、ある男がやって来たのであった。
ある男「喰いモンが、ぼっけぇ(たくさん)要ると思うて、稲穂を刈って来ましたぞ。」
芹彦「だっ・・・誰じゃ!?」
ある男「え? サモリ殿から、聞いてません? 片岡伊狭穂(かたおか・の・いさほ)ですが・・・。」
芹彦「知らんっ!」
サモリ「すみません。言い忘れてましたねぇ。片岡の豪族、伊狭穂殿こと『イッサ』です。」
イッサ「はぁぁ?? なんで、忘れとるんじゃ!?」
トメ「あっ! 『イッサ』様ですか!?」
芹彦「ん? 知り合いなのか?」
トメ「僕の故郷、栗坂(くりさか)も『イッサ』様が治めていらっしゃるんですよ。」
イッサ「おお! よく見たら、『トメ』か!? 芹彦様の家来になったと、聞いとったが・・・。」
トメ「はい! 此度(こたび)、ウラ平定のために、戻って参りました。」
イッサ「そうか、そうか・・・。ちなみに、この稲穂は、栗坂で刈り取ってきたモノじゃ! 汝(いまし)の『トト』や『カカ』も手伝うてくれたんじゃぞ。」
トメ「そうなんですね。嬉しいなぁ。」
タケ「して、『イッサ』よ。糧秣(りょうまつ)を運んでくれたこと、ありがたいのじゃが・・・。」
イッサ「ん? 何か、あったんですか?」
芹彦「敵の矢の勢いが、驚くほどの強さでな・・・。木の楯も、鉄の楯も貫(つらぬ)くのじゃ!」
タケ「それゆえ、吉備中山に、糧秣を運び入れること能(あた)わぬ。」
イッサ「なるほど・・・。それなら、わしの地元である、片岡山に陣を敷いたら、ええ。」
芹彦「どういうことじゃ?!」
イッサ「石の楯を築くんじゃ。片岡山は、低い山じゃけぇ、すぐに築けるはずじゃ。」
ヤメ子「分厚い石の楯じゃねぇと、矢攻めを防ぐことは出来んぞ?」
イッサ「大丈夫じゃ。安心せぃ。それくらいの岩なら、ぼっけぇ有るけぇ(から)・・・。」
犬「こうして、石の楯が築かれもうした。これが、楯築遺跡(たてつきいせき)にござる。」
ジョン「岡山県倉敷市矢部(くらしきし・やべ)にあるんだぜ。」
ヨーコ「弥生時代の墳丘墓(ふんきゅうぼ)で、山頂の石は、祭祀遺跡という説が有るみたいね?」
たっちゃん「その通りじゃ。いわゆる、磐境(いわさか)じゃな。」
ショーン「磐境というのは、岩で作られた祭壇のことで、神域という意味でも使われるんじゃ。」
たか「岩石で周りを囲んで神域としたり、岩そのものを神として崇める場合にも使う言葉なので、岩と神様が絡(から)めば磐境・・・くらいの感覚で良いと思いまする。」
芹彦「とにもかくにも、矢攻めの恐れは無くなったぞ!」
こうして、新たな陣地が構築されたのであった。
つづく