JW234 実家は何処
【開化天皇編】エピソード19 実家は何処
第九代天皇、開化天皇(かいかてんのう)の御世。
紀元前130年、皇紀531年(開化天皇28)1月5日、御間城入彦五十瓊殖尊(みまきいりひこいにえ・のみこと)(以下、ミマキ)が日嗣皇子(ひつぎみこ)となった。
それから数日後のこと・・・。
ミマキの弟、彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)は、母の実家を訪れていた。
すなわち、姥津媛(ははつひめ)(以下、はつ)の実家、和珥氏(わに・し)の屋敷である。
同伴していた、伯父、和珥彦国姥津(わに・の・ひこくにははつ)(以下、ニーハン)と共に出迎えを受けたのであったが・・・。
はつ「はい。イマスの母、『はつ』にございます。されど、出迎えたのは、わたくしだけではありませぬよ。」
その傍らで、イマスとニーハンを出迎える者が・・・。
ニーハン「では、ここで披露(ひろう)致そうぞ。拙者と『はつ』の妹にして、イマスの妃、袁祁都比売(おけつひめ)じゃ。『おけつ』と呼んでくれ。」
おけつ「はい。わたくしが『おけつ』にございます。お初にお目にかかりまする。」
イマス「う・・・うむ。して、我(わ)が子は、何処(いずこ)に?」
おけつ「はい。では、披露致しまする。イマス様と、わたくしの子、山代之大筒木真若王(やましろのおおつつきまわか・のきみ)にございます。『つつきん』と呼んでやってくださいませ。」
つつきん「お初にお目にかかりまする。『つつきん』にござりまする。」
ニーハン「次の大王(おおきみ)となるべき皇子(みこ)じゃ。」
イマス「伯父上! 勝手なことを申されては困りまするっ!」
ニーハン「良いではないか。夢なのじゃ。願望じゃ!」
イマス「それでも、有らぬ疑いを持たれるやもしれず・・・。ミマキ兄上と、諍(いさか)いとなっては、国の一大事となりまする!」
ニーハン「そのような了見の狭いオノコ(男)が、大王になってしまうことこそ、国の一大事ではないかっ!」
はつ「ま・・・また、始まった・・・。」
おけつ「いつも、こうなるんですよねぇ・・・。」
二人が言い合っていると、颯爽(さっそう)と、一人の人物が介入してきた。
ニーハンの息子、和珥彦国葺(わに・の・ひこくにふく)(以下、くにお)である。
くにお「父上! 御帰宅早々、何ということにござりまするかっ!」
ニーハン「うるさいっ! 『くにお』は黙っておれっ!」
くにお「黙りませぬっ! イマス様の申される通り、有らぬ疑い、無用な争いを生むは必定(ひつじょう)にござりまする! 愚かしき考えは、お捨てくださりませっ!」
ニーハン「愚かしいとは、何事ぞ! それが、父に向かって言う、言の葉かっ!?」
おけつ「イ・・・イマス様・・・。今のうちに、お逃げください・・・。」
はつ「そうですね。巻き込まれぬうちに、ここを出なさい。」
イマス「さ・・・されど・・・。」
つつきん「父上・・・。我(われ)は、大伯父上の話など信じておりませぬゆえ、御心配くださりますな。早う、お逃げくださりませ。」
おけつ「そうです。『つつきん』の申す通りにございます。早うっ!」
イマス「わ・・・分かった・・・。」
こうして、和珥親子による口論の隙間を縫って、イマスは屋敷を飛び出したのであった。
イマス「屋敷を出たは良いが・・・。さて、これから、どうすべきか・・・。もう、日も暮れてしまっておるしな・・・。こうなったら、もう一人の妃のところに行くか・・・。」
悩んだ末、イマスは、最後に残った妃の元を訪れたのであった。
妃の名は、山代之荏名津比売(やましろのえなつひめ)(以下、えなつ)。
山代国造(やましろ・のくに・のみやつこ)の娘である。
ちなみに、山代国とは、京都府南部にあたる地域である。
イマス「すまぬ。『えなつ』・・・。一晩、泊めてくれ。」
えなつ「如何(いかが)なされたのです? このような夜遅くに・・・。」
イマス「う・・・うむ。いろいろあってな・・・。」
えなつ「では、いろいろついでに、私とイマス様の子供を披露(ひろう)致しましょう。」
イマス「そ・・・そうなるのか?」
えなつ「では、紹介します。大俣王(おおまた・のきみ)にございます。『おまた』と、お呼びくださいませ。」
おまた「お初にお目にかかりまする。お待たせしました。私が『おまた』にござりまする。」
イマス「し・・・しっかり、お披露目するのじゃな・・・。」
えなつ「そして、我(わ)が父、山代長溝(やましろ・の・ながみぞ)にございます。」
イマス「なっ!? 父上殿まで!?」
長溝「お初にお目にかかる。わしが、長溝や。」
イマス「夜分遅くに、申し訳ござりませぬ。」
長溝「良い良い。かく言う、わしも、来訪者やからな・・・。」
イマス「来訪者とは?」
長溝「我(われ)らの時代は、通い婚や。せやから、わしも、嫁の家を訪れているという設定になるんや。」
イマス「さ・・・左様でしたな・・・。」
えなつ「では、父上の実家は、どこになるのですか?」
長溝「わしの実家は、わしの母者の家ということになるなぁ。記録に残ってへんから、何処(どこ)とは言われへんけどな・・・。」
イマス「そうなると・・・。我(われ)の実家は、和珥の御屋敷となるわけですな?」
長溝「その通りや。せやから、イマス様の兄君、ミマキ様の御実家は物部氏(もののべ・し)になるわけやな。まあ、今は、日嗣皇子になられたんで、日嗣皇子の屋敷に住んでる設定になってるけどな・・・。」
えなつ「そういうことで、兄弟でも、同じ屋敷に住んでいないのです。」
おまた「や・・・ややこしいんですね。」
イマス「そういうモノなのじゃ。『おまた』・・・。他の兄弟に会える日も有るであろう・・・。」
こうして、作者オリジナル設定の物語を通じて、イマスの子供たち紹介は無事に終わったのであった。
つづく
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