JW281 公と私の狭間で
【疫病混乱編】エピソード33 公と私の狭間で
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
紀元前88年、皇紀573年(崇神天皇10)夏、ここは、三輪山(みわやま)の麓、磯城瑞籬宮(しきのみずかき・のみや)。
崇神天皇こと、御間城入彦五十瓊殖尊(みまきいりひこいにえ・のみこと)(以下、ミマキ)の命を受け、多くの皇族武人が集っていた。
先に紹介しておこう。
まずは、ミマキの大伯父、彦五十狭芹彦(ひこいさせりひこ)(以下、芹彦(せりひこ))と稚武彦(わかたけひこ)(以下、タケ)。
そして、タケの子、武彦(たけひこ)(以下、たっちゃん)。
つづいて、ミマキの伯父、大彦(おおひこ)。
そして、大彦の子、武渟川別(たけぬなかわわけ)(以下、カーケ)。
それから、ミマキの弟の彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)。
そして、イマスの子、丹波道主王(たにわのみちぬし・のきみ)(以下、ミッチー)。
最後に、ミマキの子、大入杵(おおいりき)(以下、リキ)である。
芹彦「皆、集ってくれたようじゃな?」
ミマキ「今日は、剣術の鍛錬(たんれん)をおこなおうと思い、集ってもらったのじゃが・・・。」
タケ「大王(おおきみ)? よもや、あのことを話されるのか?」
ミマキ「その『よもや』にござる。」
たっちゃん「ついに腹を括(くく)られたのですな?」
大彦「ん? どういうことなのかな?」
カーケ「勿体(もったい)ぶらずに言ってほしいんだぜ!」
ミマキ「うむ。剣術の鍛錬は口実・・・。まことを申せば、皆に聞いてほしいことが有るのじゃ。」
イマス「何か大事が有ったのでござりまするか?」
ミマキ「うむ。作者の陰謀により、わしは先んじて知ってしもうた。叔父上の・・・武埴安彦(たけはにやすひこ)こと安彦叔父上の謀反(むほん)をっ!」
大彦・カーケ・イマス「ええぇぇ!?」×3
ミッチー「なっ!? 叔父上が!?」
リキ「おとん! そりゃホンマでっか? 大叔父上が、そないな大(だい)それたこと、するとは思えへんのやけど・・・。」
ミマキ「わしも信じたくはなかった。されど、これは紛(まご)うこと無き謀反なのじゃ。」
イマス「して、我(われ)らに、叔父上を討てと仰(おお)せになりまするか?」
ミマキ「つまりは、そういうことじゃが、今はまだ、安彦叔父上も機会を窺(うかが)っているところ・・・。謀反を起こしてはおらぬ。」
大彦「謀反を起こさないように、説得すれば良いと思うんだな。」
芹彦「何を申すか、鼻垂(はなた)れ! 『記紀(きき)』に謀反を起こしたと書かれておるのじゃ! それを変えてしまえば、歴史改竄(れきしかいざん)となるであろうがっ!」
大彦「で・・・でも、安彦は、それがしの弟なんだな。」
タケ「皆、立場はそれぞれじゃが、同じ家族であることには変わりない。心苦しいと思う。されど、国がため、民(おおみたから)がため、私(わたくし)は捨てねばならぬっ! 公(おおやけ)に尽くしてもらいたいっ!」
ミマキ「と・・・とにかく、わしは、安彦叔父上が謀反を起こすよう仕向けることにした。」
たっちゃん「仕向けるとは?」
ミマキ「此度(こたび)、わしは、各地の民(おおみたから)を救うため、四道将軍(しどうしょうぐん)を遣(つか)わすことにした。さすれば、ヤマトは手薄(てうす)となる。叔父上は、そこを狙うはずじゃ。」
芹彦「して、ことが起これば、速(すみ)やかに人数をヤマトに戻し、安彦を討つ!」
カーケ「では、四道将軍は口実で、各地に人数を送ることはしないということかね?」
ミマキ「いや・・・。叔父上を討ち取った後、すぐさま四道に人数を繰(く)り出す所存じゃ。」
ミッチー「お待ちくだされ。此度の疫(やく)で、ヤマトも疲れ切っておりまする。人数を繰り出すは、愚策(ぐさく)ではありませぬか?」
ミマキ「たしかに・・・ヤマトは疲れ切っておる。それはつまり、他の国も疲れ切っているということ・・・。賊が暴れまわり、田畑は耕す者を失い、明日の米にも困る始末じゃ。」
リキ「賊を鎮(しず)めて、田畑を耕せるようにせい・・・っちゅうことですか?」
ミマキ「その通りじゃ。されど、それだけではないぞ。わしは、此度の四道将軍で、丹波(たにわ)を、ことごとく手中に収めようと考えておる。」
大彦「丹波にも人数? そんなことをすると出雲(いずも)が動くと思うんだな。」
ミマキ「左様。作者のオリジナル設定により、丹波と出雲が、安彦叔父上の背後で暗躍しておりますれば、それは間違いのないことかと・・・。」
大彦・カーケ・イマス・ミッチー・リキ「ええぇぇ!!」×5
タケ「大王! 丹波を手中に収める前に、出雲が動いたら、何とする?」
ミマキ「そうさせぬため、楔(くさび)を打ちまする。」
たっちゃん「うまく行けば・・・出雲は抗(あらが)う力、無くしまするな?」
ミマキ「そこが狙いよ。」
イマス「さ・・・されど、そこまでせねばなりませぬか?」
ミマキ「汝(なれ)の想いも分かる。されどな、世は刻一刻と遷(うつ)り変わっておるのじゃ。」
イマス「世が変わって来ていると?」
ミマキ「吉備(きび)では、半島の百済(くだら)からやって来た、温羅(うら)なる人物が暴れまわっておる。海の向こうでは、大きな国が生まれて来ておるのじゃ。うかうかしておったら、秋津洲(あきつしま)は、海の向こうの国に呑み込まれてしまうぞ。」
カーケ「秋津洲が呑み込まれぬよう、国をまとめるのかね?」
ミマキ「そういうことじゃ。それと、未(いま)だ、東国には稲作が伝わっておらぬ。稲作を広める絶好の機会であるとも考えておる。」
大彦「それで・・・誰をどこに遣わすのかな?」
ミマキ「それは追って沙汰致(さた・いた)しまする。今日は、わしの心意気を聞いてほしかったのでござる。また、このこと他言無用に願いまする。」
一同「御意!」×8
イマス「大王・・・。まるで、安彦叔父上が、そのように仕向けたようにも思えまするな・・・。」
ミマキ「イマス・・・。汝(なれ)も、そう思うか?」
ついに動き出したミマキ。
秋津洲は、どうなってしまうのであろうか・・・。
次回につづく