「鏡」と「剣」の話になってしまいました。
大和朝廷の全国統一 第二話 第十代 崇神天皇 ②
『日本書紀』崇神天皇紀に記される記述で最も重要なことは、この時代に新たな宗教祭祀を創始し、大和朝廷はその教化によって全国を統一していったと考えられることだと思います。
どの時代でも新しい局面が生まれるのは、何か大きな事件がおきたあとですが、このときは「疫病」が蔓延し、国の人口が半減するほどの惨状が起こったことがきっかけでした。
惨状を打開しようとして、天照大神、倭大国魂神、大物主神を祀った経緯を記し、最後に「八十万の神々を祭り、天社・国社・神地・神戸を定めた」と記しています。それによって疫病は収まり、国内はようやく鎮まりました。
そして崇神天皇は、「我が教化を知らしめたい(ひろめたい)」と言い、「四道将軍」を派遣します。
『日本書紀』崇神天皇紀には「箸墓古墳」が記されます。これは現在我々が「古墳時代」と呼ぶ時代の始まりを示す前方後円墳です。そして各地の古墳からは副葬品として「銅鏡」が出土します。
細かいことはまだわからないことも多いてすが、大和朝廷が全国を統一したこと、各地に前方後円墳が築かれたこと、天照大神が天孫 瓊瓊杵尊に授けた「八咫鏡」を起源する「鏡」というアイテムが各地の古墳から出土することなど、これらのことから3世紀の日本の姿が垣間見えるのではないかと思います。
余談ですが、「日ユ同祖論」というのがありますね。それによるとユダヤ人が日本人のルーツだそうですが、そもそも「ユダヤ人」という定義は、一神教の「ユダヤ教」を信仰する人々のことですから、もしユダヤ人が日本人のルーツなら、大チャンスであったこの画期にどうしてユダヤ教を広めなかったのか、と思います(笑)。明治時代に来日した宣教師のニコラス・マクラウドが提唱するまで、誰も自分の祖先がユダヤ人だなんて思っていた日本人はいませんし、私は今まで縄文・弥生遺跡でユダヤ教に関する遺物を見たことがありません。
崇神天皇は一神教とは真逆の、八百万の神々を祭ることを広めていったわけです。この時点で神社に現在のような社殿はありませんが、神社の原型はここに始まると言えます。原始の自然崇拝、血縁共同体(氏族)による祖霊信仰に加え、「天神」と「国神」の区分、神を祭る土地「神地」を決めること、神社の用に充てられる「神戸」という民戸定めました。そして祭祀の場であったであろう「前方後円墳」や、その祭祀に使われたであろう「鏡」という重要なアイテム。そのような一連の祭祀システムを全国に広めて国を統一したのだと思うのです。
この仮説をもとにこのシリーズ話しを展開していこうと考えています。
さて、今回はもう一つ『日本書紀』とは少し違う内容が書かれてある『古語拾遺』を紹介しておきます。
ざっと言うと、天孫降臨の際に天照大神が「この鏡と殿を同じくし、床を同じくして、みずからを浄め祝う鏡とせよ」(同床共殿)と仰せになった通りに、ずっと宮中で祀られていた天照大神の神霊である「八咫鏡」ですが、崇神天皇の御代になって(疫病が流行し)神威に対する畏怖の念が生じました。そこで護身用の鏡と剣を新たに造って、本物は皇女 豊鍬入姫命に命じて天照大神と草薙剣(天叢雲剣)を倭の笠縫邑に移し祀らせることにした、ということです。
今も皇居の賢所には「鏡の写し」が祭られていて重要な儀式の奉告が行われますし、新しい天皇が践祚(天皇の位を受け継ぐこと)されたときは、この時の「剣の写し」が用いられ「剣璽渡御の儀」がおこなわれます。そういう意味でこの『古語拾遺』の記述は大変貴重なものなのです。
鏡作坐天照御魂神社
社伝によれば、「崇神天皇の御代、八咫鏡を皇居に祀るのは畏れ多いとして笠縫邑の地に祀り、さらに別の鏡を作ることにした。崇神天皇六年九月三日にこの地において日御像の鏡を鋳造して天照大神の御魂とし、これが今の内侍所に安置される八咫鏡である。」と言います。大和の鏡作郷ですから、この地で作られた可能性は高いと思います。
※社号に「天照御魂」とつきますが、天照大神のことではなく、天照国照彦火明命を祀る神社ですのでご注意ください。以前の記事は↓
天照大神の神霊である鏡は豊鍬入姫命から垂仁天皇の皇女倭姫命に引き継がれやがて伊勢に鎮まりますが、日本武尊のエピソードの中で、日本武尊が東国へ向かう際に叔母である倭姫命のところに立ち寄り、そこで草薙剣を授かりますので、『古語拾遺』に記される通り、その時まで草薙剣は八咫鏡と一緒にあったと考えるのが自然です。
それぞれの伝承が各地に残っています。この「大和朝廷の全国統一」と並行して、「景行天皇と日本武尊」を近日書き始め、順番を戻してその後に「神功皇后の伝承地を巡る旅」を再開します。そして合間に「倭姫命物語」をはさんでいこうと思っています。週一ペースで投稿して多分半年以上かかると思いますが(笑)。気長にお付き合いくださいませ。
最後までお読みいただきありがとうございました🙇