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宇宙人との受験数学対策の思い出。

私は札幌生まれだが、育ちは札幌ではない。
札幌の隣町、人口約2万人の田舎育ちである。

田舎の小学校、中学校で学び、高校は札幌市内の高校に入学した。札幌新川高校という高校である。いわゆる中堅進学校。文武両道を掲げる、よくある地方のそこそこの公立高校。


学力的に、どれくらい”そこそこ”かというと、


毎年、北海道大学には学年で10人程が合格。

北海道2番手の文系国立大学である
小樽商科大学には20人程が合格。


そのほかの地方国立大学にも、そこそこの人数を輩出するものの、北海道の私立大学である北海学園大学や北星学園大学に大多数が進学する。

北海道を出て、
都内の大学に進学する人間がおよそ2割。

東京大学、京都大学に進学するような宇宙人は、我が札幌新川高校にはいなかった。だれもそこを目指すことすらしない。目指す者がいたとしたら、大騒ぎである。


人それぞれの置かれた環境で、”そこそこ”の定義の違いはあるとは思うが、私にとってはこれがそこそこ。


この記事は、そんな”そこそこ”の公立高校に
不時着した宇宙人と、平凡な私の物語…。




◾️大学受験生だったときの私

2009年冬、受験生だった私は、センター試験(現 共通テスト)を終えて、2次試験対策に入っていた。


私は北海道大学を志望する受験生であり、センター試験ではそのボーダーラインを辛くも突破した。あとは2次試験である。対策をしなければならない。


数学の筆記が大の苦手だった。



なので、そこそこの札幌新川高校が誇る、数学の受験対策授業を受けることにした。先生は原口先生という50代男性の先生で、彼も北海道大学を卒業している。うってつけの先生だ。

高校内では、どの先生よりもわかりやすく、
ダルマのような見た目をした飄々とした先生。


その数学の対策授業を受ける生徒はなぜか、
私と、もう1人しかいなかった。


もう1人の名前は、出来杉くん(仮名)。

高校入学時から常に総合点で学年トップ。

その座を明け渡したのは、わずかに3回。

出来杉くんは、キリリとした顔立ちをしていて、成績優秀、スポーツ万能、おまけに高校1年生から付き合っている彼女がいた。全てにおいて負けている私は、その受験対策の授業の初回、うろたえた。


(ちょっ、出来杉くんと1on1じゃねーか)


授業が始まるまで、教室で一緒に勉強する。

私の机には北海道大学の赤本。

(で、出来杉くんはどこを受けるんだろう?)

彼の机に視線を向けると、赤本が置いてある。六法全書並みの厚み、あの赤い本に黒々とした文字でこう書いてあった。




「京都大学(文系)」




ぐはっ! なんてことだ!

京都大学志望の宇宙人と、北海道大学志望の地球人が同じ講義を受ける不思議。待って、札幌新川高校にはもう手に負えないんじゃないの出来杉くん。



◾️始まった宇宙人との1on1

数学の対策授業を受ける。

原口先生がガラガラとやってくる。

数学の2次試験の問題を解説してくれる。

授業を受けながら、私は思った。






なるほど、さっぱり分からん。





センター試験は基礎的な知識を問う問題が多いから、なんとかなった。ところが2次試験となると勝手が変わる。

急ごしらえの火縄銃でなんとか戦えていたのが、次のステージでは、トマホークミサイルを持った敵が出てくるのだ。



隣の席にいる出来杉くんをチラリと見る。



なんか、授業をウンウン聞いているゾ。



待て、待て、待て。



なんで出来杉はトマホークにも対応できるんだ。
こっちは火縄銃なのに。おかしいやろ。




◾️試される平凡な地球人代表

高校数学の図形問題の基礎知識として、
こんな単語が出てくる。

・内心
・外心
・重心
・その他
細かいことは、ここではどうでもいい


なにやら複雑な計算式を用いて、図形問題を解くのだが、原口先生がダルマのようなお腹をでっぷりさせて、私たち2人にこう質問してきた。


「あのね、この問題なんだけどね、内心かな? 外心かな? と思っても解けないの。じゃあ、この点Pは一体なんだと思う?」


質問されても私は全く分からない。

「え、内心? そもそもなんでしたっけ?」

なんて口が裂けても言えない。

隣には京都大学を受験する出来杉がいるのだ。


私が分からない、という顔で白目をむくことしかできずにいると、隣にいる出来杉(とっくに呼び捨て)が、シャープペンを持って、空中に図形を描いて考え出した。そして答えた。





「これは…傍心(ぼうしん)ですね」




原口先生は言った。

「そ! これは傍心!だからこのように〜」







は? 全く分からん。






なんだ「傍心」って。



※この赤い点が「傍心」らしい

消しゴムを出来杉にぶん投げようかと思った



そんなの教科書でも黄色チャートでも青チャートでも出てきた記憶がないぞ? 出来杉、なぜお前はこのワードを知ってるんだ?

で、なんで当たり前のように「傍心ですね」って答えられるんだよ。キリッとすな。空中に図形を描くな。なんやねん、傍心って。



◾️宇宙人はどこに飛んでいったか?

さて、結局私は、北海道大学の前期日程できちんと落ちた。きちんと。で、後期日程で小樽商科大学へセンター試験の点数を提出し、それでなんとか入学することになる。

出来杉くんは?



出来杉くんは後期日程で北海道大学に入学した。

京都大学は落ちてしまったらしい。



ちょ、ちょっと待て。





え、日本ってどんだけ広いの?



と思わせてくれたことを、
この季節になると毎年必ず思い出す。


<あとがき>
出来杉くんは本当に素晴らしい男の子でした。とりあえず受けるなら北海道大学でしょ、と思ったチンケな私を叩きのめしてくれたのが出来杉くんです。自分がいる環境が全てだと思ってはいけないんだなぁ、井の中の蛙、大海を知らずとはまさしくこれだなぁ、と思った淡い記憶です。最後までありがとうございました。

◾️今こそこの記事だ!と読んだけど何も回復しない


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