
ロイヤルファミリーも召し上がる、私の妻の革命ビビンバ。
「誕生日はビビンバが食べたい。プレゼントもケーキも何もいらないから、ビビンバだけがあれば、俺はそれで幸せ」
妻は料理が得意ではないと言う。
それでも妻が作るビビンバは最高だ。全国民とは言わないまでも、私が住む札幌の人には全員食べてほしい。
妻が何か料理を作ってくれるたびに、私は「おいしい! おいしい!」と言って食べる。多少、味にムラがあって「今日はそれほどでもないかも?」という日でも「うまっ!」と言って食べる。妻が作るものなら、たとえタンポポが入っていても、黒曜石が入っていても、カエルが入っていても
「…う~~~~ん、うまいっ!もう1本!」
と言って食べる。
私はたぶん、おいしい式食べ物吸引機になっている、そんな気がする。
女性は共感してくださるかもしれないが、妻が作る凝った料理よりも、冷蔵庫の余り物で適当にお肉を炒めたものの方が、男性の「おいしい!」の声はでかい。私もその例に漏れない。
妻は頭を抱えるんだけど。
毎日料理を作ってくれる妻が、時々(と言ったら怒られる)ずば抜けておいしい料理を作ることがある。そういう革命的料理を私が食べると
「これは今まで食べたものランキングでベスト20に入る代物だ!」
と言って、もぐもぐ食べる。妻は「こんなものが? 単純な男だこと」と呆れている。
我が家にビビンバが初めて登場した時も、上記のセリフを言った。
「こ! これは! 今まで食べたものランキング1位を更新するかもしれん! もうススキノに居酒屋をオープンした方がいいんじゃないか!?」
そう言うと妻は笑うから、
「いや!これは傑作! もしも天皇皇后両陛下が我が家を訪れたら、このビビンバを出しておもてなししよう!」
「え? 『陛下、ビビンバです』って?」
「そう! 陛下も絶対ニッコリだ!」
「ビビンバは陛下に失礼でしょ」
「いや! 陛下もビビンバは召し上がるはずだ!エリザベス女王にも召し上がってほしかったなぁ!」
「いいから食べなよ」
妻が作るビビンバは傑作だ。
天皇皇后両陛下に出しても恥ずかしくない。
…いや、うそ、恥ずかしい。
さすがにビビンバは…恥ずかしい。
「陛下、国民はこれが1位なんですよ」
と陛下の侍従の方が言ったら、しっとりと陛下は泣かれるかもしれない。陛下を泣かせる国民はいやだ。
…
誕生日まであと1週間くらいになった時、もしかすると妻が夕食の献立に困っているかもしれない、と思って冒頭のセリフを言った。
「誕生日はビビンバが食べたい。プレゼントもケーキも何もいらないから、ビビンバだけがあれば、俺はそれで幸せ」
ここだけの話、ビビンバは素人目に見ても調理が簡単だと思う(と言ったら怒られる)。
料理が得意ではない妻に、凝った料理を作ってもらって困らせたくもないので、革命的な味がする妻お手製のビビンバを「これが最高」と言えば、妻の負担も減るってもんである。まさに旦那の鏡だ。いや、ここでそう言っちゃうあたり、旦那の鏡ではない。ちなみに、ビビンバは本当においしい。
…
誕生日当日。
31歳から32歳になった日。
「素数から偶数になったなあ」なんてことは妻には言わずにnoteに書く。幸い読者さんのご理解も得られて、私の小さな小さな数学プライドも満たされた。
▶︎誕生日に書いた素数の記事はコチラ
が、誕生日の日、私は風邪をひいていた。
どうやら季節の変わり目、札幌は最高気温が20℃だと思ったら、翌日は最高8℃。これはもう何を着ていいものか判断がよくつかない。32年も札幌に住んでいるのに、どうして学習しないんだろう。さらに、連日働きすぎた。疲労が溜まっていたのである。
「なーんか、具合が悪いなあ」
妻にそういうと、
「え! 具合が悪いか! 熱は? 夜は?
ビビンバどうする?」
妻はビビンバの準備をしてくれていた。
皇室に献上してもおかしくない味のビビンバ。
ウィリアムとヘンリーを仲直りさせても不思議ではない味のビビンバ。
(ここまでで「ビビンバ」何回言った?)
せっかく準備してくれた妻の手前「ビビンバはいらないや」なんて、たとえ、どこぞの国の捕虜になったとしても言えない。
(…ほわんほわーん)
「助かりたいなら『ビビンバはいらない』と言え!」
「ヒィ!いやです! ビビンバが食べたいです!」
全身をボコられ、素っ裸にされてたとしてもビビンバはいらないとは言えない。
だから妻に言った。
「ビビンバだけは食べる!」
妻は「その意気だ!」とは言わなかったけど、ビビンバの準備に取り掛かった。
のどが痛い。
全身がだるい。悪寒がする。
鼻水も出てきた。
幸い、高熱は出ていない。
37.0℃だ。ギリ平熱である。
夜になって、寒い体をベッドから運んで、食卓についた。ビビンバが出てくる。皇室に献上できるレベルのビビンバ。
ん? 量がやたら多いぞ。
スプーンをもって、ビビンバを口に運んだ。
妻お手製の革命的な味がするビビンバ。
「こ! これは! 今まで食べたものランキング1位を更新するかもしれん! もうススキノに居酒屋をオープンした方がいいんじゃないか!?」
食べた人にここまで言わしめるビビンバ。
口に入れた。
…
……
………
味がしなかった。
風邪をひいていたからだ。
私の脳内の味覚の作業員が休んでいたんだ。
「うぃ~、今日は休み!」つって。
「誕生日はビビンバが食べたい。プレゼントもケーキも何もいらないから、ビビンバだけがあれば、俺はそれで幸せ」
こう言ってしまったからには、
感想を言わねば!
妻に! 感謝を! 伝えねば!
私は気力をふり絞って言った。
「や、やっぱりうまい! ビビンバ!」
……
と、言うと妻が言ってきた。
「ケーキもあるよ」
「…ケ、ケーキ……あるんかぁ」
…
ケーキは食べなかった。

〈あとがき〉
ケーキは翌日に食べました。にしても「ビビンバ」の語感のよさったらないですね。ドドンパみたいな。思うのは、私がビビンバだと思って食べているのは本当にビビンバなのか?という疑問です。「卵かけご飯」なら全員共通の姿があると思うのですが、これが「ビビンバ」となると…。いや、きっとあれはビビンバです。今日もありがとうございました。
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