19歳で私を出産したお母さんが書いてくれた作文。
母は18歳で私を妊娠し、19歳の秋に私を出産した。父は6歳年上だから当時24歳で、どんな出会いからそうなったのか、私は聞いたことがない。
私は長男で、下には2人の妹、1人の弟がいる。全部で4人の兄妹。歳も近くて毎日楽しかった。
その代わり、父は寝ないで働いていた。日中は家にいる母も、夜になると「お掃除の仕事があるから」と言って仕事に行っていた。私を中心に兄妹4人みんなで「行かないで」と泣きながらお母さんを止めたものだ。
当時は安室奈美恵の『Can you celebrate?』がいつもかかってて、夜もテレビで流れてた。世間では名曲だけど、私はあまり好きではない。あの頃を思い出すから。
子ども4人。いま思えば、家はきっと大変だったと思う。私は子どもがまだいないので、想像もできないが、でも大変だったと思う。父も母も高卒だったから、どうやって私たちを育てきったのだろう、なんて今になって思ったり。
毎日楽しかった。家族の仲も良かった。
お母さんは毎日歌って踊ってた。
お父さんもギターを弾きながら歌ってた。
家族6人で歌ってた。
お父さんもお母さんも、絶対疲れてるはずなのに、そんな素振りを2人とも見せなかった。
お母さんはとにかく私たちを大切にしてくれて、というのは、31歳になった今だから感じるし言えるんだけど、小さい頃は全く分からなかった。
参観日も来てほしくないし、卒業式も来てほしくなかった。習わせてもらってたサッカーの試合も「来ないで」と言ってた。だけど結局、お母さんは全部に来てくれた。
こういうの、子どもは覚えているよ。
小学4年生、私が10歳の時、道徳の授業で
「自分が産まれた時のことをお母さんに書いてもらっておいで」というお母さん作文の宿題があった。A4作文だ。担任の女性の先生は「簡単なものでいいからね」と言っていたが、私は「こんな恥ずかしいものいやだなぁ」と思うと同時にいやーな予感がしてた。
家に帰ってお母さんに頼んで、書いてもらった。夜、薄い灯りのつくダイニングテーブルでニコニコしながらお母さんは作文を書いてた。お父さんが「おっ、なんだそれ」って言いながら「おっとうも書かないとダメだべや」と用紙の裏面にびっしり書きだした。
小学校4年生の私は、お母さんから用紙を受け取って、それを読みもせず先生に提出した。恥ずかしかったから。お母さんに書いてもらう宿題なのに、父さんまで書くのは恥ずかしいじゃないか。
それから何もなく、お母さん作文には
ノータッチで毎日の学校生活が過ぎる。
…はずもなく。
ある日、担任の女性の先生が言った。
「この前出してもらったお母さん作文、みーんな内容がとってもよかった!だからこれから毎日、朝の会で2人ずつ!先生がみんなの前で読むからね!」
(なんてことだ…)
私の嫌な予感は的中した!
絶対この先生は読む!予想通り!最悪だ!
それから毎日ランダムで2人ずつ、お母さんが書いた作文を先生が読み上げる。それをみんなで黙って聞く。なぜかみんな「○○が産まれた時はこんな状況で〜」とかなんか、そんな簡単なことしか書いてなかった。私なんてA4用紙の表と裏、しかも父の作文まで書いてある。
困ったなぁ…
来ないでくれ、俺の出番…
毎日そう思ってた。
そうこうしてると私の番がくる。先生は言った。「○○君の作文はなんと!お母さんとお父さんが書いてくれてます!しかも見て!こんなにびっしり!」
友だちは「おぉーーーーっ!!」と反応してる。
私は下を向いている。恥ずかしい。
先生は続けて「○○君のはチョータイサクなので、最後の日に読みます!」なんて言うからもう最悪だ。
少しずつ、2人ずつ、毎日読まれていく。
私は最後の日が迫るにつれて憂鬱になる。
何が書いてあるんだろう…。
そうして最終日。
私のお母さんの作文が読まれる日。
先生は裏面のお父さんの作文から読み上げる。みんなの前で。みんな黙って聞いている。
私は正直、聞くのが本当に恥ずかしくて、お父さんの作文の時は耳を塞いだ。お母さんの作文の時も途中までは耳を塞いでいた。でも最後の方は聞いた。なぜか?
先生の読み上げる声が止まったから。
先生は泣いてた。
聞いてる友だちは誰一人として泣いてなかったし、私はとにかく恥ずかしさと、この状況の訳のわからなさで頭がいっぱいだった。先生は泣いてて、みんな黙ってる。
先生がまた読み上げる。
最後の部分だけ、私も聞く。
何が書いてあるんだろう。
先生が泣きながら読み上げた私の母の作文。
その最後の文章。
当時10歳だった私も今は31歳。
あれから21年。まだ覚えてるしずっと忘れない。
シーンとする教室で先生は読み上げた。
「ねぇ、○○、お母さんは聞いたことがあるよ。子どもは親を選んで産まれてくるって。だからね、お母さんとお父さんを選んでくれてありがとう。お母さんをお母さんにしてくれて本当にありがとう」
10歳の頃は恥ずかしかった。
お母さんには、作文の感想も伝えていない。
でも今なら言える。書ける。
お母さん、私のお母さんでいてくれて、本当にありがとう。これまでもこれからもありがとう。
(お父さんもね)
※母は元気に生きてます。