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複素解析の寄り道(コーシー・リーマンの方程式)①

 複素解析の”寄り道”ということで、

複素解析にまつわるコラム(全3回)

の投稿を予定しています。今回は記念すべき第1回です。

 履修者・既習者問わず、復習がてらのコーヒーブレイクにピッタリな内容です。是非お付き合いください☕

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  関数 𝑓 、
《実》から見るか?
《虚》から見るか?

 例えば、実変数 𝑥, 𝑦 をおのおの2乗して足した表現

𝑥²+𝑦²

は、まぁ…ごくごく当たり前な見た目をしています。

 しかし、これを

  • 実2変数関数 𝑓(𝑥, 𝑦) と考えるか

  • 複素関数 𝑓(𝑧) (𝑧 = 𝑥+i𝑦) と考えるか

立場が大きく異なってしまうのが、数学の不思議なところです。

▶実2変数関数 𝑓(𝑥, 𝑦)


 例えば、前者 𝑓(𝑥, 𝑦) = 𝑥²+𝑦² は x-偏微分 ∂𝑓/∂𝑥 が

∂𝑓/∂𝑥 = 2𝑥

連続であるため、

「前者 𝑓(𝑥, 𝑦) は全微分可能
(単に微分可能)である」

が示されます。

※y-偏微分 ∂𝑓/∂𝑦 で考えてもよい。両方存在して、いずれかが連続で十分である。

 前者 𝑓(𝑥, 𝑦) = 𝑥²+𝑦² は「微分可能である」という良い性質を持つがゆえに、解析学における議論の対象と成り得ます。

( 𝑓(𝑥, 𝑦) = 𝑥²+𝑦² )
タテに切れば二次関数で、
ヨコに切れば真円(正円)

※縮尺に注意せよ。

▶複素関数 𝑓(𝑧) (𝑧 = 𝑥+i𝑦)


 しかし、一方で後者 𝑓(𝑧) (𝑧 = 𝑥+i𝑦) で考えると途端に主題から外れます。複素数 𝑧 の共役複素数 𝑧* := 𝑥-i𝑦 を用いると、後者 𝑓(𝑧) は、

𝑓(𝑧) = 𝑧𝑧*
( ∵ 𝑥²+𝑦² = (𝑥+i𝑦)(𝑥-i𝑦) )

と表現されます。複素数 𝑧 による等価な表現にしただけで、別に何も問題は無いはずですが、この関数は正則ではないです。

 どういうことでしょう? 常微分 d𝑓/d𝑧 は通常の微分に着想を得て、

$$
\newcommand{\d}{\mathrm{d}}
\dfrac{\d f}{\d z}\coloneqq\lim_{\substack{\Delta z\to0\\\Delta z\:\in\:\Complex}}\dfrac{f(z+\Delta z)-f(z)}{\Delta z}
$$

定義されます。が、これが 𝑓(𝑧) = 𝑧𝑧* では一意に定まらないのです。

※CR方程式でも、実軸・虚軸方向の方向微分でも示せる。

 複素解析では、常微分 d𝑓/d𝑧 が考えられる正則関数に限定して議論されるため、前者とは打って変わって議論の対象から外れてしまいました。

▶実数値関数 𝑓(𝑧) ∈ℝ


 一般に、𝑓 : ℂ→ ℝ と値域が実数に限定される複素関数は、正則ではないです(後節で簡単に示します)。

 数式的な感覚で言えば、実数にするためには共役複素数 𝑧* が欠かせず、線形性・ライプニッツ則により現れる d𝑧*/d𝑧 が不定項として邪魔をするためです。

 また、図形的な感覚で言えば、複素平面ℂから実軸ℝへの変換が、2次元から1次元へ押しつぶす変換であるためと言えます:

(複素関数 𝑓 は複素平面から
複素平面へと対応付ける)

▶コーシー・リーマンの方程式(関係式)


 では、実際に 「 𝑓 : ℂ→ ℝの正則性」に関する議論をしてみましょう。コーシー・リーマンの方程式(関係式)は、

「 𝑓(𝑧)=𝑢(𝑥, 𝑦)+i𝑣(𝑥, 𝑦) (𝑢, 𝑣 ∈ℝ) とおいたとき、

∂𝑢/∂𝑥 ≡ ∂𝑣/∂𝑦, ∂𝑢/∂𝑦 ≡ -∂𝑣/∂𝑥

※符号に注意せよ。

という恒等式が正則関数 𝑓(𝑧) 全般において成り立つ」

というものでした。

 つまりは、

「CR方程式が不成立な 𝑓(𝑧) は
すべからく正則ではない」

とも言えますね(CR方程式は正則性の必要条件)。

  𝑓(𝑧) を正則にするためには、少なくともCR方程式を満たしてくれなきゃ困るので、CR方程式を満たす 𝑓 全体から正則関数へと絞り込んでいくのが筋です。

 今、𝑓 : ℂ→ ℝなので虚部 𝑣(𝑥, 𝑦) は恒等的にゼロです。よって、

∂𝑢/∂𝑥 ≡ 0, ∂𝑢/∂𝑦 ≡ 0

という関係式が得られます。この関係式は、

「実部 𝑢(𝑥, 𝑦) は 𝑥 で偏微分しても
 𝑦 で偏微分しても恒等的にゼロだよ」

と言っているので、𝑢 ≡ const. ∈ℝ(実部 𝑢 は実定数関数)と分かります。

  𝑓(𝑧) = 𝑢 ≡ const. ∈ℝは、常微分 d𝑓/d𝑧 の定義より、

$$
\newcommand{\d}{\mathrm{d}}
\begin{align*}
\dfrac{\d f}{\d z}
&\coloneqq\lim_{\substack{\Delta z\to0\\\Delta z\:\in\:\Complex}}\dfrac{f(z+\Delta z)-f(z)}{\Delta z}\\
&=\lim_{\texttt{\tiny(略)}}\dfrac{\mathrm{C}-\mathrm{C}}{\Delta z}\\
&=\lim_{\texttt{\tiny(略)}}0\\
&=0
\end{align*}
$$

……と明らかに微分可能であることから正則です。

 従って、

「 𝑓 : ℂ→ ℝのうち、
𝑓(𝑧) ≡ const. ∈ℝのみ正則関数で、
その他の関数(例えば 𝑓(𝑧) = 𝑧𝑧*)
は正則ではない

ということが示されました。

※本来は 𝑢 と 𝑣 に全微分可能であるという条件を課して議論を展開する。

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むすび🧵


 本記事では「𝑥²+𝑦²」という素朴な表現からうかがえる、多変数解析と複素解析の違いについて触れてきました。

 その際、「 𝑓 : ℂ→ ℝの正則性」に関してコーシー・リーマンの方程式(関係式)を実際に活用して議論を行いました。

 以降のお話は、

複素表示のまま 𝑓 : ℂ→ ℝを
微分する画期的な方法(第2回

複素数ℂを係数体ℝの世界で
可視化するお話(第3回

を予定しています。お楽しみに。

おまけ

 3Dグラフの描画は Python を使いました(ソースコード):

import matplotlib.pyplot as plt
import numpy as np

x = np.arange(-2, 2, 0.2)
y = np.arange(-2, 2, 0.2)

X, Y = np.meshgrid(x, y)
Z = X**2+ Y**2

fig = plt.figure(figsize=(10,8))
ax = fig.add_subplot(projection='3d') 

ax.set_xlabel('x') 
ax.set_ylabel('y')
ax.set_zlabel('z')
plt.xlim(-2, 2)
plt.ylim(-2, 2)

ax.plot_surface(X,Y,Z, color = 'gray')

plt.show()
Mathcha🍵にて制作)
(→サムネイルの元ネタ
Canvaにて制作)

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※本記事はAmazonのアソシエイトとして
商品の紹介及び上記URLを使用しています。

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Keshitan@数学記事
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