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複素解析の寄り道(コーシー・リーマンの方程式)①
複素解析の”寄り道”ということで、
複素解析にまつわるコラム(全3回)
の投稿を予定しています。今回は記念すべき第1回です。
履修者・既習者問わず、復習がてらのコーヒーブレイクにピッタリな内容です。是非お付き合いください☕
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関数 𝑓 、
《実》から見るか?
《虚》から見るか?
![](https://assets.st-note.com/img/1736518541-OvJ2KwRLPE7dIbNf1pYQzrja.png?width=1200)
例えば、実変数 𝑥, 𝑦 を各々2乗して足した表現
𝑥²+𝑦²
は、まぁ…極々当たり前な見た目をしています。
しかし、これを
実2変数関数 𝑓(𝑥, 𝑦) と考えるか
複素関数 𝑓(𝑧) (𝑧 = 𝑥+i𝑦) と考えるか
で立場が大きく異なってしまうのが、数学の不思議なところです。
▶実2変数関数 𝑓(𝑥, 𝑦)
例えば、前者 𝑓(𝑥, 𝑦) = 𝑥²+𝑦² は x-偏微分 ∂𝑓/∂𝑥 が
∂𝑓/∂𝑥 = 2𝑥
と連続であるため、
「前者 𝑓(𝑥, 𝑦) は全微分可能
(単に微分可能)である」
が示されます。
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前者 𝑓(𝑥, 𝑦) = 𝑥²+𝑦² は「微分可能である」という良い性質を持つが故に、解析学における議論の対象と成り得ます。
![](https://assets.st-note.com/img/1736522259-UoV0f7zH5ZScjkqg6BpD2WGX.png?width=1200)
タテに切れば二次関数で、
ヨコに切れば真円(正円)
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▶複素関数 𝑓(𝑧) (𝑧 = 𝑥+i𝑦)
しかし、一方で後者 𝑓(𝑧) (𝑧 = 𝑥+i𝑦) で考えると途端に主題から外れます。複素数 𝑧 の共役複素数 𝑧* := 𝑥-i𝑦 を用いると、後者 𝑓(𝑧) は、
𝑓(𝑧) = 𝑧𝑧*
( ∵ 𝑥²+𝑦² = (𝑥+i𝑦)(𝑥-i𝑦) )
と表現されます。複素数 𝑧 による等価な表現にしただけで、別に何も問題は無いはずですが、この関数は正則ではないです。
どういうことでしょう? 常微分 d𝑓/d𝑧 は通常の微分に着想を得て、
$$
\newcommand{\d}{\mathrm{d}}
\dfrac{\d f}{\d z}\coloneqq\lim_{\substack{\Delta z\to0\\\Delta z\:\in\:\Complex}}\dfrac{f(z+\Delta z)-f(z)}{\Delta z}
$$
と定義されます。が、これが 𝑓(𝑧) = 𝑧𝑧* では一意に定まらないのです。
⠀
複素解析では、常微分 d𝑓/d𝑧 が考えられる正則関数に限定して議論されるため、前者とは打って変わって議論の対象から外れてしまいました。
▶実数値関数 𝑓(𝑧) ∈ℝ
一般に、𝑓 : ℂ→ ℝ と値域が実数に限定される複素関数は、正則ではないです(後節で簡単に示します)。
数式的な感覚で言えば、実数にするためには共役複素数 𝑧* が欠かせず、線形性・ライプニッツ則により現れる d𝑧*/d𝑧 が不定項として邪魔をするためです。
また、図形的な感覚で言えば、複素平面ℂから実軸ℝへの変換が、2次元から1次元へ押し潰す変換であるためと言えます:
![](https://assets.st-note.com/img/1737041243-cTdAWvpbSC2oLKkM61NuUxzO.png?width=1200)
複素平面へと対応付ける)
▶コーシー・リーマンの方程式(関係式)
では、実際に 「 𝑓 : ℂ→ ℝの正則性」に関する議論をしてみましょう。コーシー・リーマンの方程式(関係式)は、
「 𝑓(𝑧)=𝑢(𝑥, 𝑦)+i𝑣(𝑥, 𝑦) (𝑢, 𝑣 ∈ℝ) とおいたとき、
∂𝑢/∂𝑥 ≡ ∂𝑣/∂𝑦, ∂𝑢/∂𝑦 ≡ -∂𝑣/∂𝑥
⠀
という恒等式が正則関数 𝑓(𝑧) 全般において成り立つ」
というものでした。
つまりは、
「CR方程式が不成立な 𝑓(𝑧) は
すべからく正則ではない」
とも言えますね(CR方程式は正則性の必要条件)。
𝑓(𝑧) を正則にするためには、少なくともCR方程式を満たしてくれなきゃ困るので、CR方程式を満たす 𝑓 全体から正則関数へと絞り込んでいくのが筋です。
今、𝑓 : ℂ→ ℝなので虚部 𝑣(𝑥, 𝑦) は恒等的にゼロです。よって、
∂𝑢/∂𝑥 ≡ 0, ∂𝑢/∂𝑦 ≡ 0
という関係式が得られます。この関係式は、
「実部 𝑢(𝑥, 𝑦) は 𝑥 で偏微分しても
𝑦 で偏微分しても恒等的にゼロだよ」
と言っているので、𝑢 ≡ const. ∈ℝ(実部 𝑢 は実定数関数)と分かります。
𝑓(𝑧) = 𝑢 ≡ const. ∈ℝは、常微分 d𝑓/d𝑧 の定義より、
$$
\newcommand{\d}{\mathrm{d}}
\begin{align*}
\dfrac{\d f}{\d z}
&\coloneqq\lim_{\substack{\Delta z\to0\\\Delta z\:\in\:\Complex}}\dfrac{f(z+\Delta z)-f(z)}{\Delta z}\\
&=\lim_{\texttt{\tiny(略)}}\dfrac{\mathrm{C}-\mathrm{C}}{\Delta z}\\
&=\lim_{\texttt{\tiny(略)}}0\\
&=0
\end{align*}
$$
……と明らかに微分可能であることから正則です。
従って、
「 𝑓 : ℂ→ ℝのうち、
𝑓(𝑧) ≡ const. ∈ℝのみ正則関数で、
その他の関数(例えば 𝑓(𝑧) = 𝑧𝑧*)
は正則ではない」
ということが示されました。
⠀
⠀
むすび🧵
本記事では「𝑥²+𝑦²」という素朴な表現から伺える、多変数解析と複素解析の違いについて触れてきました。
その際、「 𝑓 : ℂ→ ℝの正則性」に関してコーシー・リーマンの方程式(関係式)を実際に活用して議論を行いました。
以降のお話は、
複素表示のまま 𝑓 : ℂ→ ℝを
微分する画期的な方法(第2回)
複素数ℂを係数体ℝの世界で
可視化するお話(第3回)
を予定しています。お楽しみに。
おまけ
3Dグラフの描画は Python を使いました(ソースコード):
import matplotlib.pyplot as plt
import numpy as np
x = np.arange(-2, 2, 0.2)
y = np.arange(-2, 2, 0.2)
X, Y = np.meshgrid(x, y)
Z = X**2+ Y**2
fig = plt.figure(figsize=(10,8))
ax = fig.add_subplot(projection='3d')
ax.set_xlabel('x')
ax.set_ylabel('y')
ax.set_zlabel('z')
plt.xlim(-2, 2)
plt.ylim(-2, 2)
ax.plot_surface(X,Y,Z, color = 'gray')
plt.show()
![](https://assets.st-note.com/img/1737041855-su3F672RfbcptCOPo9KvI5nJ.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1737042839-3ODU5hLQG2SFrbnyEtWAqmH6.png?width=1200)
Canvaにて制作)
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