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風が吹けば桶屋が儲かる?!道尾秀介『風神の手』を読みました。

一気に読みました。めちゃよかった。。。
最近の道尾秀介作品の中で一番好きかもしれない。

小説全体の雰囲気は暗いけど、小さく、美しく、光る瞬間がある

この感覚が好きで、ずっと道尾秀介さんの本を読み続けているのですが、今回も、そんな感覚がありました。感想を綴ります。
ネタバレしないように書きます。


読み進めるごとに反転する出来事の『意味』
その鍵を握るのは、一体誰なのか――

本書は間違いなく、その執筆活動の集大成である
――ミステリ評論家・千街晶之 (解説より)

遺影専門の写真館「鏡影館」。その街を舞台に、男子小学生から死を目前に控えた老女まで、様々な人物たちの人生が交差していく――。
数十年にわたる歳月をミステリーに結晶化する、技巧と世界観。朝日新聞連載の「口笛鳥」を含む、道尾秀介にしか描けない、その集大成といえる傑作長編小説。
ささいな嘘が、女子高校生と若き漁師の運命を変える――『心中花』
まめ&でっかち、小学5年生の2人が遭遇した“事件"――『口笛鳥』
自らの死を前に、彼女は許されざる“罪"を打ち明ける――『無常風』
各章の登場人物たちが運命にいざなわれて一堂に集う――『待宵月』

上上町(かみあげちょう)と下上町(しもあげちょう)という名がついた海辺の町が舞台の3つの中編とエピローグで構成されています。この町の数十年が描かれ、登場人物が交差して、物語が進行していきます。

遺影専門の写真館「鏡影館」を起点として、何人もの人の思い出がキーになっています。中編のエピソードのそれぞれに独自の嘘があり、ちょっとした勘違いや思い込みも含めて、時が進んでいきます。そして、全体を俯瞰すると、前半は情緒的な雰囲気があり、後半はミステリー的な雰囲気があります。


①前半:情緒的な雰囲気
最初の中編『心中花』から特に感じたのは、「嘘が人間らしくする」ということでした。この中編の女子高校の主人公は、嘘をついてしまいます。とっさのことです。騙す意図も、困らせる意図もありません。

嫌われたくない気持ちが7割くらい、ドキドキしてテンパってしまったのが2割くらい、まぁいっかと高をくくった気持ちが1割くらいで構成されているような嘘です。誰でも経験したことがあるような、日常っぽさを感じてしまいました。

ただ、嘘は残酷です。
嘘を一度つくと、回数を重ねることが必要になるからです。

回数を重ねると、嘘の構成要素が変わってきます。嘘をついた罪悪感が5割、正直に言いたい焦燥感が3割、ばれるかもしれない緊張感が2割くらいに変化していきます。この変化が少しずつ描かれていて、小説のおもしろさを感じました。グラデーションが小説の面白さかなって。

以下のような文も魅力的です。

あれから私は、嘘というものに敏感になり、真実以外は決して口にしないという頑な姿勢をしばらく貫き続けたが、そのうち疲れてきて、また少しくらいは嘘をつくようになった。そのたび、あとで自分を責めた。しかし、責める気持ちもだんだんと薄らいでいき、大人になってからは、嘘と折り合いをつけ、いわばお互いに和解したようなかたちで、こうしてときおり口にする。たぶん、世の中の多くの人と同じように。(p314)

嘘に多彩な意味があって、嘘を隠す行動、嘘を真実にする行動、、、と物語が進む原動力になっていて、純粋さが嘘できわだっていたような気がします。この純粋さも、冒頭で書いた「光る部分」に感じて、道尾作品の好きなところですね。

②後半:ミステリー的な雰囲気
「川の汚染」や「石を投下されること」など、別の人物の視点で語られ、前半では、謎として強く提示されていない出来事が一気に、謎として強く輪郭を表すようになります。主となる3つの中編小説は、独立しているように見えて、つながっていることがミステリー性を高めています。

多くの推理小説では、殺人事件が起きてその犯人を捜すことが大枠で、誰がなぜ、どのように殺したかが謎になりますが、本書では違います。本書では、「こうあったかもしれない過去」や「別の人から見た景色」が見え隠れすることが謎として発展していきます。
(ほんと、何が、どうなったら、このような小説が書けるんでしょうか)

3つ目の中編で、複数の時間軸で生きた人物がつながり、その裏側が明かされる段階では、ページを進める手がとまりませんでした。「あぁ、あの人ね、」って感じです。伏線が回収されたときの、スッキリ感はまさにミステリー小説を読み切ったときの感動でした。

*

本書では、小学生、女子高生、若い漁師、カメラ店の店主も、老女も登場します。そして、それぞれ嘘をつき、思い込み、勘違いをし、真実と向かい合っています。
そう、思うと、悪人は誰もいなかったように思います。少なくとも「善人であろうとした」人たちの姿がありました。

でも、本当は誰も悪くないのに、誰かが傷つていました。

傷つくことすら、運命の一部で、時間の1ピースなんです。
小説の中だけではなく、現実でもそうなっていることに気づいてしまって、「風人の手」という小説を通じて、現実がくっきりと形を持ったような読書体験でした。最近の道尾秀介作品で一番すきな小説になりました。

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少し、抽象的な話に終始してしまいました、、、、


最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。

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