圧倒的な世界観!壮大で緻密なおすすめ小説8選
時々、圧倒的な情報量のある小説に出会います。キャラクターの造形も深いですが、設定や世界観が緻密かつ壮大で、ぐいぐいと読ませるような小説です。
映画化しても2時間の枠にはおさまりづらく、そもそも映像化が難しいような作品です。世の中の大きなうねりや背景の書き込みが濃密な一方で、世界を股にかけるくらい大きな展開があったりします。SF小説とも、冒険小説とも、ハードボイルド小説ともいえそうです。
自分では変えられない大きなうねりの中で、何か小さな灯から大きな希望をつかもうとする熱を感じられるようなところが魅力です。ページ数が多く難しい設定もあって読書に馴染みのない人に紹介しづらいですが、どこかに同士がいると信じて世界観が壮大で緻密な物語を紹介していきます。
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①『Ank : a mirroring ape (講談社文庫)』
人類の進化の謎に迫るサスペンス小説です。
霊長類研究のために引き取った1頭の「特別な」チンパンジーが物語の鍵を握るのも大胆ですが、大規模な暴動を描くのも大胆です。そして、大胆さだけでなく、緻密さも際立ちます。資金だったり名声であったり研究者としての苦悩も詳細に語られます。この詳細さが光ります。
人類史、進化論という話が入り難解テーマですが、最後まで楽しく読めたのは、物語としての納得感があったからです。大胆さを緻密さが論理的に支えていて、「そういうことか!」と気づきが読み進める原動力となりました。
②『熱源 (文春文庫)』
明治期のアイヌを描く熱いお話です。
自分は一体何者なのか、自分たらしめる何か苦悩し、それでも「僕はここで必死に生きているんだ!」という姿をみせてくれます。アイヌを描きながら、ポーランドの話も展開されて意外性があります。
アイヌの生活感や文化、価値観が丁寧に描かれています。日本行政のもとで生活する息苦しさがいつもつきまといます。そして、病気で人の命が簡単に吹き飛んでしまうような環境でもあります。何も悪くないのに何でこんなに苦しいのだろうかと思うほどです。しかし、歩みを止めることなく、「守りたいもの」のために必死になれる姿は感動でした。
③『海賊とよばれた男(上)(下) (講談社文庫)』
戦後日本で活躍したカリスマを描くお話です。
戦争が終わりGHQが日本統治し、あらゆるモノが足りなくなるような時代に、思い切りのいい判断と度胸で石油で商売していきます。この小説が面白いのは、時代背景が細かく描かれなぜ石油が重要なのか描かれていること、人間関係や戦略など主人公にとっての障害物がわかりやすいことです。
難攻不落な障害が次々に現れては、なんとかクリアしていくので、中だるみせずサクサク読み進められます。戦後という時代に生きた、大器を持つ主人公の熱と世界情勢も踏まえた背景が面白い作品でした。
④『ワイルド・ソウル(上)(下)(新潮文庫)』
数十年の復讐に奔走するハードボイルド小説です。
1960年代に外務省主導で行われた移民政策が本作の背景にあります。この政策で4万人を超える人たちがブラジルに移住することになります。テーマが重厚で、緻密な説明には説得力がありました。「憎む」という感情やそれに近い感情がふってくるあたり、小説としての醍醐味があります。
歴史や実体験が個性として魅力を持ち、仲間を作るのりしろにもなります。復讐計画を実行するにあたり、何人かキャラクターが登場しますが、似た経験でも、一人ひとりキャラクターが違って生き生きとしていたのが印象的です。
⑤『百年法 上 ・下(角川文庫)』
SF小説×社会派小説です。
不老不死が現代において実現したという設定が秀逸です。生活や冠婚葬祭まで不老不死を想定された内容で、リアリティが光る作品です。100年後に死ぬことを強制されることで、なんとか逃れようとする人、受け入れる人など様々な選択をみせてくれます。
上巻は100年法に対する様々な人の考え方の違いが表現されますが、下巻は怒涛の展開が続きます。「死から逃れたい」という願いから、大きな権力にすがったり、小さな反発集団が行動を起こしたりします。「生き延びたい」という説明不要な欲求から、社会が大きく変わる様子は圧巻でした。
⑥『オリンピックの身代金(上) (講談社文庫)』
1964年の1回目の東京オリンピックをテーマにした作品です。
太平洋戦争が終わって行動経済成長期の日本で、富めるものも多くいる一方、時代の繁栄をなかなか享受できず、豊かさにありつけない人もいます。東大生というエリートがなぜ爆破を企てるのか、どう実行するのか、見ごたえがあります。資本主義とは何か考えさせられます。
また、警察VS爆弾魔というサスペンス的な対比も興味を引きます。少しずつ追い詰める警察、行動が制限された中でも強い意志をもつ爆弾魔の対比です。小説としては2つの時間軸でストーリが進むのですが、時間軸がだんだん1つに追いついていく展開も緊張感があって楽しく読めました。
⑦『ジェノサイド 上 下(角川文庫)』
人類の絶滅をテーマにした壮大なサスペンスです。
アメリカ人傭兵と日本の大学院という、一見関係なさそうな2人が軸となって話が進みます。背景には、国家とか、新人類とか大きなテーマが見え隠れし、大きな渦に巻き込まれていきます。
面白いのは、新しいものに出会った時の「リアルさ」です。興味を抱く物、拒絶するもの様々です。拒絶を選択するものに権力があった場合さらに複雑になります。不本意な形で巻き込まれる動機や、入り組んだ設定と、大きなテーマが魅力で、ぐいぐいと読ませていきます。
⑧『虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)』
SF×軍事サスペンスの傑作です。
軍の特殊部隊に所属する主人公は、世界各地で要人の暗殺任務を請け負います。暗殺任務で名前があがりつつ、いつも逃げられてしまう人物がいます。途上国で発生している大規模虐殺と関係がある人物のようです。科学が今より進みSFとしてのディールの高さも、リアリティ、キャラクターの個性、物語の展開もどれも一級品です。
SF作品の艇をなしているにも関わらず、人の内面にも切り込んだ描写が目を引き、難解な表現もあるものの、どんどん引き込まれてしまいます。文学おたくの主人公の会話には知性があり、ターゲットのジョン・ポールには信念がありました。私にとっては、最初に読んだ時の衝撃をいまだに覚えている唯一作品でした。
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話が壮大でとっつきにくいかもしれないですが、はまった瞬間、一瞬で読める作品が多いです。読書の楽しさを広げてくれました。手に取ってもらえたらうれしいです。
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。
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