自分以外の物語に触れることで救われた2020年、本ランキング
2020年の本ランキングを発表いたします。
3月までは、それこそ2019年本ランキングとおなじくらいのペースで読めていたのですが、あるタイミングからピタッと読めなくなりまして。。。 もちろんそれは言わずもがなたくさんの方が経験されたことかもしれませんが、ごたぶんにもれずわたしも経験しました。
しかしおもしろいことに、それこそそのせき止められていた期間があったからか、以降読めるようになってからはこれまでの読めない読めないと嘆いていた近年が嘘かのように全盛期並みに、貪るように読んでいました。
さらにおもしろいことに、これまでの実用に伴ったものばかりでなく、それこそ読書が趣味になった当初に読んでいたような物語を中心にした、比較的に長めのものすらも完読しつづけていたのです。
なんかもうこれこそが物語の効能というか、存在意義だよなというのを身に染みて感じました。
そんなわけで例によって2020年に出版されたものではなくて、「2020年にわたしが読んだ本」なのであしからず。
15. ふつう / 深澤直人
読み終えたあとのつぶやきでも触れているのですが、今年ほど「ふつうってよかったんだなぁ。」とおもったこともなかった。 そして並行しておもうのは、これまでの「ふつう」とこれからの「ふつう」も変わってしまうだろうし、なによりも大切なのは自分にとってどんな「ふつう」がいいのかということ考えていかないといけないということ。 この本はその視点を与えてくれると同時に、その装丁の成り立ちも含め、「ふつう」をつくるということは「ふつう」ではできない、ということも同時に突き付けられましたよね。
14. USムービー・ホットサンド ─2010年代アメリカ映画ガイド / グッチーズ・フリースクール
映画やドラマの配信プラットフォームの拡大に伴って、行けるところが増えたぶん、目的地へ向かうための地図が必要だというのが最近すごく道に迷いまくっているわたしが身に染みて感じていることです。 そういう意味ですごく有効なガイドとも言えるし、ただその中身は濃すぎてそれ自体がおもしろい文章であるとも言ってしまえる一冊です。 ホットサンドというなまえのとおり、いろんな味を詰め込みまくって無理やりホットプレスでギチギチに詰め込んだような濃厚複雑味。
13. 本を読むときに何が起きているのか ことばとビジュアルの間、目と頭の間 / ピーター・メンデルサンド
読書欲が復活してしばらくしてから目に止まった一冊。 名前の通り、本を読んでいるときに何が起こっているのかが知りたかったのですが、それを具体的にビジュアルで示してくれた非常に興味深い一冊でした。 著者が装丁家なので学術書ではなく、ビジュアルブックとしての機能性を最大限に生かしたプロダクトとしての本を楽しめる一冊でもあります。
12. 力なき者たちの力 / ヴァーツラフ・ハヴェル
いろいろおもうことがあり、それに付随するいろいろなことが起きていた2019年からやはりこういうことは歴史から学ぼうと手に取ったのが2020年2月。 図らずもすごいタイミングで、出会うべきタイミングで出会ってしまったなと感じた一冊でした。 いやもう本当、最近なんかおかしすぎない?とおもう方にはぜひ読んでいただきたい。 歴史は時と場所を変えて繰り返す。
11. 経営者の孤独。 / 土門蘭
名前から経営者の内側を探っていくインタビューだとおもっていたけど、経営者という役割についてのというよりは、その役割を背負った個人の抱える孤独と寂しさを巡る回想であるようにおもえた。 それを証拠に同じ質問をぶつけられた際の答えがまさに十人十色。 だからこそというべきか、その答えややりとりのなかでいくつか心に響いてしまう部分があった。 これは立場や視点が変わるたびに響く部分が変わる一冊ではないかとおもう。
10. 現想と幻実: ル=グウィン短篇選集 / アーシュラ・K・ル=グウィン
今年の選書に大きく影響を与えたのがサヴァ・ブッククラブによる選書です。 もうハズレがぜんぜんない! ルグウィンは存在は知っていたのですが読んだことはなくゲド戦記も観ていない状態でしたが、なんてことはない、すばらしかったです。 そして物語はもちろんなのですが、現想編と幻実編にわかれた構成や、ひとつひとつをより理解するための訳者解題ももうひとつの読み物としてとてもおもしろかったです。
9. すべての雑貨 / 三品輝起
ひとから薦められたり、フォローしているひとが薦めていたりといったことが重なって手に取ったのですが、すばらしい一冊でした。 なんと表現したらいいのかわからないのですが、雑貨を扱う著者が雑貨のことを考えに考えた先に発露してきた言葉たちが、雑貨というものが置かれている現状や行く末を示唆する雑貨エッセイのような本です。 そしてその思考の深さを物語るかのうように、この本で言われる「雑貨化」の現状は実はいろんなことに言えるのではないかとおもわされる、傑作でした。
8. FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 / ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング, アンナ・ロスリング・ロンランド
コロナ禍にはいった直後に、これまで読みたかったけど分量的に断念してきた分厚い本を読もうとおもって手に取った一冊。 結果的にタイミング的にも内容的にもいま読んでよかったとおもった傑作でした。 近年、とくに2020年において、ファクトを無視した判断や施策とそれについての評価や批評などが非常に多く広く流布される世の中で、なにが実際の数と推移なのか?と冷静に判断するようになれる視点というのは本当に大事だなと痛感しました。 本当、いま読まれてほしい一冊。
7. 岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。 / ほぼ日刊イトイ新聞
読了後おもわず呟いてしまったのですが、ミナペルホネンのミナカケルを読んだ直後のような感動をおぼえました。 ひとりの作り手として「こうありたい」と願う姿勢を体現し、言語化されてしまったことにおもわず落涙しそうになったのです。 業界とかは関係なく、作り手だとかも関係なく、仕事をするすべてのひとに響く姿勢のありかたなのではないかとおもいます。 ここまでひとりのひとの人格を表現できた一冊もない。
6. お金2.0 新しい経済のルールと生き方 / 佐藤航陽
お金のことをそもそも理解できてないよな、と感じて手に取った一冊。 お金2.0という名前ほど次を視点を与えてくれるわけではありませんが、そもそものお金の成り立ちと現在の状況からちょっと先を状態を示唆してくれる視点が非常に興味深かった。 実際にこれから起こり得ることについては結局のところ歴史が証明するしかないわけですが、俯瞰してみる視点がほしかったわたしとしては名前からの印象とはいい意味で裏切られた形ではまった一冊になりました。
5. エウロペアナ: 二〇世紀史概説 / パトリク・オウジェドニーク
歴史小説と言いつつ、整理されて順序立てた歴史は語られることはない、すごく不思議な構成なのですが、だからこそむちゃくちゃシンプルにおもしろい! というのも正しいとか正しくないとかそんなものは関係なく、ここにあるのは身もふたもない事実の断面のみ。 でも歴史のなかの一片に佇むということは、もしかしたらこんな視点なのかもしれない。 歴史が綺麗に整えられて語られるのは後から俯瞰した視点であり、渦中に目にするのはそういったなんの脈絡もなく目の前の起きている現実のみ、そういったこと体感させてくれる一冊。
4. 一人称単数 / 村上春樹
ふしぎなもので同氏が実際に体験したかも定かではない短編の物語たちは、ダイレクトにわたしが実際に体験した過去の不思議な出来事を思い出させる。 同氏のことばを借りると「ぼくらの人生にはときとしてそういうことが持ち上がる。 説明もつかないし筋も通らない、しかし心だけは深くかき乱されるような出来事。」です。 短編の効能があるとすれば、他者の物語に触れることで自身のそれをあぶり出されることではないかとおもったのです。 そういう意味ではまたしてもまんまとやられてしまったというわけだ。
3. 息吹 / テッド・チャン
SFが描き出すのはひとだということをありとあらゆる方向から突きつけてくる一冊。 とくにわたしがそれを感じたのは「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」。 仮に技術や科学が進化したとしても、人間が人間である以上は、それを扱う側の視点が変わらなければ本質的にはなにも変わらない。 ただその不完全さみたいな揺れが仮になくなったとしたら、おそらく進化もしないわけで、その人間を人間たらしめている部分に深く切り込んでいく面白み。
2. 彼女たちの部屋 / レティシア・コロンバニ
こちらはサヴァ・ブッククラブの1冊目の選書だったのですが、もう1冊目からガツンとやられてしまいましたよね。 キムチョヨプが来るまで1位爆走でした。 なんていうかもう、教科書とかに入れてほしいくらいのお話。 戦い疲れて燃え尽きてしまったひとが異なる境遇で厳しい状況に置かれているひとと触れあい、心をやわらかくしていくことで助けるべきひとたちによって救われていく様はもう、いま思い返しても視界が歪む。 いまだからこそ読まれてほしい、やさしさに包まれた一冊でした。
1. わたしたちが光の速さで進めないなら / キム・チョヨプ
サヴァ・ブッククラブのラストの選書だったのですが、最後の最後に1位をかっさられていってしまいました。 そのくらい抜群です。 息吹でも触れた通り、SFで描かれるのは結局のところひとのありようだとおもうのです。 そう意味でいうとこの一冊に収められた一編一編がもう人間のおろかしさ、やるせなさ、なさけなさみたいな負の面をやさしく描きだしてしまっていて、そしてその行為自体に不思議な懐かしさを感じるのです。 あるデザイナーさんが言ってました。 うつくしいとはなつかしいである、と。 そんなうつくしさの詰まった一冊は今年の一位のまま、昨年のストーナーと同様に生涯ベストに入ってしまいました。
ちなみにはちどりのキム・ボラ監督が映画化するそうで、なにそれ絶対間違いないじゃない。 絶対観る!
Book Cover Challenge
そういえばコロナ禍直後に7日間ブックカバーチャレンジというものがありましたね。 そこで紹介した本もこちらに。
百書店大賞2020
H.A.Bookstoreさん、双子のライオン堂さんが行われた百書店大賞2020に靴箱文庫として一冊推薦させていただきました。 下記のリンクからご覧いただけます。
2019年の結びに「2020年はひきつづき海外文学とその都度気になった本を手にする好奇心(と余裕)を持ち続けていきたいですね。」とあったのですが、図らずも時間的余裕は生まれた状態になりました。
しかし理由が理由なだけに好奇心は全然どこにも向かわないというか、さまざまなことへ無感動な状態がしばらくつづきました。
それを救ってくれたのはやはり物語でした。
自分の目の前の差し迫った目には見えない不安みたいなものを、自分以外の物語に触れることで、文字通り自分の物語を一時的におろし、一時的にはではあるけれども解決しようのない不安も一時的におろすことができたのです。
なんというか、こんなにも、だから人間は物語をつくるのか。とおもった年もなかった。
2021年もひきつづき読んでいきたいですね。
番外編
いやもうこれさいこーでしょ。 2もかっちゃった❤️