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【本要約】ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

本記事は、2001年5月に刊行されました『ザ・ゴール -企業の究極の目的とは何か』(エリヤフ・ゴールドラット著/ダイヤモンド社)の要約・解説の記事になります。本書はあまりにも強力なアイデアのため、国際競争の観点から長らく日本での発売は禁止されていたビジネスの超名著です。


アウトライン

本書の結論です。
・会社の究極的な目的とは儲けること(利益)で、それ以外は手段である
・儲けるためには3つの指標(スループット/在庫/業務費用)をみる
・「ボトルネック」が3つの指標を決める

本書のポイントです。
・物語調であり主人公として思考の追体験ができる
・具体的かつ実践的な内容が紹介されている
・抽象化することで、自分のビジネスに活用できる

本記事では、以下を重点的に要約・解説します。
・企業が目指すべき目標と指標について
・「ボトルネック」とは
・「ボトルネック」を解消する5つのステップとは

日本で17年間発禁となった理由

著者はイスラエルの物理学者であり、世界的な経営コンサルタントとしても活躍された異色の経歴の持ち主です。本書をはじめ、生産管理やサプライチェーン・マネジメントに大きな影響を与えました。

原著がアメリカで発表されたのは1984年。世界で250万部以上売れたベストセラーにも関わらず、日本での出版は2001年です。実は著者の意向で17年もの間、翻訳出版されることを禁じられておりました。

翻訳を禁じた理由について、著者は以下のように答えています。

日本人は、部分最適の改善にかけては世界で超一級だ。その日本人に「ザ・ゴール」に書いたような全体最適化の手法を教えてしまったら、貿易摩擦が再燃して世界経済が大混乱に陥る。

今では考えられませんが、1984年は日本企業が世界経済を席巻しており、これ以上の独走が起きると世界経済が崩壊すると考えられていました。裏を返すと、それだけここで紹介されている内容が強力であるということです。

当時は、本書で紹介されているTOC(Theory of Constraints:制約理論)を理解し、実践するだけで業績を大幅に改善された企業や工場が続出しました。

初版から35年以上経ちますが、今なお現場で活用される一線級の名著です。
本書は製造業を例に描かれていますが、「TOCの思考プロセス」自体は抽象化することで様々な業界、事象に応用が可能です。

時間の経過に耐えた理論というのは、本質的で強い理論だと思います。
そういった本質的な理論はAIなどが進み、より変化が激しい世の中になっても変わらず有益です。

企業が目指すべき目標と指標について

まず本書の設定について簡単に説明しておきます。

本書は製造業の工場所長である主人公が「3ヶ月以内に赤字の工場を立て直さないと工場閉鎖」ということを告げられたことから始まります。
満身創痍の主人公でしたが、かつての恩人である先生に会い、アドバイスをもらいながら工場を建て直していくという物語です。

先生は主人公に「答え」を与えるのではなく、「考えるための問い」を与えていきます。当然、この問いは読者である我々に投げかけられているもので、主人公とともに追体験ができるという構成になっております。

企業の「ザ・ゴール」とは

まず、最初に与えられた問いは「生産的であるとは何か?」という問いです。「新しいロボットなどを導入し、製造効率が上がった」という主人公に対し、それではなぜ収益が上がらず、赤字になっているのかと問います。

そして、「生産的である」とは「目標と照らし合わせて「何か」を達成したこと」を指すと教えます。つまり、生産性とは目標に向かって近づけていく行為のことであるといいます。

では、企業の「目標とは何か?」と先生は問います。
「効率よく品質の高い製品を作る」ことが目標なのか、「マーケットシャア」が目標なのか、色々と考えた主人公でしたが一つの答えに辿り着きます。

企業の目標とは「お金を儲けること」です。
お金を儲けるとは、つまり利益を上げることです。

「いや、営利団体なんだから当然でしょう」「そんなことは言われなくても分かる」という風に考えられた方も多いと思います。しかし、本書があえてこのことを最初に明記しているのには重要な理由があります。

それは、主人公が陥っていたように、現場に近づけば近づくほど、目標が細分化され、手段が目的化することが多々起きるからです。そして、手段が目的化されると部分最適のみが行われ、全体最適が損なわれるという罠に陥ります。

例えば、コスト削減を目的とした部署があり、その部署の評価が「どれだけコストを削減できたか」だとします。そうすると、この部署は「費用の高いシステムを見直す」「余分な人件費を削減していく」など、あらゆる手段を用いて、コストを削減していきます。その結果、この部署の指標である「コスト削減」は達成できるかもしれませんが、営業効率が下がり、売上が落ちる可能性があります。そうなると、「利益=売上-コスト」なので、コストが減っても売上が減れば、利益は出ません。これが部分最適の例です。

どの会社でも、この「部分最適の罠」は起こります。「与えられた指標は達成しているのに、利益が伸びない」などの課題がある組織はこの部分最適を疑うべきでしょう。

その際、「儲ける」ために必要な指標に見直す必要があります。それでは、次に見るべき指標について確認しましょう。

儲けるために見るべき3つの指標

先生は儲けるためには3つの指標を見なければならないと指摘します。
次の問いは「3つの指標とは何か?」という問いです。

・スループット:”販売”を通じてお金を作り出す割合のこと
・在庫:販売しようとするものを購入するために投資した全てのお金のこと
・業務費用:在庫をスループットに換えるために費やすお金のこと

このシンプルな3つの指標で全て図れると本書は指摘します。
ここでポイントなのが、スループットが”製造”ではなく、”販売”であるということです。これもよく陥りがちな罠で、効率よく作ったとしても、その商品が売れなければ、儲けることはできません。

製造業以外の例で考えてみましょう。例えば、マーケティングが頑張ってリードを獲得してきても、最終的に販売して購入して貰えなければ、売上には繋がりません。これもプロセスごとに縦割りな組織だとよくある話で、マーケの目標が「リード獲得」になっていると、受注に繋がる見込みの少ないリードでも無理やり取ってきたりするので、結果的にスループット(販売)は増えず、在庫(受注に繋がらないリード)と業務費用(営業が商談などに使った時間)が増えるだけになります。

また、例えば、人を解雇すると、業務費用は改善されるものの、スループットが減り、在庫が増えることが実証されています。

そのため、この3つ全ての最適化を目指す必要があります。
では、どのように最適化していくのか、ポイントは「ボトルネック」です。

「ボトルネック」とは

依存的事象と統計的変動とは

ボトルネックを説明する前に以下の2つの言葉を説明します。

・依存的事象(つながり):複数作業の前後関係
・統計的変動(ばらつき):同じ作業に発生しうる時間のばらつき

少し分かりにくいと思うので、例を挙げます。例えば、カレーを作ることを考えましょう。カレーを作る工程を大きく分けると、食材の調達→食材を切る→炒める→煮込む→完成になります。

これらの工程は一連に繋がっており、各工程はその前の工程に影響を受けます。当然ですが、食材を調達しなければ、食材を切ることはできません。これが「依存的事象」です。

また、いつも同じ時間でカレーを作ろうとしても、スーパーでにんじんが売り切りていて、買い物にいつもより時間がかかってしまったり、包丁のキレが悪くなり、いつもより切るのが遅くなるなど、毎回同じ時間で作ることができません。これが「統計的変動」です。

この2つが組み合わさることで、部分最適を追い求めても、全体の目標が満たせなくなってしまうことがおきます。どれだけ切る、炒める、煮込むの工程の無駄を省き最適化したとしても、買い物する工程が遅くなれば、全体的には遅くなります。

つまり、一つ一つのリソースを測って削っても、「統計的変動」がある限り、余分なリソースは発生するということです。

そこで、次に先生はリソースを2つに分けなければいけないと言います。
それが「ボトルネック」と「非ボトルネック」です。

ボトルネックを最大活用する2つのポイントは何か?

「ボトルネック」とは、その処理能力が与えられた仕事と同じか、それ以下のリソースのことです。
「非ボトルネック」とは、与えられた仕事量より処理能力が大きいリソースのことです。

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(参照:https://blog.uwanokikaku.xyz/entry/TOC)

例えば、各工程が分業化されているカレー屋さんを経営しているとします。
1日あたり100食のカレーを作りたいとします。

仮に調達、炒める、煮込むの工程が150食のカレーを作る処理能力を持っていても、切る工程が80食の処理能力しかない場合、このカレー屋さんが作れるカレーの量は80食です。

つまり、このカレー屋さんの作る能力を決めているのは、ボトルネックである「切る」工程になります。そのため、ボトルネックを通過する処理量を市場の需要に合わせることがポイントになります。

ボトルネックを活用するのには2つのポイントがあります。

1.ボトルネックの時間のムダをあらゆる方法でなくすこと
2.ボトルネックの負荷を減らして生産能力を増やすこと

無駄をなくす例としては、従業員の休憩時間を工夫して切る工程の停止時間を最小にすることが挙げられます。生産能力を挙げる例としては、外注し、カットしてある食材を使う、最新の包丁を購入し、切る速度を上げるなどが挙げられます。

「ボトルネック」を解消する5つのステップとは

ここまでを整理します。


・企業目標は「儲けること」であり、生産性は「目標に近づく行為」のこと
・目標達成するために見るべき指標は、スループット/在庫/業務費用の3つ
・これら3つは部分最適ではなく、全体最適されないといけない
・最適化のポイントはボトルネックを解消することである


最後に「ボトルネック」解消の5つのステップを解説します。

ザ・ゴール.002

「ボトルネック」は常に変化していくものです。
そのため、一度解消して終わりではなく、常にこの5つのプロセスを回しながら、全体を底上げしていく必要があると解説されています。

まとめ

今回は、世界的名著「ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か」を要約・解説して参りました。

最後に、総括した感想と補足としては、【自分の仕事のボトルネックを見つけよう】ということを挙げさせていただきます。

自分の仕事のボトルネックを見つけよう

本書では工場を題材に説明されており、製造業以外の方ではイメージしにくい部分もあるのではないかと思います。そのため、本記事では「カレー」という身近なものを例に挙げましたが、このように本書で解説されていることは抽象化し、あらゆる分野に適用が可能なものになっております。

冒頭に解説した通り、本書が優れいている点は答えを与えるのではなく、答えを見つけるための思考プロセスを与えている点です。よく使われる表現を借りれば、「魚を与える」のではなく、「魚の釣り方」を教えているのです。

私は本書を読みながら、「自分の会社だったらどうだろう」ということを考えながら読んでいました。この本を通じて理解したことを抽象化し、また自分の仕事に当てはめるという「抽象と具体」の行き来をすることが重要です。この思考プロセスを踏むことが、本書に限らず、本を実務に活かすためのコツだと感じました。

補足は以上になります。

世界的な名著や古典と呼ばれているビジネス書は、地域や時代に限らない不変的なことが書かれており、今でもすぐにビジネスに活かせるものになります。

ビジネスしていく上で、最新の情報を追っていくことも大事ですが、過去から学ぶ、変化の激しい時代において変わらないものを学ぶことの重要性を最近ひしひしと感じています。今後はこのような名著や古典も扱っていきたいなと思います。

あと、本書は漫画にもなっており、漫画版なら集中すれば1時間ほどで読めるのでおすすめです。

今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。

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