【読書感想文】お題に沿って一人一人のために作られた短歌が集められた歌集『あなたのための短歌集』
現代歌人、木下龍也さんの短歌集。
木下龍也さんは、短歌の個人販売をしていた。お題をメールでもらい、そのお題に沿った短歌を作り、便箋に書いて送る、というものだ。
本書は個人販売していた短歌を買い手側の許可と協力があったもののみをまとめて本にしたものだ。お題が右のページに書いてあり、そのお題を元に作られた短歌が左のページに載っている。
自分のお題に沿った短歌が便箋で送られてきた時、お題を出した側はどれだけワクワクしたことだろうか。また自分のためだけに作られた短歌を読んだ時の感動は言葉では言い尽くせないだろう。
それはさておき、本書についてもう一つ付け加えておくべきことがあるが、本書の販売において著者は一銭もお金を受け取らなかった、ということだ。
前述の通り、本書は個人販売された短歌を作ってもらった側の許可を得て集めて一冊の本にしたものであり、著者は「個人販売した時点ですでに代金は頂いているからお金は受け取れない」と言ったが、出版社側は「印税を受け取ってもらえないのは困る」となった。結果として、本書によって発生したお金は全て短歌を普及するための活動に寄付する、ということになった。
お金を受け取らないなんて欲がなくて素晴らしい、ということを伝えたいのではなく、木下龍也さんの「お題をくれた人のために短歌を作った」という強い気持ちがそうさせたのではないかと思う。
ただの短歌ではなく「あなたのための」短歌なのだ。短歌を便箋に書いて送った以上、それはもう自分のものではなくお題をくれた人のものであり、あとは自由にして欲しいという気持ちがあったからこそ、二重でお金を受け取ることを甘受しなかった……、その姿勢はビジネスマンにはわからない真の芸術家の心意気なのである。
さて、それを踏まえた上で本書から個人的に好きな歌とお題を引用する。
自分のためだけに書かれた短歌が自分以外の誰かのためになるかもしれない、と本に載せることを許可してくれた人たちも、またこれは自分のための短歌だから、と許可しなかった人たちも、どちらの人たちも作ってもらった短歌をお守りのように大事にしているのだ。
言葉がお守りになる。
たった31文字が人を守ってくれる。
言葉を大事にする人は、言葉によって守られるのだろう。
本書が誰かのお守りになりますように。