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「介護について、思ったこと」⑲「ケアに専念することによる無職」について。

 いつも読んでくださる方は、ありがとうございます。
 そのおかげで、こうして書き続けることができています。

 初めて、読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

介護について、思ったこと

 このnoteは、家族介護者に向けて、もしくは介護の専門家に対して、少しでも役に立つようにと考えて、始めました。

 もし、よろしければ、他の記事にも目を通していただければ、ありがたいのですが、基本的には、現在、話題になっていることよりも、もう少し一般的な内容を伝えたいと思って、書いてきました。

 ただ、その時々で、気になることがあり、もしかしたら差し出がましいことかもしれませんが、それについて考えたことを、お伝えしようと思いました。

 よろしかったら、読んでいただければ、幸いです。


リスキリング

育児休業中の人たちのリスキリング(学び直し)を「後押しする」とした自らの国会答弁が批判されていることについて、「あらゆる(ライフ)ステージにおいて、本人が希望したならば、リスキリングに取り組める環境整備を強化していくことが重要だという趣旨で申し上げた」と釈明した。

 もう、少し昔の話になっているとは思うのですが、岸田首相の、この発言は、批判もされたのですが、どれだけ釈明をしても、育児中は、あくまでも「休業」であって、「子育て」そのものが、個人的なことだけではなく、社会にとっても、キャリアとしても、重要なことだという視点はないように思いました。

 私自身は、子育て経験がないので、詳細を語る資格はないとは思うのですが、それでも、子育ても、介護も、「ケア」という意味では、共通しているとは思います。

 どうして、その期間が、仕事を再開しようとすると、「何もしていない期間」のように扱われるのだろう、と、以前から、ずっと思っていました。

やり直し

 2ヶ月に一度のラジオ番組があり、介護中に、この放送を知ってから、録音をして、食器を洗いながら聞くようになりました。
 それは、考えるという気晴らしの時間を与えてもらっていて、どこか感謝する気持ちもあり、テーマによっては、自分でも投稿し、幸いにも採用されることがあります。

 2023年2月の放送回は、「やり直し」をテーマにしていたので、リスキリングに関することも気になっていたので、メールを送りました。幸運にも、今回は採用され、読まれた部分を、紹介させてもらいます。

今回のテーマ「今、やり直しを考える。あなたのやり直しエピソードを教えてください」なのですが、私自身は、今、二つの「やり直し」をしようとしている過程にいます。

一つ目の「やり直し」は、自分にとっては、人生のやり直しに近いことです。

個人的なことですが、家族の介護を始めて、いろいろな事情により、仕事も辞めざるを得なくなり、30代で、無職で介護に専念する中で、家族介護者にこそ、個別で心理的な支援が必要と思うようになり、勉強を始めて、介護を続けながら、40代で大学院に入学し、50代で臨床心理士の資格を取得しました。その後、公認心理師の資格も取得しました。

大学院修了時に、一つも仕事が決まっていなかったのは、同期の中では、私だけでした。
翌年、紹介してもらったのは「家族介護者の心理支援」という希望通りの仕事で、とてもラッキーでしたが、それは月に一度だけでした。

そうしたなかで、「やり直し」に関して、拒絶感につながるような言動を何度も感じた原因は、自分の能力ももちろんありますが、それに加えて、「年齢」と、「ケアに専念することによる無職」という要素が大きかったかもしれません。なにしろ、私は、10年以上、無職で、仕事を探しているときも、介護をしているだけの50代男性でしたから、採用する側から考えれば、無関心になるのも当然かと思います。

ただ、もしも、「年齢差別」の撤廃と、もう一つ、『「ケアの経験」の重視と視点の切り替え』が行われるような社会になれば、結果として「やり直し」に寛容な構造になり、私だけではなくて、改めて「やり直し」について、もっと豊かに語れるようになるのではないでしょうか』。

(もし、ご興味があれば、このYouTubeでの「1:47:40」くらいから、このメールが読まれています。私の「ケアに専念することによる無職」に関して、その後も、出演者の方々が、とても正面から真剣に考えていただいているので、ありがたい上に、いろいろな方に聞いていただきたい内容になっていると思います)。

ケアに専念することによる無職

 たぶん、伝えたいと思う気持ちが強いせいか、この投稿したメールも、読まれた部分は一部分で、全体では、やたらと長くなってしまいました。

 以前から、「介護離職」をゼロにする、を目指しての環境整備は必要だとも思っていたのですが、それでも「介護離職」をする人は、介護保険が、サービス抑制の方向への「改正」に進んでいくような状況では、これからも大幅に減少するのは難しいとも思います。

 ですので、大事なのは、介護離職したとしても、その復職が、どれだけスムーズにいき、さらにいえば「ケアに専念することによる無職」が、ハンディキャップにならない社会にすることではないかと、以前から考えています。

 それもあって、ラジオに投稿したメールの中にも、読まれない部分には、こうしたことも書きました。

 例えば、私もそうですが、介護離職をして、仕事を再開しようとする時に、その介護専念の年月は、「何もしていない、なかったこと」として、扱われてしまい、「やり直し」に関しては、より不利になってしまいます。

 これを解消することが、家族介護者支援として大事な要素だとも思っています。

介護というキャリア

 もちろん、こうした点については、指摘している専門家もいます。

たとえば、ある人は面接で「介護をしている」と言ったことでどこからも採用されませんでした。また、ある人は介護に専念していた期間に関して、「このブランクに、あなたはなにを会得しましたか?」と面接官に尋ねられたそうです。
「介護をしていた。それだけで精いっぱいで他のことをする余裕などない」と介護者誰もが大声で言いたいところでしょうが、世間一般の介護に対する理解は、まだまだ進んでいません。「単なる休職中」の認識なのかもしれません。
 実は介護はいろいろな立場の人たちが否応なしに絡んでくるので、そうした人たちを調整するマネジメント能力が問われるし、養えます。また、接する人たちに要介護者に代わって説明するプレゼン能力も必要です。
 介護をするだけで立派なビジネススキルが身につくし、逆にそうしたスキルが介護に大いに生かされる。もっとこうした点にも注目してほしいし、介護をひとつの「キャリア」と評価してもいい気がします。

介護で身についたこと

 このことに関しては、かなり重なり、繰り返しになるのですが、投稿したメールでは、読まれない部分に、私も、このように書き加えていました。

ただ、介護の年月で、身についたことは、いくつもあります。

 例えば、「対面する相手に主体性を預けること」ができるようになりました。それは、現在の心理士(師)として面接やカウンセリングを行う際の「クライエント中心療法」とかなり近い感覚でもあると思っています。

 また、「いつ終わるか分からない緊張感」に関しては、それに適応できないと、介護を続けることはできません。その能力は、コロナ禍になって、いつまで続くかわからない緊張感の日常に対しての適応に役立ったように思います。
2018年に、19年間に及ぶ介護生活が終わっていましたので、それからほどなくして、また似たような心理状態になるとは思っていませんでしたが。

 私は、子どもがいませんので、詳細を語る資格はありませんが、子育てという「ケア」にも、その経験を通してでしか身につかない能力は、数限りなくあると思います。
 問題は、それらの力をビジネスにつなげる可能性もあるのに、そのことが真剣に考えられていないせいで、子育ての期間のリスキリングが語られるなど、ビジネスにとっては「なかったこと」のような扱いをされている事だと思います。

「ケア」というものの軽視は、社会的に今も力のある中高年男性が、その経験がほとんどないことから来ているのだろうと推測しますが、どこかで、微妙に腹立たしい思いにはなります。それでも、そうした視点の切り替えによって、今後の社会のあり方が、より多様性を重視した豊かな方向に行くのではないかとも思っています。

 この「介護によって身についたもの」といった発想は、姑息というか、介護そのものをキャリアとして捉える、といった視点の方を重視するべきかもしれませんが、少なくとも、「ケアに専念することによる無職」の時間を、「何もなかったこと」にしない。それについては、これからも考えなくてはいけないことだとは、思っています。

 今回は以上です。



(他にも、介護に関して、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしく思います)。



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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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