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『「介護時間」の光景』(73)「電話」。9.1.

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。

 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

 いつも、このnoteを読んでくださっている方は、ありがとうございます。おかげで、こうして記事を、書き続けることができています。

 この『「介護時間」の光景』シリーズは、介護をしていた時間に、どんなことを考えたのか?どんなものを見ていたのか?どんな気持ちでいたのか?を、お伝えしていこうと思っています。個人的な経験にすぎず、細切れの記録になってしまいますが、それでも家族介護の理解の一助になれば、と考えています。

 今回も、古い話で申し訳ないのですが、前半は、20年前の「2001年9月1日」のことです。
 後半に、今日、「2021年9月1日」のことを書いています。

2001年の頃

 個人的なことですが、私にとっては、1999年から介護が始まり、2000年に、母は長期入院が可能な病院に入院したのですが、私は病院に毎日のように通い、家に帰ってきてからは、妻と一緒に義母の介護を続けていました。自分が心臓の病気になったこともあり、仕事は辞めて介護に専念せざるを得ない状況でした。

 自分が、母の病院に通っても、医学的にプラスかどうかは分かりませんでした。母の症状も急に悪くなったり、それで、もう戻らないと思ったら、再び、コミュニケーションがとれるようになったりと、波があり、余計に疲労しました。

 でも、通わなくなって、また意思の疎通がとれないままになったら、と思うと、怖くて、通い続けていたのが、2001年の頃でした。

 入院当初は、それ以前の病院の医療関係者に、かなりの負担をかけられていたこともあり、白衣などが怖く、最初は、うつむき加減で通い続けていました。新しい病院を、まだ信頼しきれていませんでした。

 それでも、毎日のように、記録はつけていました。

2001年9月1日

『昨日、写真展に行って、昔から知っている喫茶店にも行って、さらには、一昨日は、前の病院とのトラブルがあり、それは、私から見たら、医療ミスとしか思えず、だから、そのことについて何とかしたくて、それが、ちょっとだけ進んだ。あとは、雨どいのことも解決し、いろいろと少しだけ気が軽くなった。

 でも、心臓は少し重い。不安にはなる。

 午後4時30分頃に病院に着く。

 今日は防災の日で、だからなのか、阪神大震災の話がすぐに出てきた。

 テレビで放送していたのかもしれない。

 ただ、最初に病院に着いたとき、いつものように横になっていないで、ベッドに腰をかけていて、それは元気なのかもしれないけれど、ちょっと気になった。

 午後4時45分、急に立ち上がって、トイレへ。
 10分後に戻ってきた。

 午後5時8分に、またトイレへ。
 すぐに戻ってくる。

 5時27分にトイレへ。5時30分から夕食だから、すぐに出てくる。

 午後6時5分に食事が終わる。すぐにトイレへ行って、5分で戻ってくる。

 夕食時に、いつも着替えて、荷物を持って、「出口は?」と聞いてくる患者さんは、出身地に「帰りたい」と言っているそうだ。

 最近、入院した高齢の男性。「よー」と叫ぶ。「ちょっとおいで」と声をかけるので、そのことを注意されている。そういう声のかけ方は良くない、といったことを言われていた。
 窓際の席に、うなだれるように座っている男性がいる。誰かに教えてもらったのだけど、元・シェフらしい。

 母は、午後6時15分に、またトイレへ行って、すぐに戻ってくる。 午後6時23分に、またトイレへ。

 午後6時35分に、またトイレへ行き、そのトイレを別の人が使っていて、だから、さらに別の場所のトイレまで歩いて行く。

 10分に一回はトイレに行っている。
 本当に多いな。と思う。

 増えると、また症状が悪くなってくるのではないか、と微妙に不安になる。

 午後7時頃、病院を出る。
 秋の虫の声が強い』。

電話

 いつものように夜の7時頃に病院を出ると、出た瞬間に、周りは林のせいもあるだろうけど、暗い道を歩いて、とても強い秋の虫の声に囲まれたままで、移動しても変わらない。県道に合流するまで、その囲まれた感じは続いた。

 道を渡って、また畑にはさまれた道を歩いて、近くの病院へ来た。ここから送迎バスが出る。

 病院の入り口にある公衆電話でいつも家に電話をするのだけど、今日は珍しくすでに使っている人がいる。こういう場所にある独特のせっぱつまった気配。他の事を考えさせないような、ある意味ではとぎすまされた日常と離れていく空気が、その人の周りにあるのが分かる。

「おとうさん、あぶないのよ」。

 そんな話をしている中年女性。そこから少しだけ距離をとって、おそらくその女性の親戚らしい5〜6人がほとんどしゃべらずに集まっている。

 やっぱり、独特の集中力が漂っている。確実にいつもの生活とは違う時間のスピードが、そこに流れている。「ああ、ここは病院なんだ」と当たり前の事を確認するように思う。

 午後7時20分発の送迎バスが来て、そこに乗り、席に座って、少し高い位置から見ていたら、いったん病院の奥へ消えた中年女性が戻ってきて、また電話をしていた。
                
                    (2001年9月1日)


 その後、そのような時間はずっと続き、2007年に母は病院で亡くなった。それから、義母の介護は続いて、その時間の中で、臨床心理士の資格も取得し、介護者相談も始めた。2018年の年末には、義母が103歳で亡くなり、介護生活は、急に終わった。昼夜逆転になったリズムを戻すのに思った以上の時間がかかり、そのうちにコロナ禍になってしまった。


2021年9月1日

 気温が急に下がった。
 それだけで、夏が終わる気持ちが、より強くなる。

 曇りがちで、空の色が濃くなっている。
 家の前は通学路にもなっていて、高校生が多く歩いていて、それだけで明らかに活気が違っていて、昨日までが夏休みだったと、改めて気がつく。
 
 だけど、その新学期さえ、素直に迎えられないような状況が続いている。

柿の木

 庭の柿の木から、緑のままの実がいくつも落ちてきている。
 それを拾った妻が、心配そうに上を見る。
 
 道路のところに落ちたら、というもっともな不安だったので、柿の木を切らないといけなくて、それを考えると、どこまで登って、高枝切りバサミをどう使って、そして、どの枝を切って、それをどこにおろすか、みたいなことまで、私も上を見上げながら、思っていた。

 この前、一本太めの枝を切ったのだけど、それ以上、高いところにあるのを切れるだろうか。あの時の、切った後の、思った以上の枝の重さに、自分の腕も持っていかれそうな怖さがあって、それを思い出し、あとは、法律が変わるらしく、家に関する事務的な手続きが必要かどうかを確認する作業も含めて、なんだかやることが多くて、できるのだろうかと不安になる。

 さらに柿の木を見上げていたら、青いだけでなく、すでに色づいている柿の実も見つけた。
 確実に秋が近づいているようだ。

カップラーメン

 この前、カップヌードルが定番だけで8種類あることを知り、せっかくだから、全部を一度は食べてみようと思い、妻と一緒に1種類ずつ食べ始めて、あと、1種類になった。

 最後は、「味噌」なので、少し気温が下がってから、ということになっていたのと、柿の木を見上げながら、いろいろとやらなくちゃ、と不安と焦りに表情が曇っていたので、食器洗い担当の私に気を使って、というのもあり、妻は、昼食を、カップラーメンにしてくれた。洗い物が減るからだった。

 初めて、カップヌードル「味噌」を食べたのだけど、これまで食べてきたラーメンの味噌味とは違っていて、新鮮だった。妻がサラダを作ってくれて、おいしい昼食になった。

 食べている間は、録画したテレビドラマを見ながら、楽しい時間だった。

政局のニュース

コロナの新規感染者が、先週の同じ曜日に比べて1000人以上、減りました。

 昨日の、ニュースでは、そんな言い方をしていて、抵抗感があった。

 まだ、東京都内では3000人近く、新規感染者がいて、重症者も300人に迫って、亡くなった人は15人いる。

 そんな中でも、解散をいつするか?総裁選はどうなるか?
 そういうニュースが出てきたらしく、政治家は、選挙で当選することが何より優先され、それ以外は、どうでもいいのだろうか、といった気持ちになり、なんだかうんざりする。

 今までのコロナ対策の失敗を認め、きちんと謝り、これ以上、死ななくてもいい人が死なないように、専門家の意見も本当に聞きながら効果的な対策を早急に取り始める。その上で社会が壊れないようにすることを決断し、覚悟し、責任を持って、明確な言葉にすることから始めるだけで、得られるものも国民へ与えるものも、大きいはずなのに、どうして、首相という立場にいる人が、大きな権限がありながら、それをできないのだろう。

 それだけでもやってくれれば、こんなに、不安だけの毎日になっていないと思う。



 それだけでも始めていれば、社会に、こんな怒りが渦巻かなくても済んだかもしれない。




(他にも介護のことをいろいろと書いています↓。よろしければ、読んでいただければ、ありがたく思います)。


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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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