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『「介護時間」の光景』(111)「ホーム」。5.31.

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。おかげで、こうして書き続けることができています。

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

「介護時間」の光景

 この『「介護時間」の光景』シリーズは、介護をしていた時間に、どんなことを考えたのか?どんなものを見ていたのか?どんな気持ちでいたのか?を、お伝えしていこうと思っています。

 それは、とても個人的なことに過ぎませんが、それでも家族介護者の気持ちの理解の一助になるのではないか、とも思っています。

 今回も、昔の話で申し訳ないのですが、前半は「2001年5月31日」のことです。終盤に、今日「2022年5月31日」のことを書いています。


(※この「介護時間」の光景では、特に前半部分は、その時のメモをほぼそのまま載せています。希望も出口も見えない状況で書かれたものなので、実際に介護をされている方が読まれた場合には、気持ちが滅入ってしまう可能性もありますので、ご注意くだされば、幸いです)。


2001年の頃

 ずいぶん前の話ですみませんが、1999年に母親に介護が必要になり、私自身も心臓の病気になったので、2000年に、母には入院してもらい、そこに毎日のように片道2時間をかけて、通っていました。仕事もやめ、帰ってきてからは、義母(妻の母親)の介護をする毎日でした。

 入院してもらってからも、母親の症状は悪くなって、よくなって、また悪化して、少し回復して、の状態が続いていました。

 だから、また、いつ症状が悪くなり会話もできなくなるのではないか、という恐れがあり、母親の変化に敏感になっていたように思います。

 それに、この病院に来る前の病院で、いろいろとひどい目にあったこともあって、医療関係者全般を、まだ信じられませんでした。大げさにいえば外へ出れば、周りの全部が敵に見えていました。

 ただ介護をして、土の中で息をひそめるような日々でした。それが2001年の頃でした。

 それでも、毎日のようにメモをとっていました。

2001年5月31日

『妻と一緒に病院に行った。
 自分の心臓のところが、ずっと気になる。

 午後4時20分頃に病院に着く。いつもと同じようにしている母。
 「ごはんはいい」と少し拒絶するように言い張る態度も、いつもと一緒だし「お風呂は入る。毎日入る」と主張するように言うのも同じだった。

 その一方で、「ごはんは、待っていればいつか来るのよ」と急に穏やかさを見せている。

 だけど、時々、ちょっと会話がかみ合わなかった。少し怖かった。

 「〇〇さん、昼に息子さんが来たんだって」
  そんな話題を向けると、答えは早かった。
 「え、起きないんだもの」
 
  よく分からない話になってしまった。
 
 ずっと心臓が気になる。まだ治らない。がっかりする。これから一生かと思う。

 午後6時30分頃、食事も終わり、少し早く病院を出たのは、帰りに妻と一緒にラーメン屋に寄りたいと思っていたからだった。少し遠回りだったけれど、行きたかったところへ、いつもと違う路線に乗って向かう。

 ずっと同じことばかりを繰り返してきたから、妻が来てくれる時くらい、少し違うことをしたかったのだと思う』。

ホーム

 病院の帰り。一緒に行ってもらった妻と少し寄り道をした。
 このあたりの沿線は、なぜかラーメン屋が多く、雑誌で見た若い店主の店に行こうとして、少し遠回りだけど、違う方向への駅に降り、駅から歩いたら、スープが終了して閉店だった。また駅に戻る。

 若い、たぶん20代になったばかりに見える青年が、スニーカーをはいて、ワイシャツにノーネクタイの格好で、ホームの公衆電話で淡々と大きい声でしゃべるのが聞こえてくる。電車は、まだ来ない。話も終わらない。

 鹿児島に帰りたい。
 会社行って、走って、誰ともしゃべらない。
 何ヶ月か、わかる?
 お母さんは、分からないよ。
 おなかすいたら、食べるでしょ。
 甘えじゃないよ。 

 大きめの声で淡々とした調子もずっと変わらないで、いつ終わるか分からないように続いていた。電車が来たから私たちは乗ったけれど、青年はまだしゃべっているようだった。

 ホントに明日の朝まで、ずっと終わらないんじゃないか、と思えるような話し方だった。

                   (2001年5月31日)


 それから、その生活は続いたが、2007年に母が病院で亡くなり「通い介護」も終わった。義母の在宅介護は続いていたが、臨床心理学の勉強を始め、2010年に大学院に入学し、2014年には臨床心理士の資格を取得し、その年に、介護者相談も始めることができた。

 2018年12月には、義母が103歳で亡くなり、19年間、妻と一緒に取り組んできた介護生活も突然終わった。2019年には公認心理師の資格もとった。昼夜逆転のリズムが少し修正できた頃、コロナ禍になった。


2022年5月31日

  昨日は出かけて、少し気持ちも変わったけれど、今日は、また雨が降って、少し気温も低くなって、また気持ちが沈みがちになる。

故障

 風呂場の風呂桶はかなり古くなって見るからにボロくはなっているのだけど、今も貧乏なので、とにかく使えるだけは使いたいとおもっている。

 風呂はハンドルを回して、火をつけて、スイッチでシャワーとカランを切り替えて、お湯を出したり、あとはお風呂を焚くのもそのダイヤルというようなもので全部を操作している。

 それが、日曜日の夜に、妻が不安そうに、水が漏れると伝えてくれた。

 いつもはハンドルを「0」に戻せば火も消えるし、当然だけど、カランからもシャワーからも水もお湯も出ない。
 それが、「0」に戻しても、ポタポタと水が出て、止まらなくなった。

 少しだけ、その装置をいじろうとしたけれど、中はガス関連の機械だから怖くて、あまりバラバラにすることもできず、結局は、風呂がまのガスの元栓を閉めて、ポタポタは止まらないので、夜寝る前に、外へ出て水道の元栓も閉めた。

 その前になべなどに水を溜めて、朝方は使えるようにしたけれど、そういうことをしただけで、非常時の気持ちになって、少し緊張する。

 その翌日に、このフロがまを取り付けてもらったガス会社に電話をして、そんなに危険な故障ではないことを知り、少し安心はしたが、今日の午後に修理に来てもらうようにお願いをした。

 なんだか緊張する。

 風呂おけの掃除をして、そこにポタポタと垂れるようにして水をためるようにしたから、漏れることはそれほど気にならなくなったけれど、今度はあまりにもたまらないので、風呂おけが漏れているのではないか、という新しい不安まで出てくる。

修理

 今日、少し廊下の掃除などもしたのだけど、午後1時過ぎに、修理の人が来てくれる。

 作業をしていて、結構大変そうなのはわかり、中を開けて、そして、すぐに言ってくれたのは、中のある部品がダメになっていて、それを交換すれば直るはず。ただ、3万円くらいかかります、と言われ、ただ、それ以外に選択肢もないので、お願いするしかないのだけど、その部品を取り寄せるのに時間がかかるので、到着次第また連絡する、ということで、どうでしょうか。という話になる。

 今日は直らなかった。

 ただ、お風呂自体は、いつもと同じように使っても大丈夫と言われたので、ちょっと安心もする。妻は、銭湯に通うことも覚悟していたそうなので、よりホッとしたようだ。

 それでも、お風呂のことを巡って、ちょっとケンカになる。
 気持ちはザラザラする。

タバコ

 今日、家の窓から見て、すぐそばの道路にタバコを吸って、ただ立っているだけの男性がいたそうだ。それを妻が気にしていて、もっと長く立っていたとしたら、私にも様子を見てもらいたいと思っていたのだけど、そのうちにいなくなったらしい。

 時間がたって、妻が出かけ、帰ってきた後に、さっきはケンカしてしまったけれど、さらにもう少し話せて、何となくお互いに落ち着いた。

 それで、気持ちも少し穏やかになったこともあって、その男性が立っていたことについて、その場所に立ってみる。右側は、マンションの植栽と、目の前はイチョウの並木と、そして、左側は私たちが住む家は古い塀で、その上に柿の木があって、だから、その場所に立つと緑で囲まれているような感覚になり、もしかしたら、ちょっと落ち着くようなポイントになっているかもしれない。

 そんな話を妻とした。その対策のために、そこから見えるウチの塀に、大きい顔写真でも貼れば違うのかも、とも言ったけれど、それは、変な家になってしまうかもしれない、という話題にもなった。

曇り

 雨は止んでいる。乾いている洗濯物もあったので取り込んで、今日はあきらめていた洗濯も始められた。

 庭の草花にも、まだ雨が残っているけれど、少し日がさすこともあった。

 昨日はあれだけ気温が高かったのに、まだ不安定さが続くのだろうか。



(他にもいろいろと介護のことを書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。



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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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