天才と精神医学(4): 天才はどこで生まれるか?〜精神科医が天才の出身地について解説〜
皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。
シリーズ「天才と精神医学」も今回で第4回目となります。
第1-3回目までは天才の創造性・創造力の源について紹介してきましたが、少しおさらいをすると、天才の創造力の源泉は妄想(パラノイア)、コンプレックス、気分の3タイプに分類されると解説しました。
そして創造力の源泉には一種の副作用的な問題をそれぞれ抱えていることも指摘しました。
こうしてみると天才も大変ですよね...😖
それにしても天才たちが生まれ育った環境って、一体どのような感じだったのでしょうね(何か共通点があるのかも...)。
そこで今回はちょっと精神医学とは離れるかもしれませんが、「天才の出身地」について解説したいと思います。
この記事をご参考にしていただき天才の出身地で生活すれば、読者の皆様の子孫から天才が生まれるかもしれませんよ。
【世界で最もIQの高い国は?】
"天才"と聞いて最初に思い浮かべるのはIQではないでしょうか?
IQとはIntelligence Quotient (知能指数)の略であり、人の知的能力を表す数値です。
臨床ではウェクスラー成人/児童知能検査(WAIS/WISC)がIQを測定するために使われますが、国別で比較する際にはWorldwide IQ Testという評価方法が用いられます。
同テストはフィンランドの企業Wiqtcom Inc.が開発したテストで、年齢、学歴、性別、後天的な知識には左右されず、その人の知能や認知能力が分析対象となるそうです。
そして2024年に実施された調査によると、なんと日本はIQ第一位だそうです!
スゴイよ日本🇯🇵!
数字の羅列では少しわかりにくいので、IQ分布を緑色のグラデーションマップでイメージしたデータを見てみましょう(図1:資料1より小生が作成しました)。
このデータを眺めるとIQは東欧州、西アジア、東アジアで高いことがわかりますね。
...ということで、天才(IQが高い人)は東欧州、西アジア、東アジアに多いはず...!😤(ドヤ)
この読者の多くは日本で人なので、皆様の子孫から天才が生まれる可能性は他国に比べれば高い...かも知れませんね。
↓IQテスト、やってみますか?
【ノーベル賞が多い国はどこ?】
さて、国別IQを見て「納得!」と思った方、素直すぎですね...😅
ご存知のようにIQは知能の一部しか評価しておらず、"高IQ = 天才"とするにはちょっと無理があります。
そこで少し切り口を変えて、世界の天才分布を見てみましょう。
たとえば"ノーベル賞受賞者"…、それは人類の発展に寄与する偉大な発見をした人々なので、彼らを「天才」と呼ぶことに異論を唱える方は少ないと思います。
ところが同じノーベル賞でも「天才」を論じる場合には注意が必要です。
例えばノーベル文学賞は選考員の好みが、ノーベル平和賞はその時々の政治が影響するので「天才」を正当に評価することは困難です(経済学賞は米国独占でこれまた意味がない)。
ということで、自然科学の領域に限定してノーベル賞受賞者の多い国について考察したいと思います。
図2は人口あたりのノーベル賞受賞者数を赤色のグラデーションマップで示した図です(100万人あたりのノーベル賞受賞者数 x100: この図は資料2より小生が作成しました)。
ご覧のように、欧米が中心ですよね。特にヨーロッパでは北部にノーベル賞受賞者が多いように見えます。
日本は人口が多いので100万人あたり(x100)の受賞者数は欧州のそれよりは少ないようですね(残念)。
...ということで、皆様も北部欧州に移住したら皆様の子孫から天才が生まれる可能性が高まるかも...?
↓以前、書いた記事です。ノーベル賞とチョコレートの不思議な関係…。
【日本でノーベル賞が多いのは何県?】
先ほどのデータでは、日本のノーベル賞受賞率はそれほど高くはありませんが、日本国内における分布って気になりませんか?
...ということで、日本のノーベル賞受賞者について分布図を作ってみました。
自然科学に関する日本人受賞者は合計24名、そのうち根岸英一博士のみが満州出身なので合計23名のデータをお示しします。
その結果、東京4名、愛知4名、大阪3名、京都1名、奈良1名、兵庫1名、富山1名、北海道1名、愛媛、静岡1名、鹿児島1名、山梨1名、埼玉1名、福岡1名という結果でした。
そして各県の現在の人口でそれぞれの受賞者数を割って数値をグラデーションマップで示します(図3: 資料3より小生が作成しました)。
ご覧のように、東日本より西日本にノーベル賞受賞者が多いようですね。
特に東海地方、近畿地方にノーベル賞受賞者が生まれやすいように見えます。
...ということで、皆様も日本なら東海地方・近畿地方に移住したら皆様の子孫から天才が生まれる可能性が高まるかも?
↓未読ですが、子供達によいかも?
【ヨーロッパで天才が生まれる地域はどこ?】
天才の出生地について、"IQ"、"ノーベル賞"というやや俗っぽい観点から調べてみましたが、今度は過去の天才研究を紐解いてみましょう。
ドイツの精神医学の泰斗 Kretschmer Eの「Geniale Menschen (傑出人: 邦題「天才の心理学」)」によると欧州における天才の出生地は...
北方人種*とアルプス人種**の混交地帯(フランスの北半分、オランダ、ドイツの大部分、北部〜中部イタリア)に集まるそうです(図4)。
前者は Kretschmer Eの性格分類における「分裂気質」を、後者は「循環気質」を有するものですね(詳細は「指導者と精神医学(5) "戦国三英傑" 織田信長・豊臣秀吉・徳川家康を精神医学的に考察!」)。
この分裂気質に親和性が高い天才の代表は哲学者であり、たとえばロック、ヒューム、デカルト、カント、ショーペンハウワーは北方地帯の生まれです。
一方、循環気質を有する天才のとしては音楽家が挙げられ、バッハ、ヘンデル、シューマン、ヴァーグナー(以上ザクセン=チューリンゲン地方)、ハイドン、モーツァルト、シューベルト(以上オーストリア)らはアルプス人種の多い地域出身です。
特にKretschmer Eは北方人種の優位性を重視し、
と評しています。
そのKretschmer Eが"天才の出身地"の具体例と傑出人をそれぞれご紹介しましょう(ドイツのみですが)。
ザクセン地方(ドイツ): ルター、ライプニッツ、レッシング、フィヒテ、オットー・ルートヴィッヒ、ニーチェ
ヴュルテンベルグ地方(ドイツ): ヴィーラント、シラー、ヘルダーリン、ヘーゲル、シェリング
フランケン地方(ドイツ): デューラー、グリューネヴァルト、クラナッハ、ペーター・フィッシャー、フォイエルバッハ
...まぁ、Kretschmer Eはドイツ人なので自国贔屓になるのは仕方ないのでしょうかね...😅
【アシュケナジムユダヤ人と天才の関係】
さて、いろいろな角度から「天才の出身地」について論じましたが、天才を語るときにユダヤ人を外すわけには行きません。
ユダヤ人の天才と言えば…、科学者であればアインシュタイン、オッペンハイマー、ノイマン、ボーア、ワインバーグ、音楽家であればメンデルスゾーン、マーラー、バーンスタイン、ボブ・ディラン、ビリー・ジョエル、ビジネスであればロスチャイルド、ゴールドマン、ビル・ゲイツ...、いずれも皆さまご存知の方ばかりですよね。
ちなみに精神医学においてもユダヤ人の影響力は多大であり、フロイト、アドラー、カーンバーグ、ロンブローゾ、ライヒ、コフートなどなど、ビッグネームがたくさんおります。
ユダヤ人の中でもアシュケナジムユダヤ人にはエリートや天才が多いと言われております。
アシュケナジムユダヤ人はディアスポラ(パレスチナ以外に住むユダヤ人)の中でも東欧やドイツに住むユダヤ人です。
Kretschmer Eの肩を持つわけではありませんが、やはりドイツは天才を産む土壌を持っていたのでしょうね。
ところで、なぜユダヤ人に天才が多いのか...、疑問に思いませんか?
心理学者の宮城音弥の著書「天才」によるとこの問いについて興味深い2つの考察がありました(文献4)。
1つめの考察は、犯罪心理学の開祖チェーザレ・ロンブローゾを引用したもので、ユダヤ人は精神病者の割合が高いため天才が生まれやすい...、という考察です。
確かにロンブローゾの時代から1世紀近く経過した論文によると、ユダヤ人はカトリック教徒、プロテスタント教徒よりも鬱病になる率が高いと報告がありますが(文献5)、残念ながらユダヤ人遺伝子 x 天才 x 精神疾患の三者の関係を科学的に証明した論文はありません。
2つめの考察は、1つめのよりも納得できるものでそれはユダヤ人の職業選択の制限です。
ご存知のようにユダヤ人は迫害人種であったため、政治家、官吏、軍人など国家公務員の道が断たれておりました。
要するに、ユダヤ人は科学、芸術(そして金融)というある意味"平等"な分野に能力を集中する他なかったのです。
その限られた職業の中で、強烈な劣等感を持ちながら努力し続けた結果、ユダヤ人から天才が生まれた...のでは、と宮城氏は考察しております。
確かに米国における被差別人種であった黒人も職業差別に苦しみ、"スポーツ"や"音楽"といった限られた世界でしか活躍の場が許されなかったが故にマイケル・ジョーダンやマイケル・ジャクソンなどの大天才が誕生しましたよね。
↓マイケルのドキュメンタリーです!
【鹿冶の考察】
いかがだったでしょうか?
天才の出身地について解説しましたが、とどのつまり特定の「人種」が他人種と混結する...、というのが天才を産む一つの条件のようです。
つまり天才が生まれるのは「場所」というよりも、他人種との混交という「機会」が重要と言えますね。
冒頭で...、
...と言ったことは申し訳ありません!😖
天才を生み出すには天才の出身地に住むだけでは不十分で、そこにいる"特定の人種と子孫が残せたら皆様の子孫に天才が生まれるかも知れません"が正しい表現ですね(すみません)。
<美女と天才>
完全に余談になりますが、似たような話として美男美女が生まれる地域は混血が多いという学説があります。
例えば混血の多い東欧、コロンビア、ベネズエラ、ウクライナ出身の方は美女が多いことで有名ですよね(ミスコン優勝の常連国も含まれております)。
"混血に美人が多い"という経験則は社会学、認知科学等の観点からも検証されており、遺伝的にヘテロ接合型(遺伝子型が異なる対立遺伝子からなる状態)であるほうがより異性としての魅力が増すことが証明されております。
例えばヨーロッパ人(イギリス人)とアフリカ人(ギニアビサウ)で行った実験では、両集団を混合させた顔の方が単一民族の顔よりも好まれることが分かりました(文献6)。
同様の研究報告は数多くあり混血により美男美女が生まれるというのは概ね事実のようです。
つまり天才同様、美男美女という外見的優位性も混血が重要なのです。
それにしても天才や美男・美女に混血が多いのはなぜでしょうか?
それは生物にとって遺伝的多様性はその遺伝子を残すのに有利に働くからです。
ヒトを含め生物は変化していく環境に適応することが求められますが、その際に単一の性質をもった集団は急激な環境変化が起こると絶滅してしまいます。
一方、様々な性質を持った集団では環境変化があっても一部は生き残る可能性があるので絶滅はしにくくなります。
例えばその集団全体が"寒さに弱い"という均一な性質を持っていた場合、気候変動による寒冷化で種は全滅します。
しかし、寒さに弱いだけでなく、寒さに強い、暑さに強い...、などなど色々な性質をもつ個体がいる集団の方が急激な環境変化があっても全滅は免れる...、ということなのです。
すなわち、種が多様性を望むから天才・美女という付加価値をつけた...、という意味よりもむしろ多様性の結果、生き残った個体の形質を天才や美女と呼んでいるに過ぎない...と(極論ですが)小生は考えます。
ダーウィンの進化論でも、「最も知的なもの、最も強いものが生き残るのではない。最も適応できるものが生き残る」と言いますが、その通りだと思います。
↓美女はメンタルも強いのでしょうかね…?
<日本から天才は生まれなくなる...?>
翻って我が国の現状を見るに、日本(人)の将来が心配になってきました(余計なお世話かも知れませんが)。
ご存知のように日本は単一民族国家(特定の民族だけで95%を超えると単一民族国家と呼びます)であり、あまり他人種が交わらない環境にあります。
これは"日本が排他的"という批判ではなく、地形的要因(島国)であることが主な原因であり加えて1億人以上という大きな市場を国内に有するため、あえて海外から人を呼んだり、あるいは海外に出なくてもどうにかやっていけるとう事情があるためと思います。
資源のないこの島国において平均IQが高いこと、ノーベル賞受賞者数が多いことは本当に素晴らしいことであり、日本民族の優位性を示しているように見えます。
しかし、"種が多様性を求めている"といことが真実であれば、今のままでは日本民族は絶滅するかも知れません。
ご存知のようにバブル経済後、日本は"失われた30年"と言われるように全く成長しておりません。
日本人学生の留学生数(大学・大学院)も2004年をピークに減少していると言われており、グローバル人材が求められる世界からみると日本だけ異質に見えます。
日本から世界を驚かせるイノベーションがなかなか生まれなのは、このように多様性の獲得がうまくいっていない為なのでは...、と小生は危惧しております。
【まとめ】
【参考文献など】
1.World Population Revie: smartest countries 2024
2.Nobel Prize Awards in Science Per Capita
3.日本人のノーベル賞受賞者: wikipedia
4.天才. 宮城音弥, 岩波新書,1966
5.Vulnerability of Jews to affective disorders. Levav I et al., Am J Psychiatry, 1997
6.Mixed-ethnicity face shape and attractiveness in humans. Little AC et la., Perception, 2012