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犯罪と精神医学(3): 金閣寺に放火した男の精神鑑定

こんにちは、鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

皆様は、小説「金閣寺」を読んだことがありますか?

「金閣寺」は三島由紀夫の長編小説であり、彼の代表作と言える”傑作"です。

小生は三島由紀夫の作品が大好きなのですが、この「金閣寺」もお気に入りの一つです。

ネタバレになりますが、以下が小説「金閣寺」のあらすじです。

貧しい寺の子として育った少年は、学僧として鹿苑寺(金閣寺を所有する臨済宗相国寺の寺)に預けられる。
金閣寺ほど美しいものはない」と父から言い聞かされていた少年は想像の中でその美しさを膨らませていたが、実際に初めて見た金閣寺にはそれほど美しさを感じられず落胆する。
しかし戦争が激化し、自分も金閣寺もともに空襲で焼けるかもしれないという運命の共通性を感じ、その命の儚さから金閣寺に秘められた悲劇的な美を見出す。
戦争が終わり大学に進学した少年は、内反足の障害のあるクラスメイトの柏木と親密になり、障害がもたらす内面の屈折と人生観、そして女性に対して抱く特殊な心情を共にする。
そうした大学生活を送るうち次第に欠席が増え、寺の中での彼の評価も下がっていく。
孤独の中に墜ちていく少年が導き出した答えは「金閣寺を燃やす」というものだった。

「一分間名作あらすじ」を一部改変
https://ddnavi.com/serial/455336/a/

ところで小説「金閣寺」は実話をモデルとして書かれたことをご存知ですか?

昭和25年(1950年)7月2日に起きた、世に言う「金閣寺放火事件」です。

この事件直後、犯人である「林養賢」は、左大文字山の山中でカルモチン(*)を多量服薬し、切腹による自殺を企てたところを逮捕されます。

そして、事件の重大さ・異常性から林は精神鑑定を受けます…。

今回の記事は、「犯罪と精神医学」の第3回目として、「金閣寺に放火した男の精神鑑定書を紹介します(一部のみ紹介)。

*カルモチン: ブロムワレリル尿素。1915年に発売された睡眠薬。


図1: 焼失前の金閣寺の写真

【精神鑑定書*】

原籍: 舞鶴市

現住所: 京都市上京区金閣寺町一番地鹿苑寺

被告人: 林養賢(当時21歳)

鑑定人: 三浦百重(京都大学精神神経科教授)

鑑定事項: 本件犯行当時及びその前後における被告人の精神状態

家族歴: 父親は舞鶴市西徳寺の住職、結核のため44歳で死亡。母親は夫が亡くなったあと、弟方に寄食して農業を営む。両家に精神疾患の家族歴なし。

生活歴: 昭和4年3月19日舞鶴市東大浦にて出生。独子。小学校卒業後、東舞鶴中学に入学。3年後、入洛して花園中学に転学。このとき金閣寺の長老村上慈海の徒弟となる。1年間肺浸潤で郷里にて静養するが、再び金閣寺に戻り相国寺山内禅門学院に学び、その後大谷大学に進学。大学3年次から学業を怠るようになり、長老より叱責戒訓を受ける。友人は少なく、寺内にてもあまり話をせず。

一般所見: 意識晴明。時に俛頭するが検診には応じ、視線は空漠となることなし。問い、命令には直ちに注意を喚起し、且つこれを適当に集中持続させる。

知能: ウェクスラー・ベルビュー知能検査ではIQ116(言語119、動作113)と、平均知以上である。

感情: 軽度の憂鬱。時に何かを思い出して流涙悲嘆を現す。表情の変化乏しく、特に喜ぶ様子を見せず。

言動: 吃音を認める。着席、歩行、脱衣、所持等は敏活さを欠くが、概ね円滑。

ロールシャッハテスト: 答総数18、全体反応8、部分反応9、小部分反応2、形態反応13、色彩反応3、形態色彩反応1、運動反応1、動物反応9、動物部分4、地図1、物体1、自然3、新規反応44%、動物反応72%、良好形態反応69%、把握型G-D-Dd 継起 離緩的、体験型 B:(3Fb+1FFb) = 1:5 [回答数は減少、良好形態反応は尋常、動物反応の増加は精神分裂病に近い、体験型は情緒の軽動性を示す]

犯行理由(本人の供述):犯行動機は、1.自己嫌悪に陥った、2.美に対する嫉妬、3.金閣寺と一緒に焼死したかった、4.社会に対する反感心、5.社会の反応への興味、が挙げられる。

鑑定結果: 被告人林養賢の精神状態は本鑑定期間乃至その平生と大差なく、軽度であるが、性格異常を呈し、「分裂病質」と診断すべき状態にあったと推定される(鹿冶の補足: つまり、「責任能力あり」と鑑定された)。

*表現は当時の鑑定書の記載をもとに、鹿冶が重要な箇所を抜粋・修正しております。


図2: 焼失直後の金閣寺

【分裂病質とは?】

鑑定人であった三浦百重教授は、被告を「分裂病質」と診断します。

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