犯罪と精神医学(3): 金閣寺に放火した男の精神鑑定
こんにちは、鹿冶梟介(かやほうすけ)です。
皆様は、小説「金閣寺」を読んだことがありますか?
「金閣寺」は三島由紀夫の長編小説であり、彼の代表作と言える”傑作"です。
小生は三島由紀夫の作品が大好きなのですが、この「金閣寺」もお気に入りの一つです。
ネタバレになりますが、以下が小説「金閣寺」のあらすじです。
ところで小説「金閣寺」は実話をモデルとして書かれたことをご存知ですか?
昭和25年(1950年)7月2日に起きた、世に言う「金閣寺放火事件」です。
この事件直後、犯人である「林養賢」は、左大文字山の山中でカルモチン(*)を多量服薬し、切腹による自殺を企てたところを逮捕されます。
そして、事件の重大さ・異常性から林は精神鑑定を受けます…。
今回の記事は、「犯罪と精神医学」の第3回目として、「金閣寺に放火した男」の精神鑑定書を紹介します(一部のみ紹介)。
*カルモチン: ブロムワレリル尿素。1915年に発売された睡眠薬。
【精神鑑定書*】
原籍: 舞鶴市
現住所: 京都市上京区金閣寺町一番地鹿苑寺内
被告人: 林養賢(当時21歳)
鑑定人: 三浦百重(京都大学精神神経科教授)
鑑定事項: 本件犯行当時及びその前後における被告人の精神状態
家族歴: 父親は舞鶴市西徳寺の住職、結核のため44歳で死亡。母親は夫が亡くなったあと、弟方に寄食して農業を営む。両家に精神疾患の家族歴なし。
生活歴: 昭和4年3月19日舞鶴市東大浦にて出生。独子。小学校卒業後、東舞鶴中学に入学。3年後、入洛して花園中学に転学。このとき金閣寺の長老村上慈海の徒弟となる。1年間肺浸潤で郷里にて静養するが、再び金閣寺に戻り相国寺山内禅門学院に学び、その後大谷大学に進学。大学3年次から学業を怠るようになり、長老より叱責戒訓を受ける。友人は少なく、寺内にてもあまり話をせず。
一般所見: 意識晴明。時に俛頭するが検診には応じ、視線は空漠となることなし。問い、命令には直ちに注意を喚起し、且つこれを適当に集中持続させる。
知能: ウェクスラー・ベルビュー知能検査ではIQ116(言語119、動作113)と、平均知以上である。
感情: 軽度の憂鬱。時に何かを思い出して流涙悲嘆を現す。表情の変化乏しく、特に喜ぶ様子を見せず。
言動: 吃音を認める。着席、歩行、脱衣、所持等は敏活さを欠くが、概ね円滑。
ロールシャッハテスト: 答総数18、全体反応8、部分反応9、小部分反応2、形態反応13、色彩反応3、形態色彩反応1、運動反応1、動物反応9、動物部分4、地図1、物体1、自然3、新規反応44%、動物反応72%、良好形態反応69%、把握型G-D-Dd 継起 離緩的、体験型 B:(3Fb+1FFb) = 1:5 [回答数は減少、良好形態反応は尋常、動物反応の増加は精神分裂病に近い、体験型は情緒の軽動性を示す]
犯行理由(本人の供述):犯行動機は、1.自己嫌悪に陥った、2.美に対する嫉妬、3.金閣寺と一緒に焼死したかった、4.社会に対する反感心、5.社会の反応への興味、が挙げられる。
鑑定結果: 被告人林養賢の精神状態は本鑑定期間乃至その平生と大差なく、軽度であるが、性格異常を呈し、「分裂病質」と診断すべき状態にあったと推定される(鹿冶の補足: つまり、「責任能力あり」と鑑定された)。
*表現は当時の鑑定書の記載をもとに、鹿冶が重要な箇所を抜粋・修正しております。
【分裂病質とは?】
鑑定人であった三浦百重教授は、被告を「分裂病質」と診断します。
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