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#読書
【twilight 第11話】 年明けの工房 かもめ食堂
「親方、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
年が明けて初めての工房の朝、センセイは深々と頭を下げて親方に挨拶をした。
「おう。こちらこそ、今年もよろしくな。そんなに、かしこまるんじゃねぇよ。フツーでいいよフツーで」
普段から礼儀にはうるさい親方であるが、あまり丁寧にされるとそれはそれで居心地が悪いらしい。
「あ、そうでしたね」
折に触れて指摘されることを、センセイは
【twilight 第10話】 白髪 空き地
髪を切ったセンセイは鏡の前に立っていた。少しだけ右寄りの分け目から、一本だけ白髪がのぞいている。
よく見れば、他の髪と比べてうねうねと曲線を描いているそれ。
厳かな手つきでつまむと、引き抜こうとしてはみたがなんとなく思い改めて、そのままにしておくことにした。
「そうだよなぁ」と年齢を重ねるにつれ忘れがちな自分の年齢を、センセイは思い出していた。それについては別段の感慨もない。
ただ目の前を通り過
【twilight 第9話】鍋 宝くじ
台所に立って夕食の支度にとりかかるセンセイ。今日は奥さんの帰りが遅く、久しぶりの自炊である。
冷蔵庫を開けてみると、野菜室にしいたけ、白菜、大根、豆腐がある。
こういう時、奥さんならパパパっといくつかの料理が思い浮かぶのだろうが、レパートリーが少ないセンセイは「鍋にしよう」と、他の選択肢のことは考えもせずに、冷蔵庫の品々を手に取った。
その昔、居酒屋の厨房でアルバイトをしていたことがあるセンセイ
【twilight 第8話】余白の目立つ襖絵
「あー、もう、遅いなぁ前の車」
ハンドルを握りながら奥さんがヤキモキしている。
「大切なものでも運んでるんだよ、たぶん」
助手席でそう返すセンセイに奥さんが詰め寄る。
「何よ、大切なものって?」
「んー、たとえば、2段づくりのバースデーケーキとか」
「そんなことあるわけないじゃないの」
センセイの空想は不採用だったようだ。
ガラガラの国道沿いに立つ銀杏並木が降らせた葉が、フロントガラスを叩く。
【twilight 第7話】 リバティのノート
「あなたの個性派指数は…50!よくいるフツーの人です!」
そんなもんだろうなぁと、スマホの液晶に出た診断結果を見ているセンセイに
「50かぁ…バランス取れてるってことじゃん。いいなぁ。オレなんて85もあったよ。変わり者だって書いてあってさ、やっぱそうなのかなぁオレって…」
困り顔の向こうで得意になっているリバティ。センセイはそれに気づいている。
「オレ、もう一回やってみるよ」
とセンセイからスマ
【twilight 第5話】ター坊 月のランプ
月をかたどったランプの下に並んだ頭が2つ。カウンターの上には芋焼酎のお湯割りが置かれていたが、酒に弱い2人のコップの中身は一向に減る気色を見せない。
「まぁでも、そんなにうまくいかないよな」
一杯目に飲み終えたビールに赤らんだ顔で、そう話すター坊のこれまでの人生がうまくいっていたことは、センセイの知る限りにおいて、ほとんど無い。
「毎日、朝早くから夜遅くまで働いてさ、帰ったら寝るだけ。こんなの