6つの技術で上手くいく!先生初心者のための授業の教科書 5.提示の技術
「せっかく用意した資料を、生徒が見てくれない…」「字が汚いから板書は苦手で」こんな悩みのある先生はいらっしゃいませんか?
本稿は、私の10年間の経験をもとに授業を「する」ための基本となる技術を6つにまとめた「授業技術の教科書」の第5章です。お読みいただき、書かれている技術をマスターすれば、最低限の「普通の授業」ができるようになり、冒頭のような悩みが少しだけ減るはずです。私が本稿を書くに至った思いなどは、1.はじめにをお読みいただければ幸いです。
本章では、提示の技術について詳しく書いていきたいと思います。
【提示とは何か】
提示とは、先生が示す板書や資料によって、生徒の学習(理解、思考、行動)を助ける技術です。GIGAスクール構想によって進んだICT活用も、基本的には提示の技術の応用ととらえられるでしょう。(もちろん、使い方次第で他にも様々な活用方法があります。夢が広がりますね!)
「生徒の学習を助ける技術」ですから、生徒が学習しやすくなればよい提示だったということになり、学習しづらくなったり、学習へのモチベーションを下げてしまったりしたら、悪い提示だったということになります。
特に板書については、補足が必要でしょう。板書は提示の技術の一部であり、「生徒の学習を助ける技術」です。板書は、板書そのものや生徒のノートとして形に残るため、板書こそ授業と勘違いしてしまう先生がいます。しかし、授業で大切なのはあくまで生徒の学習(理解、思考、行動)そのものであり、それを促す先生の話術(説明、発問、指示)です。生徒にとって黒板を写すことが目的になってしまったり、先生にとってきれいな黒板に仕上げることが目的になってしまった授業は、決して良い授業とは言えません。逆に言うと、たとえ字が汚くても、生徒の学習を助けられていればよい板書だということになります。
【どうやって指示すればよいか】
指示の技術を用いる際のポイントは、次の3つです。
①見やすくする ②情報を絞る ③捨て板書を活用する
①見やすくする
黒板の文字や資料が見えないために、「もういいや」とあきらめてモチベーションを下げてしまう生徒は少なくありません。そのため、板書や資料は教室の一番後ろからでもはっきりと見えるものにしなくてはいけません。見やすく提示を行うためには、次の2つに注意する必要があります。第一に「大きく」、第二に「先生の立ち位置」です。
「大きく」に細かな説明は不要だと思います。板書の文字なら最低でも一文字が拳一個分程度、写真などの資料なら最低でもA3以上のサイズは必要でしょう。
次に「先生の立ち位置」です。せっかく書いた板書を、自分の背中で隠してしまっている先生を、たまに見かけます。そのような先生の授業では、生徒は体を左右に傾けて、必死に黒板を見ようとします。これでは学習を助けているとは言えません。ではどこに立てばよいかというと、黒板の左右の端です。常に中央の教卓に立っていると、背中で黒板を隠してしまいがちになります。中央ではなく端に立って授業をするのだ、と心がけておくとよいと思います。
②情報を絞る
板書や資料に含まれる情報は、少なければ少ないほど良いです。情報が多すぎると、生徒はどの部分を見たらいいのかがわからなくなり、「もういいや」とあきらめてモチベーションを下げてしまうからです。情報を絞るためには、次の2つに注意する必要があります。第一に「文字を減らす」、第二に「装飾を減らす」です。
「文字を減らす」ですが、板書でも資料でも、基本的に文は書かないようにします。めあてや問いを書く場合は別ですが、それ以外はすべてキーワードのみを書くくらいで丁度よいと思います。
「装飾を減らす」ですが、カラフルな板書やかわいいイラストがたくさん入った資料は一見見やすいですし、作った本人も満足できるでしょう。ですが、色が多すぎるとどの色が何を示しているのかがわからなくなりがちです。イラストが多いとそのイラストに気を取られて本当に読み取るべき内容から意識がそれてしまいます。どちらのケースも、学習を助けているとは言いがたいと思います。板書の色は、基本的には白で書いて大切な言葉は黄色という二色。資料には読み取らせたいものだけを載せて、基本的にはイラストは入れない。このくらい装飾は減らすべきです。
③捨て板書を活用する
捨て板書とは、ノートに書き写させない板書のことです。生徒は基本的に「黒板に書かれたものはノートに書き写すべき」と考えています。しかしすべてを書き写すのは大変ですし、下手をすると書き写すことでいっぱいいっぱいになり、肝心の学習(理解、思考、行動)がおろそかになってしまいます。これでは学習を助けることにはなりません。
こうなってしまわないように、捨て板書を活用します。板書をする際、「これは写さなくていいよ」と言った上で、黒板の端の方に書くのです。そうすることで、情報の共有はできるけれども書き写す負担は増やさない、ということができます。
私が捨て板書としてよく書くのは、生徒の発言のキーワードや、生徒から出た質問の内容です。捨て板書として残すことで、生徒全体とその内容を共有できます。3.発問の技術で述べた「発問フロー」の「拡声」の効果もあります。また方法として、黒板をいくつかに分割して、端の一面を捨て板書用にする、と事前にルールを決めておくのもよいかもしれません。
資料についても同じで、ノートに書きうっつすべきものなのか、その必要はないのかを、生徒に明確に伝えることが大切です。
【まとめ】
提示、つまり「先生が示す板書や資料によって、生徒の学習(理解、思考、行動)を助ける技術」を高めるには、①見やすくする、②情報を絞る、③捨て板書を活用する、の3つを意識することが大切です。