「 鈍器のようなもの 」 〜 鈍器本のすすめ ・ 2
という訳で探してみました「おうちの鈍器本」(図録・辞書系・画集類は除く)。
厚みの計測にはTAJIMAのメジャー、重量の計測にはTANITAのデジタルキッチンスケールを使っています(帯や挟まっている付録などはそのまま)。
なお、古い本は絶版になっているものもある為、リンク先にいっても買えない場合がございます。あらかじめご了承ください。
文庫化してたり分冊になってたり電子書籍になってたりするものもあるので、ご興味あらばそちらをぜひ。
前回の記事はこちらから。
新書編
……もう言うまでもありませんね。メダル総取りです。
1位・5.1cm/512g『後巷説百物語』京極夏彦(中央公論新社・C★NOVELS)
2位・5cm/570g『鵼の碑』京極夏彦(講談社NOVELS)
3位・4.6cm/581g『邪魅の雫』京極夏彦(講談社NOVELS)
他に『コズミック』(清涼院流水・講談社NOVELS)とか『高跳びレイク【全】』(火浦功・朝日ソノラマ)なんてのもありましたが、もうどれもこの方の足元にも及びませんでした(笑)。強い。強すぎる。
さすが製本会社に新しい束の技術を開発させた男。
ちなみに『邪魅』、購入した日にデパ地下で買物した際にもらった紙袋に入れていたら、帰りの地下鉄で何の前触れもなく突然袋が音をたてて破れ崩壊しました。怪異ですね。
その後、通勤のお供に持ち歩いていたらうっかり腰をいわせそうになったので、仕方ない、別の本に変えよう、と本屋に行ったところ、図書館でハードカバーで読んでいた『後巷説』が新書化していたのを見つけて買いました。腰は。
だがしかし衝撃的なことにこの2冊、見た目はほぼ変わらぬレンガ本なのに重さが全然違った。
『後巷説』、軽い!!!
当時、思わず家のTANITAのアナログのキッチン計りで計測したところ、『邪魅』は570g、『後巷説』は505gでした。なんという差(18年が経過した現在、どっちも10gほど重くなっているのは湿気を吸ったから? まさかの手垢??)。
ちなみにページ数(巻末広告等は抜き、ノンブル通りの数で)は『邪魅』が817ページ、『後巷説』は781ページ。えっっ???
一体何ゆえこんなことになるのでしょうか。紙質? 表紙やカバー素材?? もしかしてインクの量???(邪魅は二段組、後巷説は一段組なので)
なんとなく、東野圭吾『超・殺人事件』(角川文庫)所収の「超長編小説殺人事件」を思い出しました。あの理論でいくと、『後巷説』より『邪魅』の方が人気が出てよく売れる筈です。
ちなみにミステリの友との間での呼び名は「ジャミー」です。
ハードカバー(四六変型判)編
1位・5cm/860g『平家物語』古川日出男 訳(河出書房新社)
2位・4.8cm/820g『アンダーグラウンド』村上春樹(講談社)
3位・4.7cm/823g『獣の数字』ロバート・A・ハインライン(早川書房)
純粋厚さ数字では僅差ですが、ハードカバーの厚みってその名の通り表紙・裏表紙の厚さがかなり寄与してるので、そういう意味では『平家物語』圧勝です。他のよりカバーが薄いんですよ。
それも手伝ってか、ページ数がもう全然違う。『平家』905ページ、『アンダーグラウンド』727ページ、『獣』696ページ。
上の新書編でもそうですが、厚さに差がないのにページ数が爆上がりなのは、紙の技術が昔より遥かに上がってきたんでしょうね。ちなみに発行は『獣』が1984年、『アンダーグラウンド』が1997年、『平家』が2021年(5刷)でした。
薄くても丈夫で読むに耐える質の紙が日々開発されているのだろうな。製紙業者さん&印刷業者さんありがとうございます。
ちなみに『平家物語』、買うだけ買って満足して全然読んでいない。いけない。読まなくては。
古川さんで一番好きなのは『アラビアの夜の種族』(角川文庫)なんですが、コレ文庫で3冊分冊なんだけど、居並ぶ鈍器達を見てるとこんなん楽勝で1冊にできるなあと思う(笑)。3冊重ねて測っても4.3cmくらいですもん。
そういえば『豆腐小僧双六道中ふりだし』(京極夏彦・講談社)の単行本、買ってた筈なんだけど見つけられなかった。これも「どうやってつくった」と聞きたくなる形状です。
ハードカバー(菊判)編
1位・5cm/1,325g『メタマジック・ゲーム』ダグラス・R・ホフスタッター(白揚社)
2位・4.9cm/1,202g『ゲーデル、エッシャー、バッハ』ダグラス・R・ホフスタッター(白揚社)
3位・4.3cm/1,206g『紙葉の家』マーク・Z・ダニエレブスキー(ソニー・マガジンズ)
重量が1キロを超えてまいりました(笑)。
1位と2位、そりゃそうなるよねとしか。これぞまさに「殴られたら死ねる本」。
『メタマジック』が811ページ、『ゲーデル』が765ページ。
ちなみに『ゲーデル』、現在のものは2005年に出版20周年を記念して、40ページの著者序文がプラスされた版となります。そっちだったらほぼ同厚みになったのかも。
『メタマジック』の方は途中まで読んで、ちょっと間空けてしまってそのままになっている。もうどこまで読んでたのかも思い出せない。ダメである。こうして引っ張り出してきたからには頑張って読み直さなければなるまい。
『ゲーデル』はその昔、家にあったやたら大きくてつるつるの紙のカレンダーを破って、裏にちまちまとメモ書きしながら読みました。
何故本を読むのにそんなにもでかい紙が必要なのかは、読まれた方ならお判りでしょう。ものすごく楽しかった。でもこっちももう昔過ぎて記憶が飛んでるので、また読み直したいな。涼しい季節になったら(笑)。
3位の『紙葉の家』、こちら実は菊判ではありません。
紀伊國屋サイトでは「B5判(縦横25.7cm/18.2cm)」になっているけど、サイズが全然違う。縦は22.7cm、横は17cm。縦サイズは菊判と同じなのに、横が違う(菊判の横サイズは15.2cm程度)。
紀伊國屋さんは何をもってこれを「B5判」と表記したのか。本当はこのサイズは何と呼ばれるものなのか。今となってはすべてが謎です。
と言うのも、こちらもう絶版でかつソニー・マガジンズも存在しないので。
そしてもう古書での取引価格がとんでもないことになっています。とは言え、今Amazon見てみたら18,000円程度でしたが。その昔は40,000円くらいついてたこともありましたっけ。
自分は出た当初(2002年)に図書館で読んで、「これはいつか買おう」と思いつつ値段の高さに後回しにしていたところ(定価4,600円)、どうも絶版になったらしい、プレミアつき始めたっぽい、と知り慌てて古書店で買いました。かなり昔で、いつ買ったかはちょっと記憶に定かではありません。
それでも5,000円と、現在の税込価格と変わらない値段で買えましたからついています。しかも初版です(自分、中身が全く同じか、誤字脱字が修正されている程度なら何版でも全く気にしない侍なのですが、世の古書ワールドでは初版だと何故か値が高くなるよね)。
これを再出版するのは不可能に近いだろうなあ……万一できたとしても、それこそ最初の定価の倍くらいの値段になりそう。
それにしても、これ程に「こわい本」は人生で他になかなか無かった。中身についてはまた別にどこかで書き記したいと思っています。
文庫編
2位以降がかなりの接戦だったのでずらっと並べてみました。
1位・3.9cm/454g『中井英夫全集[5]夕映少年』中井英夫(創元ライブラリ)
2位・3.2cm/385g『美濃牛』殊能将之(講談社文庫)
3位・3.1cm/375g『鳥類学者のファンタジア』奥泉光(集英社文庫)
4位・2.9cm/365g『中井英夫全集[3]とらんぷ譚』中井英夫(創元ライブラリ)
4位・2.9cm/354g『双頭の悪魔』有栖川有栖(創元推理文庫)
6位・2.8cm/355g『夏と冬の奏鳴曲』麻耶雄嵩(講談社文庫)
6位・2.8cm/315g『絶望ノート』歌野晶午(幻冬舎文庫)
8位・2.7cm/349g『ドグラ・マグラ』夢野久作(社会思想社・現代教養文庫)
ほぼミステリ。さすが鈍器の名を冠するに値するジャンルです。鈍器のようなもの。文庫、2.5cm程度のものは相当数あるんですが、そこを超えてくるとぐっと減りますね。
中井英夫全集、わたしは全部は持っていないので、もしかしたら他の巻にもっと厚いものがあるかもしれない。
『夏と冬の奏鳴曲』、リンク貼ろうとして講談社のサイトで検索したら、今は「新装改訂版」なんてのが出てるんですね。知らなかった。何が変わったんだろう??
読まなくては。大好きなんですよ、『夏と冬の奏鳴曲』。
『ドグラ・マグラ』は高校生の時に買って、親に見られたらなんか言われるかも、と思春期ハートが過敏に働きカバーを取ってしまいました(笑)。捨てたのかどうだったか、もう覚えていません。まあ別に売る気は全然ないので、市場価値としては落ちるんでしょうが気にしません。
漫画編
まあそりゃ鈍器にもなるわと言うか、どっちも「愛蔵版」。A5サイズです。
他にも3cmくらいのものはあったんですけど、どうもこの厚みの横に置くと見劣りがして、今回はこの2冊だけ。
1位・5.1cm/893g『地球へ…』竹宮恵子(中央公論社)
2位・4.6cm/971g『おにいさまへ…』池田理代子(中央公論社)
全くの偶然ですがどちらも三点リーダー使いタイトル。
そしてやはり偶然ですが、どちらもアニメを先に見て買いました。『地球へ…』は映画(見たのはテレビ)で、『おにいさまへ…』は連続もの。
『地球へ…』のアニメはかなりのボリュームの漫画を大分はしょっていて、『おにいさまへ…』はそこまで長くはない原作を凝りに凝ってボリューミーなアニメに仕立てられておりました(この愛蔵版、半分くらいが『おにいさまへ…』で残り半分は別の漫画なのです)。
この『おにいさまへ…』のアニメがなんというかもういろいろ諸々すごかった。原作もなかなかですが、それを超えていた。めっちゃくちゃ面白かった。
自分は放送から数年後に友人に借りて見たのですが、当時他にも見ていた人達との合言葉は「おにいさま、涙が止まりません!」でした。
絵柄古いなあと思われるでしょうが、実はこの当時でも既に絵柄としては古めかしかった。だがそこがいい。出崎節大炸裂。
あちこちで配信あるみたいなので、未見の皆様はぜひ見てください。もうすんごいから。
第一話こちらです。タイトル『華麗なる人びと』(笑)。
まとめ
「鈍器本」発掘、予想外に楽しかった。そして本を探すのが予想外に大変で途中で力尽きた。本棚に入りきらないので、ボックスに入れてしまい込んだままのものとかが山程あって。
その辺も全部ひっくり返したら、順位が変わるものもあるかもしれない。特に文庫とハードカバー。
新書の順位は多分変わらないと思います(笑)。
今回は大垣書店さんの「鈍器本」定義の「1」の方、すなわち純粋な厚みでの手持ち本紹介でしたが、その内「2」の方での本紹介もしてみたいものです。
現時点で双方に確実に入るのは『夏と冬の奏鳴曲』。この衝撃はいまだ忘れ難い。
『獣の数字』もある意味において衝撃を受けました。「えっ、アナタその相手ともヤっちゃうの!?」て(笑)。
それでは皆様も、今は遥か遠くに想われる夜長の秋に向け、ご自宅の鈍器本を発掘&本屋の鈍器本を探索してみられてはいかがでしょう?
良い鈍器の旅を!