【超短編】物語
なんとなく嫌だ、が知らないうちに重なって、今日も誰とも話さずに帰ってきてしまった。お母さんは仕事に行っているので、この家はわたし一人だ。
窓の外の楽しげな声たちが聞こえるのが嫌で、雨戸を閉めてわたしの部屋の隅に座り、ひざにできた小さなかさぶたを眺めている。
クラス替えで、一緒になった慣れない子たち、先生、去年までの友達、いろいろなことが心の中でバラバラになって、自分でも何が嫌なのかわからない。わかるのは、一人でいると、転んだときに誰も手を貸してくれないことくらい。
もう二年生なのに、自分の気持ちを言葉にできないなんて、幼稚園生みたい。私の気持ちは、ゆっくりと海の底に沈んでいく。
ふと思い立って、本棚に手を伸ばして、リボンやお花がちりばめられている絵が多い本を手に取った。
表紙をゆっくりなでて、カラーページをめくる。魔法みたいな服屋、幸せそうに笑う女の子、おしゃれな言葉、なんといっても、すてきなドレスたち。冒険の先には、必ずハッピーエンドが待っている。
読み終えた時、時計は7時をまわっていた。海の底に沈んだ気持ちは、どこかへ行ったようだった。
まるで、本の中に悲しみを閉じ込めたみたい。
玄関の開く音が聞こえた。ただいまと声がする。
今なら、明るくおかえりが言える気がした。
Fin
素敵な画像をお借りしました。ありがとうございます。
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