川柳徒然 香の物へし折って食ふ一人者 柄井川柳の誹風柳多留四篇①
独身男性を詠ったタイトルの句のような作品を古川柳という。古川柳とは江戸時代の川柳のこと。
特別な文才がある人ではなく、一般の多くの人が創作し楽しんだのが川柳。日常生活を詠う川柳が江戸の町でなぜそんなに広がったのだろう。実際の川柳作品を見ながら考えてみたい。
江戸時代に柄井川柳が選んだ「誹風柳多留四篇」の古川柳紹介。5回のうちの1回目。
読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、前句を記す。
自己流の意訳を載せているものもあり、七七のコメントもつけているものもある。
十二月人を叱るに日を数え
84 十二月人をしかるに日をかぞへ ふくれこそすれふくれこそすれ
七七の前句は「ふくれこそすれ」。これが出題された。ふくれるのは怒られたときだと考えて五七五で創った句。
年末に怒られてふくれている。きっと「今年も後何日あると思っているんだ」と言って怒られたんだろう。
年末は「後何日だ」と叱る人
互いにあせる年の暮れの日
聞き分けもなくまた来ては蚊を入れる
107 聞わけもなく又来ては蚊をいれる (前句不明)
昔は蚊帳をつっていた。部屋いっぱいに蚊帳をはる。入るときには蚊が入らないようにうまく入らなければならない。
小さい子どもはおもしろがって何度もバッと蚊帳を開くので蚊が入ってくる。「もう蚊帳を開けないで」と言っても聞き分けもなくまたやって来て蚊帳を開けては遊んでいる。
田舎では蚊帳をつってはすぐ開ける
幼き日々の思い出ひとつ
香の物へし折って食ふ一人者
147 香の物へし折ってくふ壱人もの (前句不明)
「香の物」は「たくあん」。昔は小さく切ったものなど売っていないので、まるまる1本のたくわんがおかずとしてある。包丁を使うのも面倒くさいので、折ってちぎって食べているのが独身男。
包丁を使わず料理の一人者
腹に入れば同じと叫ぶ
とはいうものの、現代は一人用の商品が多くなった。
たくわんも一つ一つ切ったものを売っている。白と黄色と二色入りのたくわんも売っている。一人鍋もあるし他の食品も一人用のものがたくさんある。一人で生活するのに便利な世の中になった。
だからますます結婚しない人が増えるのだろう。
夜蕎麦売りいつの間にやら子をでかし
281 夜そばうりいつの間にやら子をでかし ふへる事かなふへる事かな
「増えること(ふへる事かな)」は何? 増えるワカメもあるけど、そうだ、子どもだ。子どもが増えていく。
夜そば売りは夜の商売なのに、いつ子どもを作ったのだろう。と考えた句。
忙しいときになぜだか子ができる
夫婦の時間なぜだか増える
昔は、というか、つい数十年前まで子だくさんの「大家族」がたくさんあった。
子どもはたくさん産まれるけど、それが全部育つわけではない。たくさん子どもが死んでいた。産まれる前に死産となる率も高かった。
今は死ぬことが少なくなった。子どもをたくさん作る必要がなくなったので、子ども自体の数も減ってきた。
一人者は増えるし、兄弟が少なくなる。そんな世の中になってきた。
人を増やすことに異次元の金を使うよりも、少ない人数でこの星の中でどう生きるかを考えるべきではないだろうか。
江戸の古川柳はまだまだ続く。
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