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前期試験をやってみた②ー失敗は成功のもとと思えたら悪くないだろうー

第①回に続き、前期試験の報告②です。

今回、子どもたちは「論説」にチャレンジです。

では、試験内容の公開!

二ホンカワウソの復活を模索する活動の記事(2013.2.14朝日新聞)を中心に、複数の情報(ウイキペディアの情報、ジュニアアエラのオオカミ復活の記事)と比較したり、関連付けたりして考えられるように構成したテキストです。著作権によって、ここに現物を載せられないのが残念ですが、A3サイズにぎっしりの情報が詰まっています。(こういうものの公開や、著作権について詳しくご指導くださる方を探しています!勉強させてください!)

テキスト内容のあらすじ

「二ホンカワウソは絶滅種。人間の手による自然破壊や乱獲によって絶滅した。亜種のユーラシアカワウソを自然界に放って復活させよう。研究している施設も多くある。亜種の放獣は国際的にも認められており、海外でも事例がある。DNA研究もされている。」

「日本の現在の生態系に影響を与える可能性がある。放獣しても、また駆除されることになる。昔のような自然環境は保障されていない。」

「アメリカではカナダから連れてきたハイイイロオオカミを解き放ち、国立公園内で管理している。オオカミが絶滅して増えたシカの食害を抑えるためだ。公立公園から出たオオカミは狩猟の対象としている。」

その他、二ホンカワウソの生態や歴史などが情報としてテキストに載せられています。

テキストを読んだあとは

記事を読んだ後、シンクシートを用いての、情報の取り出し(〇✖クイズ)、クリティカル・リーディング(根拠のある推測、解釈)、熟考・評価の流れは物語の授業と一緒です。

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この問いに、どう答えますか?

比較、関連付け、根拠ある推測等のスキルを習得していない子は、単純に、問いに対してフィーリングで答えます。

「研究している人がいて、復活させたいならいいんじゃないかな。水族館でも人気だし、近くの川で見られたらいいと思う。」「けっこう大きい動物みたいだし、怖いから復活させなくていい。」 こんな感じに。感情的で単純で、自分の価値観以外が全く見えていません。複雑な思考ができておらず、中学生にしては幼稚な思考です。

考えるためのスキルをもっておらず、常に自分の感覚優先の思考になってしまいます。読み書きのスキルを身に付けることは「市民教育」としても重要だと感じてしまいます。上記の思考のまま大人になっている人、いますよね。

一方、既習のスキルを使う意識がある子は、テキストの記述を根拠として抜き出し、自分の考えを説明します。それができたら「型」としては合格です。同じ土俵の話し合いのラインに立てた感じです。


比較と関連付けの威力

根拠ある推測のスキルを単体で使えるだけでも、行間を読む力を実感できるのですが、より説得力のある意見や、深い思考に向かうために必要なのが「比較」と「関連付け」です。

今回のテキストには、複数の「比較」要素が隠されています。それを見つけるために必要なスキルが「比較」です。

二ホンカワウソと人間

二ホンカワウソとユーラシアカワウソ

今と昔

A教授の意見とB教授の意見

カワウソとオオカミ

アメリカのハイイイロオオカミとカナダのハイイロオオカミ

カワウソとシカ

こんなにたくさんの比較から、「同じ」「違う」を検討していくと「はっ!」と気づく瞬間が来ます。

気づいた生徒は周りに影響を与える

例えばカワウソとオオカミを比較した場合。近い種を復活させるというやり方は同じです。ですが、根本的に違うのは、アメリカのハイイイロオオカミ復活は、増え過ぎたシカの食害対策であったのに対して、カワウソの復活にはそうした事情が一切ないということです。

これに気づいた生徒は仲間に「これ、全然違うぞ。な、これ考えてみろよ…」と資料を指さして懸命に説明します。「おお!」という声で、一気にカワウソ復活反対!の方向に動き出します。他に根拠はないか…お!カワウソは大食漢だと書いてある…というふうに「関連付け」のスキルを使って証拠探しを進めていくのです。

スキルを使いこなして読む楽しさを仲間と共有して、自分の考えを書く手も進みます。俄然授業は盛り上がります。

ここで「スパイダー討論」も取り入れて、思考のやり取りを促します。(スパイダー討論の詳細はまた次回に。noteに書いている人もいます。検索してみてください。)以下、スパイダー討論のスパイダー図です。

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・・・ここまでは教師の想定内の動きです。というか、そういうふうにテキストを作ってあるので(笑)。実はスキルを使えば、カワウソの復活に「反対」する意見を書くことは容易なのです。

教師の想定を超える生徒が出るから面白い

一方で、カワウソの復活に「賛成」の意見を書く生徒もいます。が、その多くは月並みな内容になります。

「日本にいた生き物だから復活できるならさせたい」「研究者ができると言っている。国際法でも問題にならないし、海外で成功している。人間が環境を用意して共存すべきだ。」というような、いわゆる環境保護は大事ですといステレオタイプの意見になりやすいのです。

ところが、「比較」や「関連付け」のスキルを使って考えた場合、一味違う意見や提案をする子が出ます。

例えば、ハイイロオオカミ復活の記事の見方が、「反対派」の生徒とは違います。「ハイイロオオカミは管理された場所で復活している、カワウソは自然界に復活させる内容だ。カワウソを復活させるなら管理された場を提供してはどうだろう」(別角度の比較)

また、「賛成するが、そもそも今も昔もカワウソが捕食する魚介類自体が減少しているということであれば、まず解決すべき問題は違うところにあるのではないか」とか(比較から記事全体を疑う、前提の確認)

「一つの種を絶滅に追いやったのならば、どのような手段や年月をかけてでも元通りにするだけの努力をすべきだし、人間の事情を優先にしていてはこれからも同じ問題が発生することを止められず、絶滅を悲しんでいるポーズだけだ。どのような犠牲を出してでも生物多様性を取り戻す必要がある」(比較、全体を精査、批判的思考、優先順位の確認)などの、テキストの情報を精査した上で人間都合を批判する意見など、とにかく多角的なものの見方を発揮してくれるのです。

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こういう生徒はチャレンジ精神に富み、人と違う方向を探し、検討する傾向が強いです。楽に考えられる方向に引きずられないのです。メタ認知能力が高い傾向です。

彼らがどうしてそのように考えられるのかは、私にもはっきり分かりませんが、やはりスキルを身に付け、使いこなした結果「批判的思考力」に優れているのではないかと感じます。

まとめ

スキルを教え、練習し、使いこなせるようにすること。それを生徒自身の生活体験や知識と関連させることで、更に思考がアクティブになるように感じました。

物語では、お話の好みに思考が左右される感じがありましたが、論説は生活体験や知識に左右されやすいと感じました。

失敗は・・・生徒は今回の「前期試験」のような短いテキストをスキルを使って読むことに熱中します。これは熱中しすぎると思えるほどでした。「テスト」「短い」という条件に反応しすぎていて…これほどの反応をWW/RWでは、まだ生徒も教師も経験できていないことが…どうなのかな、力不足だなと感じています。まだ私のWW/RWは「テスト」に勝てない。

そして、しょせんこのような「前期試験」として行った内容は「ドリル」に過ぎないのです。ご覧の通り、教師の掌の上で踊らされている程度のもので、状況訓練に過ぎません。

本を多く読み、つなげて考え、自分なりの意味を作り出す喜びと楽しみを、どのように提供していくか、目下の悩みです。失敗からどう学ぶか、思案中です。

次回は、こうした記述試験、いわゆるパフォーマンス評価をどうするのかについて、報告&提案をしたいと思います!


最後までお読みくださいましてありがとうございます。





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