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【読書】時間を戻せるケーキがあるとしたら、作りますか?
本日の一冊
「月のケーキ」
ジョーン・エイキン(著)/三辺律子(訳)、
東京創元社
「月のケーキはね、ごく特別な方法でしか作れないんだよ。そして特別な人間にしかね……。」
けわしい丘の上の中腹にあるどこか気味の悪い村、ウェアオンザクリフ。
そんな村に暮らす祖父のもとへ、家を燃やしてしまった少年トムが訪れるところから物語は始まります。
まだ若いトムは重たい空気が蔓延る村に不満げです。
「そもそもどうしてくるのか、わからないよ」トムはぼそりと言った。
祖父はなにかを考えているような顔でじっとトムを見た。
「希望を失ったら、くるのさ」
数日経ったある日、トムのもとに村のいちばん高いところにある、不気味な家に住むミセス・リーが〈月のケーキ〉をつくる手伝いをしないかというおさそいを持ってやってきます。
そしてどうやら、〈月のケーキ〉には時計の針を戻す力があるらしいのです……。
*
ジョーン・エイキンの「月のケーキ」に収録されている13の短編は幻想的で、でもどこか不気味な雰囲気をまとっています。
どうやら正体のわからない恐ろしいものは真正面からはやってこないのですね。
下から、背後から、思いもよらぬところからやってくるから不気味なのです。
エイキンの書く物語も様々な角度から常に何かが忍び寄ってくるような、恐ろしい森の中に踏み入れてしまった時の感覚に似た恐ろしさがあります。
展開を予想することなんてできっこないので純粋な驚きとともに読書を楽しむことができます。