木下カナエ
憂鬱な気持ちのなかでぼくが読んだ本たち。 原稿用紙2枚分くらいの短い感想を添えて。
わたくし、木下カナエが書いた短編の置き場です。 印象的なオチというより、尻切れトンボな切れ端のようなショートストーリー。
歩くことが好き。自転車に乗ることが好き。まだ知らない道を行くのが好き。 そんなぼくが読んだ本たち。
ぼくが最近読んだマンガたち。
はじめまして。 木下カナエです。 ずいぶんと自己紹介をするのが遅くなってしまいました。 自分のことを話すのが苦手……いや、そもそも物を語ること自体が苦手です。 私は現在、22歳。社交不安障害、うつ病の治療中です。 好きなものは小説や漫画などの物語、音楽、散歩です。 この先どうしたらいいのか、不安でいっぱいなときに、本や音楽に救われました。 自分もそんな作品を作りたいと思い、物語を書き始めました。 夢は好きな本を読んで、好きな音楽を聴いて生きることです。 そしてもし、そ
本日の一冊 「マーチ博士の四人の息子」 ブリジット・オベール、堀茂樹・藤本優子 訳 ハヤカワ文庫、1997 マーク博士の館で働くメイド・ジニーは偶然隠された日記を見つけてしまいます。 好奇心に逆らえずに中を見ると、そこには殺人の告白が書かれており、さらには次を仄めかす言葉まで。 殺人鬼は自らをマーチ博士の息子のうちの誰かだと名乗ります。 次々に日記に書かれていく殺人の記録にジニーは阻止しようと試みますが、殺人鬼には彼女が日記を読んでいることもバレているようで—
本日の一冊 「とうもろこし倉の幽霊」 R.A.ラファティ、井上央(編・訳) 早川書房、2022 七年に一度、脱穀の最終日の日にとうもろこし倉に現れて自らと同じ名前の人間の首をくくりに幽霊が現れるという話を少年二人が確かめに行く「とうもろこし倉の幽霊」。 日付が変わり、幽霊が現れるまでの刻一刻と迫りくる緊迫する状況を臨場感たっぷりに描いた短編です。 人消しマジックのスペシャリストにして大魔術師チャールズ・チャーテルの公演中に箱からみすぼらしい小男が現れた。小さな彼は
本日の一冊 「書架の探偵」 ジーン・ウルフ、酒井昭伸(訳) 早川書房、2017 暖かくて寒くて、このところ気もそぞろでした。 本を途中まで読んでは放り出したりして。 偶然見つけたこの本はいまの私でも読み通すことができました。 近未来の書物にまつわるSFミステリです。 人口が十億人まで減少した22世紀の図書館には蔵書ならぬ"蔵者"と呼ばれる本の著者のクローンが収蔵されています。 この物語の主役であるE・A・スミスも同名の推理作家のクローンであり、借りる者
本日の一冊 「名称未設定ファイル」 品田遊、キノブックス(2017) リアルな世界からSF色濃いめのものまでどこか仄暗い17の短編が収録された一冊となっています。 物語にバグが入り込んでますよ⁈ と思わず言いたくなります。 文章の途中に割り込んでくるセリフ。支離滅裂な文章。 それとも世の中の不条理やエラーがただ浮き彫りにされているだけなのか……。 なんとも言えぬ読後感がつきまといます。 「猫を持ち上げるな」 猫を持ち上げるのは虐待か? ひとつのツ
その箱の中に何が入っているか、誰も知らなかった。 箱がいつからここにあるのか正確に記憶している者さえ一人もいなかった。 町の真ん中の広場、その中心に忘れ去られたようにポツンと置かれている。 きっと何度か雨に打たれているはずなのに真っ黒な箱の側面はまるで新品のように艶やかに輝いていた。 「中には何が入っているのだろうか?」 「勝手に開けて確かめるわけにもいかないと思うけど」 「でもずっと放置もしておけないよ」 みな、警戒して箱から2歩離れたところから会話
本日の一冊 「ほとんど記憶のない女」 リディア・デイヴィス(著)、岸本佐知子(訳) 白水社、2005 noteで読書記録について書く時、その本の中で引用したら、興味を持ってもらえるかなと思った面白い一文をはじめに書き出しているのですが、この本はそれがとても難しかったです。 諦めました。 一文を切り取ると、話の中であれほど魅力的だった文章が死んでしまうのです。 無理やり引き抜こうとすると他の一文までつられて一緒に抜けてしまいます。まるでサツマイモみたいです。
いっつも寝てばかりいたら頭から 茸が生えたんだって。 「寝子じゃから寝るもんじゃし」 と本人気にする様子もなし。 お腹が空いたらキノコを食べればいいって言う。 だから慌てて止めたんだ。 彼には見えていないけど とってもアブナイ色をしてるんだもの。
本日の一冊 「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済 小川さやか 光文社新書 それがいいか悪いかを抜きにして、多くの人が「いい学校、いい就職、いい老後のために」という考えを持っているのではないでしょうか? あまりにも当たり前なことで、改めて考えたこともありませんでした。 私たちは頭の中で未来を思い描いてしまいます。未来に何が起こるか、なんていくら考えてもわからないのに。それでも良くなる可能性が少しでも上がるように行動せずにはいられないのです。 この本
気がつくといっさいの音がありませんでした。 この街には仕事で初めてやってきたのですが、私を降ろしたバスが無音で走り去っていくのを見て、なんだかおかしいぞということに気がついたのです。 鞄を落としても犬が吠えても、本来聞こえてくるはずの音がしません。そんなものは初めからなかったかのように存在のわずかばかりの痕跡も耳にすることができませんでした。 街では車が走り、おっちょこちょいなウェイターが皿を割るような、いたって普通の日常が広がっています。 音だけが消失しているので
本日の一冊 「宰相の二番目の娘」 ロバート・F・ヤング(著)/山田順子(訳) 創元SF文庫 精巧な自動マネキンを作製するために歴史上の重要人物を誘拐してくるのがビリングズの仕事。 シェヘラザードを連れてくるという任務を受け、9世紀へと向かいます。 ビリングズという男、これがまあ、やることなすことうまくいかないのです。 もともと貧乏暮らしの非正規雇用だったのですが、担当者がインフルエンザにかかったために急遽、彼にこの仕事がまわってきたのです。成功すれば正社員になれ
本日の一冊 「チェシャーチーズ亭のネコ」 カーメン・アグラ・ディーディ&ランダル・ライト(著)バリー・モーザー(絵)山田順子(訳) 東京創元社 のらネコとして過酷な日々を生き抜いてきたスキリーは内緒にしていますが、実はチーズが大好物なのです。 そんなある日、スキリーは英国一のチーズだと評判の〈チェシャーチーズ亭〉でネズミ捕りのネコを探しているという話を耳にします。 そこで出会った賢すぎるネズミ、ピップと「捕まえたネズミをこっそり逃す代わりに、厳重に保管されているチーズ
本日の一冊 「歩く」 ヘンリー・ソロー(著)、山口晃(編、訳) ポプラ社 歩くことが好きです。 特に今の季節は歩くのにもってこいです。 夏の分を取り返すように朝からいそいそと出かけていきます。 歩く理由は時と場合によってさまざまで気晴らしだったり、考えごとをするためだったり、運動不足解消のためだったりします。 「森の生活」でも知られる著者ヘンリー・ソローは自らの建てた湖畔の小屋で暮らしながら、草原や森といった自然に自らを浸してます。 彼が言う「歩く」とは、家族
「俺はな、地底人なんだ」 酒場で隣の席に座った男がいきなりそう言った。 「町にあいた穴があるだろ? あっこから来たんだ」 たしかに男の言うとおり、町には数日前から原因不明の穴があいていて、みな一様に首を傾げていたのだった。 グラスに残った酒をあおって男の方を見る。 口髭を蓄えた小柄な男は太陽を知らない月のように青白い肌をしている。 「地上には何用で?」 地底人がわざわざ地上にやってくるなんて、さぞかしたいそうな理由があるのだろうと思って尋ねたのだが、男はなんてことな
本日の一冊 「月の部屋で会いましょう」 レイ・ヴクサヴィッチ(著)、市田泉(訳) 皮膚がてらてらと輝く銀色の宇宙服へと変わり、やがて宇宙に飛んでいってしまう謎の病気が流行する世界に生きる、モリーとジャック夫妻。 治療法が見つかるまで悠長に待つことはできないのでした。 なぜなら、妻のモリーの身体はすでに銀色に侵されつつあったのです。 このままではモリーが先に旅立ってしまう、とジャックはなんとかふたり一緒に長い宇宙の旅に出る方法はないものかと奮闘するのですが、一方のモリ
吾輩は犬である。 ただの犬ではない。時間のわかる犬である。 午後4時と16時が一緒ということも知っている。 そしてなにより、この家の番犬である。 家の前に座り、怪しい人物が近づいてこないか見張っている。 午後4時になると家の前を下校中の小学生が通るのだが、吾輩のことをやたらめったらに撫でてくるのである。 あまりに気持ちがいいので、この時ばかりは自分が番犬ということを忘れてしまう。