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絵画からの着想

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#これはフィクションです

11月18日のお話

11月18日のお話

冬だけ、雪の積もる軽井沢のある場所にレストランがオープンします。名前はRestrant_KUKU。毎冬、オーナーが腕利きの料理人をスカウトし、雪の間だけ店がオープンします。

このお店が人気店だと言われている背景には、予約困難店だという理由があります。予約が殺到しているから予約が取れない、という時期もありますが、3年後の予約まで埋まっています、というような店ではありません。予約するのが”大変な”店

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11月17日のお話

11月17日のお話

冬だけ、雪の積もる軽井沢のある場所にレストランがオープンします。名前はRestrant_KUKU。毎冬、オーナーが腕利きの料理人をスカウトし、雪の間だけ店がオープンします。

今日のお客様は母娘の二人組です。還暦になるお母様をお連れし、女同士のお祝いをしたいのだというお嬢様からご予約を頂戴いたしました。

母と娘、そう言われなくてもわかるくらい似ているお二人ですが、性格は正反対というところでしょう

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11月16日のお話

11月16日のお話

冬だけ、雪の積もる軽井沢のある場所にレストランがオープンします。名前はRestrant_KUKU。毎冬、オーナーが腕利きの料理人をスカウトし、雪の間だけ店がオープンします。

今日ここを訪れたのはひと組の夫婦です。

年齢はお互いに30代半ばというところでしょうか。夫婦で軽井沢に余暇を過ごしにきているのでしょう。着ているもの、持ち物など何をとっても、シンプルな着こなしですがしっかりとしていて経済的

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8月8日のお話

8月8日のお話

2019年8月8日 小笠原諸島は停滞した台風10号により、激しい暴風雨に見舞われていました。

そんな中、刈野かなめはお盆休みの旅行に、この島を訪れていました。

「まぁ季節だし、覚悟はしていた」

と、強がってはいるものの、直撃&停滞という自分の雨女ぶりには少しゲンナリしたものです。「島に行きたいの」というかなめの我儘を快く聞いて付き合ってくれている彼氏の英人にも申し訳ない気持ちでいっぱいでした

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7月26日のお話

7月26日のお話

2013年7月26日

その日のお客様は、少し変わっていました。

京都市内の北川、山に抱かれるような場所にある私の勤務先、宝ヶ池のホテルにはいくつかのお庭があります。海外からのお客様も敷地内で日本を存分に感じていただけるよう、庭のあつらえは京都らしく、日本庭園はもちろんですが、お客様の故郷でも見かけるような種の花を積極的に選んで咲かせています。

遠い日本までお越しになったお客様が、故郷の花を見

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7月20日のお話

7月20日のお話

1900年7月20日

「先生、何しよーと?」

子供たちの笑い声が、海岸に座っているダイアンの後頭部あたりではじけました。外国語の教師として日本にやってきた彼は、横浜、神戸と裕福な子女の私塾に雇われたのち、もっと多くの子どもたちに欧州の文化を教えたいと願い、長崎にある小学校の英語の教師に収まっていました。港町ばかりを選んでいたのは、彼が海を、とくに夕方の海を愛していたからかもしれません。本人は意

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7月10日のお話

7月10日のお話

これは私たちが暮らす世界とは少し違う世界のお話です。風景や生き物、人間と呼ばれる種族がいることなど、その世界は私たちの世界ととてもよく似ていますが、彼らは何度かの突然変異と文明の入れ替えを経た長い歴史を持っています。

今は一部の人が魔法を使い、多くの人が科学技術を使う時代。人間の居住区にだけ都会の街並みと自然が共存し、その他の大地は荒れ果てている。そんな世界のお話です。

4203年7月10日

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6月22日のお話

6月22日のお話

姉は、少し不思議な様子を身に纏った人でした。幼いころに目に傷を負い、視力が急激に低下した頃からだったと、のちに両親が話しているのを記憶しています。

私や家族には見えないものを、姉の瞳は確実に捉えていました。心霊現象とか、オカルトとか、そういうものではありません。ありませんが、区別をするのは難しそうです。

例えば、近所の空き地に夕日が沈むのを見て、枝だけになった街路樹に重なった瞬間、姉の瞳には夕

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6月17日のお話

6月17日のお話

2000年6月17日

毎年クリスマス前に開催される聖歌祭で、アヴェ・マリアのソロを歌えるというのは、聖歌隊に所属する部員にとって何よりも名誉なことでした。今日はそのオーディションの日。中高一貫教育のこの学園の生徒、6学年のトップが決まる日です。

一般の生徒たちは、このオーディションが行われると、聖歌祭まであと半年か…と想いを馳せます。聖歌隊に所属していない一般生徒も、中学二年生と高校二年生は学

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6月15日のお話

6月15日のお話

旅が彼をいざなったのか、彼が旅に魅せられたのか。どちらかはわかりません。ただ彼は、結果として長い旅に出ることになりました。

当てがあるわけではありませんでした。ただ、自分ではない何者かになりたくて、自分の跡をいつまでもついてくる自分の影を脱ぎ捨てたくて、自分のことを知らないどこかにいきたくて、異国から異国へとさまよいます。

彼は自分に与えられた「性」がとても嫌でした。

本当はみんなと仲良くし

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6月11日のお話

6月11日のお話

仮想空間での娯楽がここまで発展したのは、5年前の世界的なパンデミックが発端になったことは言うまでもありません。しかし、発端こそそれでしたが、浸透・定着した背景には、行き過ぎた情報化社会を迎えてしまった現実世界の住みにくさがあったのではないかともいわれています。

真偽のわからない汚職や不正行為、あかの他人の不実の行為や経済発展と引き換えに生まれた闇社会、場所にまつわる遠い昔の不幸な出来事や心無い誹

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