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「ザ・ゴール」制約理論TOCとケアマネジメント
プロダクトマネジメント手法としては有名な制約理論(TOC)ですが、このような観点から考えるケアも一つの方法論として光が当てられても良いように思えます。これはイスラエルの物理学者であるエリヤフ・ゴールドラットによって打ち立てられた経営理論ですが、著書である「ザ・ゴール」において、企業にとって最終的な目標は利益であると言います。
確かに企業としての目的としては確実に利益を上げることです。しかし同時に我々のような社会保障としての側面、公的保険制度の一部を担う介護従事者にとっては、利益の追求よりももっと重要となるフレーズが"利用者の満足度"であるように感じられます。そしてこれこそが、我々にとってのゴールに成り得るのだと思えます。そして、この目的を組織で共有する事の重要性もあげられていました。
効率というのは、投入された労働力や資本などに対する"満足度の大きさ"も指標となり得ます。つまり人を支える我々にとっても効率の追求は決して悪い意味を持たないのです。この場合には制約理論の考え方も、労働生産性向上にとって有益であるように思えてくるわけです。
制約理論においては、ボトルネックという制約と向き合うというものがキーワードの一つになります。そして、常に変化していく状況の中で、いかにこのボトルネックを導き出していけるか。このような考え方というのは、日頃のケアの現場においても有益であるように感じています。
●あなたの仕事は他の人や組織と、つながって行われていますか?
●それぞれの人や組織の能力は一緒ですか?バラついていますか?
いかがでしょうか。もし、あなたの仕事が他の人や組織とつながって行われていて、また、それぞれの人や組織の能力にバラツキがあるなら、仕事の流れのどこかに、バラツキのせいで相対的に弱いところ、つまりボトルネックがあるということになります。
そして全体のボトルネック、つまり制約に集中し改善していく事が全体最適となります。これが、TOCの核心です。
例えば我々のような介護者であるとするならば、食事を終えた利用者をどのような流れで全体を安全に口腔ケアとトイレ誘導へと導くことが出来るのか。といったような業務の一連の流れをマネジメントしていくときなどにも活用していけるように思えます。
この場合には、食事を終えた利用者には間違いが決して無いように確実に服薬の管理を行い、一人一人を口腔ケアに誘導しチェックを行い、トイレへ誘導していき、またテーブルで待つ人、移動する人といった全体の人たちの転倒事故が、起こらないようにしていかなければなりません。
利用者も身体の機能の状況やトイレに時間が掛かったり、または口腔ケア自体に時間が掛かったりと不確実性に満ちています。この場合、制約理論から言えば、トイレに一番時間が掛かるのであれば、ここをボトルネックとして着目しながら業務全体のフローを改善していかなければなりません。こうした状況の対応の仕方などにも大いに活用していけるように感じています。
また思考プロセスにおいては、DE(望ましい現象)やUDE(望ましくない現象)などをツリー化したり、問題をクラウドに落とし込むなどといった手法も紹介されています。このような手法を用いて、コアの問題を改善することによって全体の課題解決を行う事ができるなどといった考え方は、ケアマネジメントにおいても実用的であるように思えます。
私自身、最近になるまでこのようなプロダクトマネジメント理論である制約理論(TOC)やトヨタ生産方式(TPS)などを学んでケアマネジメントに活かすことなど考えたこともありませんでしたが、まずは学んでみることにしてみました。するとこれまで培ってきたマネジメント手法やケアに、更に価値を付加して提供できるような気がしてきています。
かといって学ぶことと実践することは全く別物ではあると思いますので、これらをいかに実務の場に適切に落とし込んでいけるかが、私にとっての今後の課題になっています。それと付随して、理論の学び直しや新しい理論への学びの開拓を繰り返していくことの有意性も実感しています。
神髄を手っ取り早く学ぶというのにも、コミック版も用意されているのが嬉しいところでした。忙しい合間でも、サクサクと読むことが出来るのは吉でした。