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優しいファンションと新しい装飾音(鍵盤楽器音楽の歴史、第114回)

クープランの第5オルドル後半の始めは、第6曲《優しいファンション La tendre Fanchon》イ短調、3つのクプレをもつ優美でメランコリックなロンドーです。『クラヴサン曲集 第1巻』収録のロンドーの中でもとりわけ洗練された作品と言えるでしょう。

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この題名は、第1オルドル17曲《フルーリ、あるいは優しいナネット》のところで触れたように、「優しいナネット」の母親である女優マドモワゼル・レゾンことフランソワーズ・ピテル (1662 – 1721) を指しているものかと思われます。

しかし同じく「ファンション」と呼ばれたフランソワーズ・モロー (1668 – 1743) の肖像である可能性もあります。というかむしろこちらが定説です。彼女もまた女優でソプラノ歌手として舞台で活躍し、共に大王太子の愛人でした。

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Mademoiselle Moreau dansant a L'Opéra, 1690.

この曲にはクープラン独自の装飾音記号である「アスピラシオン Aspiration」「シュスパンシオン Suspension」が両方出てきますので、ここで簡単に説明しておきましょう。

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音符の上に楔のような縦線が記されているものがアスピラシオンで、これは音を記譜された音価よりやや早めに切るものです。

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円弧のうえに丸がついたようなのがシュスパンシオンで、こちらは音の入りを少しだけ遅らせるものです。これらによって音量変化のできないクラヴサンで心理的な強弱表現をもたらすことができます。

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ところで私はこの曲の第2クプレで、いつも《ちいさい秋みつけた》を思い浮かべるのですが。「目隠し鬼さん手の鳴る方へ」のあたりと似てませんかね。

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Jean-Antoine Watteau, "Autumn," c. 1716.

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