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理科実験験の1つと思っていた『酸化還元』って実は、からだの中でも起きていた

理科の授業で「酸化還元」って習ったじゃないですか。薬品を水に溶かしたり、火をつけたりしたアレです。化学式とか覚えなきゃいけなくて、大変でしたよね。実験は好きだけど、薬品の名前とか化学反応式とかよく覚えられなくて挫折するひとも多いところ。

東邦大学で「生化学で学ぶ酸化還元反応」という講座を受けたんです。そしたら、実験でやった酸化還元反応が、わたし達のの身体の中でも起きてるっていうんです。そんなことある⁉って思ったけれど、そんなことがあるんだって。

「健康とか美容のために、ビタミンCやポリフェノールが豊富なものを食べましょう」って話はみんな聞いたことがあるでしょう? 「抗酸化食品」って言葉をどこかで聞いたことがある人は、その「酸化」です。体の中の酸化が進むと、老化や病気の原因にもなるんだそう。そんなこと、理科の授業で1㎜だって聞いてないのに。

とにかく、からだの中で起こる酸化還元反応の研究をしている松本紋子先生の講義で衝撃を受けたことを共有させてください。

東邦大学理学部 生化学研究室 松本先生

食べ物の色が変わるのも、実は酸化の影響です

人の身体の話の前に、まず食べ物。食べ物も、酸化するそうです。例えば、切ったりんごを置いておくと茶色くなるやつ。あれ、酸化です。食べ物が酸化すると、色が悪くなるし、味や香りも落ちます。食べ物にとっていいことがないから、食品会社の人は酸化を嫌っているし、おいしい商品を届けるために酸化させない方法をたくさん研究して取り入れています。

お茶の緑色を保つには

例えば、緑茶。
淹れたては澄んだ淡い緑色なのに、時間が経つと茶色っぽくなりますよね。あれも、原因は酸化なんですって。

でも、お店に並んでいるペットボトルのお茶って、いつ見ても綺麗な緑色をしています。あれは、お茶の中の酸素の量をできるだけ減らして酸素に触れないようにしたり、ビタミンCを入れて酸化を防いだり(抗酸化)と、会社ごとにいろいろな工夫をしているんだそうです。

しょうゆの風味を守るために

ほかには、おしょうゆ。
最近は、「酸化防止ボトル」なるものに入っている商品を目にする機会が増えました。回転寿司チェーンのテーブルに置かれているのもこれですね。酸素に触れないので、しょうゆ本来の色や風味を長期間楽しめるそうですよ。

こんな風に見ていくと、知らなかっただけで普段口にするものにもたくさん酸化還元が関係していて、酸化還元ってワードがすこし身近になりますね。


からだの中でも日々酸化が起こっています

さてこの酸化は、わたし達のからだの中でも起こっているというからおどろきです。

日やけも酸化⁉

例えば日やけ。
「紫外線はあびすぎると良くないよ」と言われるけれど、具体的に何がどうよくないのか、深く考えたことはなかったかもしれません。

紫外線をあびると、肌の細胞では酸化がおきるのです。日焼けでメラニンができて肌が黒くなるのは、チロシンというアミノ酸が酸化した結果なのだそう。さらには、長い期間紫外線をあび続けると、シミやしわができて、見た目が老化していくことも知りました。松本先生は、長年トラック運転手をしてきた方を例にあげて、光を浴びてきた側の顔半分だけ明らかに老化した方の画像を提示してくれました。外出のたびにぬってきた日焼け止めのありがたみを感じた瞬間でした。

生きているだけで酸化し続けている…?

毎日し続けている呼吸でも酸化は起こります。
呼吸というと、肺で酸素を吸収し、二酸化炭素を放出する呼吸を想像するかもしれないけれど、あれは外呼吸。生物学では、細胞が酸素を用いて有機物を分解してATPというエネルギーを合成して、二酸化炭素を放出する仕組みを呼吸とよんでいます。この、細胞での呼吸で酸化が起きるんです。

わたしたちが呼吸で取り入れた酸素は、細胞の中で酸化還元反応を起こすことでATPを合成しているのだそう。まさか、自分が毎日酸化還元していたなんて…

呼吸をすると、細胞内のミトコンドリアにある電子伝達系で、文字通り電子を受け渡していって、たくさんのATPが合成されます。

ミトコンドリア、こんな形をしています

が、電子の受け渡しが上手くいかないと、まわりにある酸素分子が還元されて「活性酸素種」ができるのだそうです。(「活性酸素」という言葉はきっと耳にしたことがあるでしょう。実は1種類ではないので、活性酸素“種”と呼ぶのが生物学的に正しいとのこと。)
活性酸素種は、酸素よりも酸化力が高いもの。適量であれば病原体を殺してからだの免疫機能を保ってくれます。ただ、多くなりすぎるとこれもまた、老化や病気の一因となるそうです。


酸化からからだを守ってくれる食品がある

息をするだけで老化や病気の原因物質ができるなんてどうすればいいの! と思ってしまいますが、大丈夫。

わたしたちはからだの中で、活性酸素種を還元する抗酸化酵素や抗酸化物質をつくって、酸化からからだを守っています。また、抗酸化物質物質をふくむ食品を食べて、外から取り入れた成分でからだを守ることも有効です。

「抗酸化食品を摂りましょう」と聞いたことがあるでしょう。ビタミンCやポリフェノール、カロテノイドなどを多く含む食品のことです。耳にするだけでもからだに良さそうなこれらの食品は、体内を還元して老化や病気を防いでくれていたんですね。


からだの中で起こっている化学反応を学ぶのが「生化学」

ここまで一緒に読み進めてくださった方は、ごく一部の紹介ながらからだの中のいろいろな部分で酸化還元反応が起きていたとお分かりいただけたはず。今回は酸化還元のみでしたが、からだの中ではさまざまな化学反応が起きています。こんな風に、生物のからだのなかでどのように化学反応が起こっているかを取り扱う学問が「生化学」です。生化学は、生き物がどのようにエネルギーを作り出したり、成長したり、病気になったりするかを理解するためにとても大切です。

生化学は、生命科学の共通言語

「生化学の知識は、生命科学の共通言語みたいなもの」だと、松本先生は話します。生化学の知識は、健康や医療に関わる分野には欠かせないものなのだそう。

生物の機能を研究する「生理学」や、体を守る「免疫学」などの学問は、生化学と深く関わっています。

また、薬を作るために必要な「薬学」「薬理学」でも、生化学の知識は重要です。ほとんどの薬は、体の中で酵素という分子が関わる化学反応によって代謝されているからです。

さらに、病気の原因を探る「病理学」や、細菌やウイルスなどを研究する「微生物学」なども、生化学の手法を使っています。

生化学の知識は、医療系の試験に必須

実は、ほとんどの病気は、分子レベルでの異常、つまり生化学的な問題によって引き起こされることが分かっていて、病気の診断や治療にも、生化学の研究は大きく貢献しています。「臨床生化学」という分野は、病気の診断や治療方法を研究し、医者や薬剤師、看護師などがどのように治療を進めるかを考える上で大事な学問です。

生化学は健康や医療にとって必要不可欠なもの。だから、医師、薬剤師、臨床検査技師、看護師など、医療分野の多くの国家資格の試験には生化学の内容が含まれているとのこと。生化学の重要性がよく分かります。

今回は講義の内容をかみ砕いて、酸化還元の世界への入り口と、生化学や松本先生の研究の一部をほんの少しだけご紹介しました。生物や化学に苦手意識があった人も、自分のからだの中でも起きているんだと思うと別の視点で見られて興味が沸くかも知れません。

今回の講義に関連した内容は、東邦大学理学部生物学科のHP内「生物学の新知識」という特集ページの「ミトコンドリア呼吸鎖(電子伝達系)複合体と活性酸素種」「ミトコンドリア呼吸鎖(電子伝達系)複合体のスーパーコンプレックス形成」でも紹介されていますので、興味をもった方は、ぜひご覧くださいね。


生化学研究室・松本紋子先生の研究とは?

東邦大学・生化学研究室の松本紋子先生は、アルツハイマー病やパーキンソン病など、神経変性疾患と呼ばれる病気の研究をしています。

今回の講義「生化学で学ぶ酸化還元反応」に関係する内容としては、細胞内のミトコンドリアにある電子伝達系の変化と病気の進行との関係を研究発表しています。電子伝達系で電子がうまく受け渡されないと、まわりにある酸素分子が還元されて「活性酸素種」ができると講義でも説明されましたが、神経変性疾患の患者さまの白血球のミトコンドリアでは、電子伝達系の形態が、病気の進行とともに変化していることを明らかにしました。

この発見は、雑誌「The Journal of Biochemistry」にも掲載されています。

松本先生の研究は、病気を早く見つける検査法の開発や、治療の手助けになるのです​。


研究室のHPにはもっと詳しい紹介があります。関心がある方はあわせて見てくださいね。

▼松本先生の研究室について



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