斧と発話 —『悪は存在しない』 のこと—
映画の冒頭、音楽が途切れ、チェーンソーの音が耳をつんざいたかと思うと、1人の男(大美賀均)が長い丸太を切っている姿が目に入ってくる。男が深々と切り込みを入れ、それが貫通した途端、組木の上に横たわっていた丸太は、きれいに4つに転がる。それだけでも、この種の作業の素人であるわたしは手品でも見る思いなのだが、さらにそこからワンショットで、男は短い丸太を次々と切り株に乗せ、斧でぽんぽんと割っていく。力みというものがまるで感じられない。にもかかわらず、すべての丸太は必ず、一振りで割れ