「マキシン」 by Donald Fagen
「マキシン」の魅力はいくつもある。アーティキュレーションを見事に切りそろえるコーラス。ピアノがコードを打つタイミングのよさ。いろいろ現世の悩みで韻を踏んでおいて「マキシン」という固有名詞で韻を解消するタイミング。
その、現世の悩みの部分が、言い切ったかと思うとスイートになるのは、まるで卓ドン刑事とカツ丼刑事のようだ。たとえば最初のコーラス。
Some say that we’re reckless(卓ドン)
They say we’re much too young (カツ丼)
Tell us to stop(卓ドン)
before we’ve begun(カツ丼)
そして、カツ丼が思いがけずスイートにWe've got to hold out till graduationと伸ばしておいて、鍵盤の低音でドーンと卓を叩くもんだから、語り手はあっさり結論を自白する。「負けないでいよう Try to hang on」。根拠なき励まし。しかし、たいていのスティーリー・ダンの詞では、主人公は結局 hang on できずに負けてしまうのだ。
むちゃすぎるとか
若すぎるとか
やめとけって、始めてもいないのに
我慢しかないよ、卒業までは
負けないでいよう、マキシン
世界は眠ってる
待ち合わせはリンカーン・モール
語り合おう 生きてる意味を
つまんない 新興住宅街で
負けないでいよう、マキシン
メキシコシティ、遠い世界
今年は気候がいいんだって
きみはセニョリータ
ジーンズにパール
でもいまはハイウェイを降りなくちゃ
引っ越そうマンハッタンに
友達呼びまくって
西海岸までドライブして、すぐに戻ってこよう
いつか二人で朝を迎える、でもそれまでは
負けないでいよう、マキシン
("Maxine" by Donald Fagen, 試訳:細馬)