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伽戸ミナ
2023年9月28日 15:17
気泡の中から見える景色は水彩画。太陽も空も星も山も海も滲んで、気の抜けたサイダーをくっきりと浮かび上がらせている。昔々あるところに、で口承された物語は、泡となって消えてしまいました、で締めくくられている。ばあちゃんのじいちゃんが膜の外に出た瞬間泡になって消えた、って語るばあちゃんの瞳の下の涙が、ビー玉になって喉につっかえている。蜷川実花の個展に行ったとき、モデルやアイドルや俳優は、目線
2023年9月25日 15:52
--前髪が視界に入るみにくさは肺を患った野犬のようでマジックアワーが閉まりかけの緞帳に見えた。八七六五人のオーディションを勝ち抜いた主役の千穐楽のカーテンコールの夢みたいに色鮮やかに並んだセブンのおにぎり。なんか有名なデザイナーがやったんだって。それはすごいね、はい三二一円。あの夕焼けみたいに圧し潰されても、海苔はぱりぱり。--チョコボール買うくらいの贅沢も許されない気がする無産市民
2023年9月22日 14:53
--ヴォンゴレと液晶世界とぼくの貌きみはきれいに反復横跳びきみがぼくと二人きりの世界になりたいのを、残酷だと感じてしまうことはあるし、ぼくがきみと二人きりの世界になりたいのを、きみが残酷だと感じていることもある。ぼくたちだったぼくときみには、残酷さを揃えることが必要だった。--晴れ上がる十五時半の駅前でフードを被りたい気持ちになった教科書をもらったら、教科書に名前を書く。上履きをもらっ
2023年9月15日 14:52
夕焼けを圧し潰すように夜の帳が降りてきて(ヒグラシの音に合わせて)、ぼくは緞帳の表側を見てるのか裏側を見てるのかわからなくなった。両ななめ45度からのライティング。眼と赤い背もたれをのみ込んだ闇。どこからか鳴り続ける拍手。準備できてないことに気付いた恐怖。こんな夢みたいに色鮮やかに並んだセブンのおにぎり。なんか有名なデザイナーがやったんだって。それはすごいね、はい、321円。蒸し暑さが纏わり付いて
2023年9月9日 16:54
――夕暮れる前に晴れ上がった駅前でフードを被りたい気持ちになったおばあちゃんの葬式のときの、おじいちゃんの喪服姿は黒かった。六十年連れ添うと、ここまでこげるものなのかと思って、美しかった。でもわたしは、いつもの制服でいつものコンビニに入っているのに、きっとまだ永眠に似た夏の匂いが漂っているから、いつものヴェトナム人店員さんを気にしていた。ブレザーを桜のように光らせる術を知りたかったんだけど、ブレ
2023年9月6日 19:22
夜はきみの若年性恋心を煮凝らせていくね聞こえるかい?闇が勝利しないと、うたってられない虫の声をかれらはとても美しい包丁でうすぎりにされていくんだとっても美しいんだよ とってもとっても、美しいんだよ好奇心からきている好奇の目だから眩しくても、光なんだからいいじゃないか――ばあちゃんのうでのように細いヒナゲシが風に吹かれて泣いてしまった
2023年9月3日 12:10
避難訓練は、冬の帳が降りる時期にふさわしく、ぬるい空気ですすんでいる。全校生徒というつながりでは、統制の取れた美しい集合にはならない。腕を伸ばそうとすると、脚が足を引っ張って、中途半端に止められてしまって、着替え中のマネキンのような、歪んだガードレールのような、富山県のような、にんげんの手作りやなぁ、という感じのかたちにしかならない。いまの校庭はナスカよりも謎なのでは?、と謎の一部にすぎないものが