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詩集『閑文字』

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伽戸ミナがつくった詩を載せています。読んで頂けたらうれしいです。
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2023年7月の記事一覧

【詩】天離(あまざか)る

春と夏のあいだには梅雨が横たわっていて、ほんとうは四季って一対三に分かれている。春は孤立させられて、いじめられている。桜色は、夏に切り裂かれて冬に薄められた血の色。秋はいつまで見過ごしているつもりですか?秋刀魚と焼き芋と松茸で忙しいのかもしれませんが、もっとたいせつなことがありますよ。一度星を割った隕石は力がつりあうとこに収まるだけです。地球って太陽にインプリンティングされたのかなって、飼育委員で

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【詩】逃げてるには遅い

【詩】逃げてるには遅い

ギターのリフについていけないと思っていた。でもそうじゃなくて、蒼かモノクロかじゃないといけない青春に、目を奪われないだけだった。ぼくの目から見えないとこに生えている毛、だと思っていたものが赤い糸ってやつらしい。前髪きにする人って、運命をきにしているのね。発見。鳥さん、ありがと。鳥は飛ぶためにいろんなものを捨てたから、あんなに空っぽな声で鳴くんだろう。舗装路の上のスズメバチの死骸にぎょっとする、とき

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【詩】取っ散らかる

【詩】取っ散らかる

「生まれかわるならどうなりたい?」なんて疑問を持つことのないあなたの強さは、遭難者を探す救助隊の懐中電灯みたいに、容赦なく明るい。まっすぐすすんで、木、石、木、木、石、草、木、片端から照らし出して、効率的に確実に光をぶつけて見つけようとしてくれる。月に代わって遂行よ。強い言葉が苦手なんじゃなくて、強い言葉を押し出すために必要な強い声が苦手だとわかったんだ。正しさの中にある暴力性に怯えてしまうのは、

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【詩】染み氷る

【詩】染み氷る

夏オブ海、の中につくった、冬オブザ氷、には縮こまった光がぎゅうぎゅう詰めになっている。局地的に刃物が降っている。ぼくの腕にも肩にも心臓にも刺さることは無くて、明かりに吸い寄せられて窓にぶつかる蝉みたいに、ぼくの骨を叩くだけ。痛みはないし、死ぬこともないけど、うるさいんだよ。音がなによりも苦痛だと知らないんか。氷は夏にではなく、蝉の声に溶かされる。夏オブ海、の中につくった、冬オブザ氷、が溶けて、日本

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【詩】ぐずぐずの傷

【詩】ぐずぐずの傷

月光に月より月をかんじてしまうのは、にんげんに見えているのは光だから。光って影なのに光ってるから美しい。宇宙の隅々から地球に自己アピールが届いている。星々の承認欲求で輝く夜空を眺めて、愛を深めるにんげんがいる。夜空みたいに光を陳列した宝石店を強盗する、白昼堂々闇バイト。犯行映像視聴者提供。視神経の半分はタピオカカメラと繋がってんのかな。おもひでと言えば液晶の写真。光を取り込み過ぎて、金閣寺よりも金

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【詩】喰い破る

【詩】喰い破る

向かってくる腕を、反射的に喰い破る。間伐材みたいに落ちた右腕を見て、じっくりしゃぶれる二の腕を一本無駄にしたことを後悔する。痛みで正気に戻ったトコに、口内の骨片を飛ばして怯ませて、跳び蹴りで倒して、左の太ももを喰い破る。大腿筋ってデカくて頑固だから、何回にも分けて喰らいついて破り捨てていく。動けなくしたら骨に守られてるトコを喰い破る。どこもクソ不味ィな。腐ったミカンと燃え残った樹の間の嫡出子みたい

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