
【楽しい気持ちになる小説】『有頂天家族 二代目の帰朝』森見登美彦/著(幻冬舎)
子供というのは、訳もなく泣くものさ。
全力の大喧嘩に巻き込まれる!
化け狸たちのファンタジー 第二巻。
おすすめ度・読者対象・要点
おすすめ度:★★★★☆
読みやすさ:★★★★☆
・読みやすいのは大学生から
・1巻は必読
・読者対象は問わず誰でも
1巻の解説はこちら
破天荒な化け狸・矢三郎が、山でツチノコ探しをしているところに、西洋の調度品が落ちてくる。
なんとそれは、我らが堕落師匠・赤玉先生の2代目の品であったーー
人の喧嘩に、手を出すべからず。
天狗の喧嘩に、狸が口を挟むべからず。
人と狸と天狗の三つ巴で、今日も人知れず騒がしい、京都での化かし合い。
2巻目はハラハラとさせる事、請け合い。
好きなポイントと注意点
「高嶺の花はお辞儀をしないのよ」
1巻目が狸の話であるならば、2巻目は天狗の話であろう。
赤玉先生はやっぱりお師匠様だったのだなと、その貫禄を感じさせる。
「あら、たとえ下手っぴでも、
いつまでも楽しく遊んでいられるのは御立派ですよ」
さて、今作で好きなポイントとすれば、堕落した身が立ち上がり更生していく様である。
そんな堅苦しいものではないが、それでも悔しがって、負けじと励むその様は、青春さえも彷彿とさせる。
みな着実に生きているのだと思わされる。
「おまえがどこで幻術を学んだか知らんが、
今は面白くってしょうがないだろ。
怖いものなしだろ。
若いというのはそういうことよ。
しかし世界は広い。
いずれ何枚も上手の幻術師に出会って、
死ぬほど熱い灸を据えられる羽目になるのさ。
俺にだって憶えがある。
で、人間の値打ちってやつが現れるのはそのときだ。
賢いやつは謙譲の美徳を学ぶ。
馬鹿なやつは可惜命を棒に振るのさ」
それから、悪はどこまでも悪である、というのも貫いていて大変に良い。
誰一人として、キャラクターにブレがないのも大変読みやすいと言える。
1巻よりも地理が広範囲になり、ファンタジー要素も増える今作。
苦手な人はアニメからみてもいいかもしれない。
余談
「僕には矢一郎のことがよく分かるのだが、
自分の父親があんなに洛中に名高い狸だったら、
始終父親に見張られてるみたいで、
間違えないでいいことを間違えたりなんかするものですよ。
ころころ気楽にやって流れにまかせていれば
大きく間違ったことはしないものだけれど、
肩肘張って何かしようとしたら、僕らは決まって物事をこじらせてしまう。
狸っていうのはそいういうものじゃないかしら」
有頂天家族の第一作目はとにかく明るい狸たちが描かれたのに対し、少し物悲しい雰囲気がある。
身内同士でいがみ合うことほど、悲しいことはない。
それを染みるように感じさせられる。
「……兄さん、必ず帰ってくるんだぜ」と私は念を押した。
「今の俺には帰る場所があるよ。だから必ず帰ってくるさ」
ここで会う人間は狸より卑怯だと思ってしまうのは何故だろう。
我々は卑怯なのだろうか。
なにはともあれ、今作の中心は天狗である。
矢三郎が危険な綱渡を愉しむ様は、ハラハラするが面白い。
まだ三作目は出ていない。
森見先生よぅ、続きが読みたいのぅ〜
いつかこの声が届くことを願ってやまない。