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ビリーさん集め。

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ビリーさんの書いたもので個人的に大好きなものを集める。
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#文芸パンク

「青いだけ」

「青いだけ」

見上げりゃ鮮やか過ぎて不愉快にもなる青い天、
遠く果てまでその色だけで澄み渡る、
気づけば僕は爪を噛んでた、いくつになっても変わらない癖、
荒野に独り、追いついたコヨーテの、
影に気づいてながら噛み続けていた、逃げようとは思わなかった、

夕陽はまるで、炎が落ちて森を燃やしてるようだった、
鳥たち啼いてた、銀の髪の狼男が遠吠えを、
遥か南で人魚はくせ毛を溶かし続ける、
祈りはしない、僕は未来を想い

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「風と共に去りぬ」

「風と共に去りぬ」

燃え上がる朝の東の橙に、気づいてながら背を向けた、
映写機からは空想科学が昨日の夜から流れっ放しで、
言葉を理解し得ない男は字幕に並んだ記号を目で追う、
義眼の老婦は途絶えた愛を延々と、やがて永久に導かれるまで、
点火直後の発煙筒ならドラッグ・レースに蹴り飛ばされたよ、いまはもう、
吸い殻みたいに小石や埃と眠りについたはずなんだ、

ブラウン管には旧世紀が見ていた未来、拙く儚く幼いまぼろし、
人は

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「旅路」

「旅路」

夜には世界地図に火を点けて、
明けた朝には見上げるだけで広がる永遠、
欲しいものが何であったか、
波打ち際には黄金さえも立ち上がる、
どこへ行こうか、どこでもいいんだ、
風のなかの陽灼けた足が地を掴み、
もはや欲しいものすら見つからないと強がる旅路、

photograph and words by billy.

「神々の遊戯場」

「神々の遊戯場」

絶望まで死んでしまった街にいる、
煤まみれで灰黒まだらに染まってしまって、影に見紛う猫が街路を横切った、
年端も行かぬが外れの農家に残った羊を盗めないかと耳打ちしてる、

引き千切れたネックレスが紛いの真珠をばら撒いていた、
アスファルトのひびに落ちた一粒が、数日ぶりの陽光を跳ね光線を打つ、
煙と霧が混ざって白から灰へグラデーションする空と地が、
何処かで焦げたにおいがしたら、薬漬けが火を放ったん

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「偉大なる旅路」

「偉大なる旅路」

真夏の光を集め始めた眩い青が黄昏れて、
立ち止まる帆船たちは木の葉のように揺られてた、
船上からは永遠までも視界にしようと終わり近づく旅人たちが手を差し伸べて、

微かな風に揺らされた、そのとき海は育ち始めた若い緑の草原にもなる、
走る風の響く草原、そこから流れて砂浜へ、
やがては揺蕩う凪の海、

目覚めた月は白く白く透きとおる、お星様たち瞬きしてた、
濃い濃い青い藍の彼方に人差し指で船を描いて、

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「キャロル」

「キャロル」



 声が聞こえた。
 何処からだろうか、耳をすませる。

 窓の向こうで樹々が騒いでいた、それから通りを走る長靴たちの声……幸福そうに、歌うようにその声は銀世界を駆けてゆく。
 私は眩しい世界に目を細めた。昨夜から降り積もった白銀が朝日を跳ね返す。
 あまりの光の多さ、眩さに直視できず、私は視線を室内に戻す。

 私は誰かに呼ばれていた。懐かしい声だった。いつからそれを聞いていないのか、私はそれ

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「夜鳴鶯(ヨナキウグイス)」

「夜鳴鶯(ヨナキウグイス)」

 テーブルに肘をつき、軽く握った拳で頬をついている、射す光の加減で金にも薄い茶にも、あるいは白にさえ見える長い髪を垂らしている。
 伏せた目から伸びる長い睫毛が影をつくっている。影とその睫毛は一体になり、古い傷跡のように滑らかな頬に刺さる。

「街の様子は?」
 正面扉が開く、数名が出入りする、吹き込んだ風が彼女を一周して外へ抜ける。
「先月の暴動で数百の死者が……現在も国軍と交戦中とのことですが

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「なつのこい」

「なつのこい」

 小さなころに飼っていたイヌの名をつけたのは元気だったころの母だった、私が高校生として最初の夏休みを終えたばかりの九月の半ばに母は倒れ、何度かの入退院を繰り返したのちに帰らぬ人となった。

 下降する直前のジェットコースターで目覚めてしまったように慌ただしくて、私と家族はあらゆる運命が急加速、急展開する時間に閉じ込められたような気分だった。

 そのころの記憶はどこかあやふやになってしまっている。

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「君に届け」

「君に届け」

 届いてる?

 月に有人船が軟着陸した瞬間のこと。

 いくら凝らしたところで微かにさえそれを視ることのできない肉眼の私たちは開けたままの大口に、夫婦、恋人、友人、やむにやまれぬ訳ありのお二人が、互いにひとかけらのチョコレートを放り込んでいた。
「見える?」
「あれじゃない?」
 指差す先には穴ぼこだらけの月が浮き上がり、私たちは首が疲れる。ひなが親鳥に餌をもらうのと同じ角度のままだったから

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「雨季のバス停」

「雨季のバス停」

 
 雨季の近づく海のそばのバス停には時間と行き先の表記がない。
 そこで陸地が終わり、ここから海が始まる。人の往来はなく、時折、海鳥が退屈しのぎに割れた悲鳴のような鳴き声をあげ、そしてその声は風の隙間を衝いて響くコンビナートのサイレンに掻き消される。

 倒れたままのイスが二脚、ずいぶん古いものらしくて塗装が剥がれて錆びてしまっている、なんど起こしても倒れてしまうから、僕はそれを起こすのを諦めた

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「神の手は白い蛇」

「神の手は白い蛇」


空は澄み渡っている振りを、あくまで装うのは純白、
悲鳴に聞こえるトランペットや秒ごと草地に仕向けるオルガン、
夏には人の気配を盗み、冬には刻を奪いたもう、
夜にはそれを告げる鐘、仕事終わりが俯きそぞろに歩く路、
どうしてだろう、それは従順なる黒い葬列、
君にも僕も、そうとしか見えないのはなぜ、

孤独は君の隣にあって、重なり合う影は唯一、
あてもなくしてぶら下がる、見果ての視界はいつぞやの、

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「雨天炎天」

「雨天炎天」

雨天炎天、横から殴る汚れ風、
這う地に見る花、頭は垂れて、
永久なる眠りにつこうかとさえ、

崖の淵を歩みながらも、
眺め見るは生まれ出ずる青き波間に、
鳴らない風車が並んでた、

意味問うほどの無意味はあらず、
ならばまだ眠ったほうがいい、
不埒な夢を見るならば、
それはそれで生にあれ、

架空の日々を描き見るなら、
眠らぬ魂持つ者として、
あるいは魂持つ物として、
不確かなる虐殺にさえ興じてみ

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「ねがいごと」

「ねがいごと」

春に出逢い、夏に笑い、
秋には泣いて、冬に去る、
やがての別れが待っているとわかりはしつつ、
私たち、ヒトは祈ることをやめることなく、
合わせた両の手のひらに、明日の歓喜と晴天を、
流れる水を、実りの穂を、
雨天炎天、健やかなる日、
それほど多くを望むのだ、

春には温い風、夏に疲れて、
秋に収穫持ち合わせ、
冬には再び眠る場所を探して南へ去った、
私たち、生きとし生きる全ての者は昨日と同じ、

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「さよならソビエト」

「さよならソビエト」

12月の痩せて尖る裸の枝のように突き刺さる、
口笛鳴らして渡り鳥たち溶けてゆくのは遠く東に、
人差し指立て虚空に歪な円を描く、
僕はきっと乗ってたよ、
それが砂の舟だと知ってても、
どこまでだって青い視界の隅には何故か、
滴が伝って泣いているんだと気づく、

10まで浮かせてそれぞれに、
滅んで消えた国の名前をつけてゆく、
消えてしまった氷の国の名前で呼ばれている俺は、
虚空の円と同じように消えて

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