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【ジョニデの映画も話題ですが】水俣といえば、日本には石牟礼道子がいる。

下に引用する文章を読んだ時、
私は本を持つ手が震えました。

「この本を前にした時に一つ大事なことがある。
ゆっくり読むこと。
今の世の中に流布している本の大半は速く読むことを前提に書かれている。
ストーリーを追って、あるいは話題を追ってどんどん読み進めて、なるべく早く最後のページに至る。
しかし、これはそういう本ではないのだ。一行ずつを賞味するように丁寧に読まなければたくさんのものを取りこぼしてしまう」

速く読む本と、ゆっくり読むべき本、
本には2種類ある。

そう書いたのは、
作家の池澤夏樹で、
書かれたのは、
石牟礼道子さんの自伝小説
「椿の海の記」河出文庫の
巻末解説の冒頭です。

石牟礼道子さんといえば
古代の香りをたたえた人とか、
人間存在の根っこを見つめ続けた人とか
言われました。

最初は戦前のフェミニズムから
スタートしましたが、
地元の熊本県の水俣が
チッソ工場の排水によって
故郷がおかしくなりだしたため、
文章を書いたり、
チッソ企業との交渉の前面にたつ
立場になったり、
気づけば『苦海浄土』という 
水俣の海を踏みにじられた人たちの
怒りと悲しと自然愛を書いた
三部作の名作を完成させました。

長い間、水俣病といえば、石牟礼道子、
といわれてきました。

人間存在の根っこを
あの優しいまなこは
見つめ続けて来たんでしょう。

そういえば、
水俣病という文字を最近、
よく聴くようになりました。

水俣を撮影し続けた
アメリカ人のカメラマンの
半生を描いた映画が話題に
なっているからです。
主演はなんとジョニー・デップ、
というから、凄いですね。

それにしても、
石牟礼道子が2018年に他界するまで、
何冊も水俣について語り、
書いてきて、
公害裁判でも、国とチッソに
勝利しましたが、
それでも故郷を踏みにじられた
怒りは一生、癒えなかった。

ただ、彼女の言葉は、
美しかった故郷を奪われた
被害者としての感情が混じり、
地元の人から健やかさを奪われた
悔しさなどが生生しく感じられます。

でも、アメリカ人という
異国のカメラマンという新しい
「レンズ」を通すことで、
被害者意識や悔しさ、生生しさが
薄まっていき、
傷跡がマイルド、ソフトになって、
今の人でも水俣病の傷跡に
接しやすくなったかもしれません。

そうかあ、
その手があったかあ、、、
と石牟礼道子さんは
あの世で冗談でもおっしゃってるん 
じゃないかしら?(笑)

このジョニー・デップの映画が
きっかけで、日本にまた改めて
石牟礼道子さんに
注目が集まって欲しいなあ。

やはり、オススメは
石牟礼道子『苦海浄土』。
いきなり全三部作を読めるか
自信がない場合は、
第1部のみの講談社文庫版で
読んでみるのがいいかもです。

石牟礼さんの文体に馴染んだら、
河出書房新社や藤原書店の
分厚い全三部作構成の本が
待ってくれています。

また、彼女を敬愛する
上野千鶴子が書いた  
『おんなの思想』(集英社文庫)には
石牟礼道子がどうやって
水俣病や国やチッソと戦い、
また、故郷を愛し続けたか?
その波乱万丈な人生が
わかりやすく読めます。

ゆっくり読む。
石牟礼さんが書いた本は
一貫して、そんな本ですね。 
石牟礼さんは貴重な宝を
たくさん遺してくれました。

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