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【書店回遊】人は本屋にいる時どんなことを考えるのだろう?

神保町に来た。
健康診断を受けながら、
理由の分からないモヤモヤが
心いっぱいになっていく。ヤバい。
今日はストレス発散で、
書店をどっぷり回ろう。浸ろう。

まずは「東京堂書店」に。
手始めは、気になっていた
幸田文の本を探す。
ズラリ並んでいる。
没後30年になるらしい。
幸田文は、向田邦子とは対照的な
エッセイストだった。
向田邦子は分かりやすくて巧みな
書き出しを得意とした。
一方、幸田文の冒頭は、
幸田文自身が書きたい通りに書いた
のだろうなあ、と思わせる、
奔放な書き出しです。
いきなり長い書き出しや
堂々巡りするような奇妙な書き出しも
幸田文はしたい通りに表現した。
一方、向田邦子は明らかに
元編集者の面目躍如で、
編集者が若い新人に手ほどきするような
短文を重ね合わせて、
読者をぐいぐい引き込んで行きます。
どちらも、達人。良し悪しはない。

ところが、ズラリ並んでる中に、
私が欲しい本だけ、置いてない。
『雀の手帖』は在庫がないらしい。
色々と迷って、茨木のり子の
詩集を買いました。岩波文庫。
ちょっと、石垣りんさんの詩集と
どちらにしようか、迷いましたが
今日は毅然とした文体の
茨木のり子さんの気分でした。

幸田文さんの欲しい本を探し、
歩いて30秒先にある三省堂書店に。
真っ先に文庫売り場の2階へ。
そうしたら、三省堂書店にも、
幸田文の『雀の手帖』はなかった。
他は全部揃っているのに…。

新潮文庫の対面にある
講談社文芸文庫に体を向け、
また棚を眺めました。

色川武大の『狂人日記』を手にとる。
ずっとずっと気になっているのに
なかなか買う勇気が出ない。
まだ私はうつ病の闘病中だし、
今日みたいに特にモヤモヤが
心に渦巻いている時に、
狂気の深淵をさ迷うような怪作を
読むことは、症状を更に不安定に
してしまうかもしれない。
名作だ、絶対に死ぬまでには読みたい。
でも、それにはもう少しメンタルが
安定した時にならないと危ない…
そんな気がして、ずっと延び延びに。

今日も『狂人日記』は止めた。
ふと、近くに来た青年たちの会話が
聞こえてきました。
まだ二十歳頃かしら?
そんな若い人が遠藤周作について
話し合っているんです。
こんな若者がいるなら小説界も安泰かな。
片方の青年は遠藤周作の『海と毒薬』を
持っていきました。

さて。
心のモヤモヤはまだ続いています。
あ、そう言えば、友人の娘さんが
中学生なのに島尾敏雄『死の棘』を
読んで、大層ガッカリしたという話が
頭に浮かびました。
『死の棘』は夫の浮気がきっかけで
発狂する奥さんの、狂気の話です。
どうもタイトルに惹かれたらしい。
大人でも島尾敏雄の作品は
アタリハズレがあるのに、
中学生の娘さんは、いわゆる純文学と
不幸な出会いをしたらしい。
そうだ、島尾敏雄の本でもう少し
近寄りやすく面白い初期短編集を
プレゼントしようか?
などと考えて、島尾さんの本を
何冊かパラパラしましたが、
余計なお世話かなあ?と思って
プレゼント作戦は止めました。
さらに純文学が嫌いになったら
もう罪が深いですからね。

うん?そう言えば…!
島尾敏雄の奥さん、島尾ミホさんも
作家、エッセイストだったな。
それに、ノンフィクション作家
梯(かけはし)久美子さんが
島尾ミホさんの発狂から治癒までを
描いた傑作『狂うひと』が
文庫になっていたなあ。

島尾ミホさんは非常に重い精神病となり、
長年入院もしましたが、
夫・敏雄の贖罪としての看病もあり、
治癒したのでした。

私のうつ病だっていつか
完全に回復するかもしれない。
自殺衝動もなくなるかもしれない。

そうだ。心の病がどんな風に
回復していくのか?『狂うひと』を
読んだら参考になるかもしれない。
不安の原因も解明できるかもしれない。

いやあ、書店にいるだけですが、
ずいぶんと頭には様々な思いが
回っているのですね。
まるで魚の遊泳みたい。

今日の書店遊泳での収穫は、
『茨木のり子詩集』(岩波文庫)と
『狂うひと』(新潮文庫)でした。

ああ、一時間は過ぎていました。
幸せな時間でした。


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