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【ノーベル賞】韓国文学の豊潤さに圧倒される夜

今年のノーベル文学賞は、
韓国のハン・ガンさんに決まった。
東アジア人女性では初らしい。

韓国の女性作家と聞いて、
私はてっきり、あの、
顔の中がくり抜かれた女性イラストが
カバーになっていた
『82年生まれ、キム・ジヨン』を
書いた作家チョ・ナムジュさん
だろうと早合点しました。

あるいは、
『アーモンド』を書いた
ソン・ウォンピョンさんかとも
思ったりしました。

2人とも、韓国文学の
大ベストセラーの作家たちです。

しばらくして、
やはりどうもモヤモヤするので、
「ハン・ガン」を調べたら
ぜんぜん違う人でした。

以前、まだ、つつじヶ丘にあった
書店「書原」で読書会が
開かれていた頃に、
課題テキストになっていた
『すべての、白いものたちの』河出文庫
の作者でした。

私はちょっとのけぞりました。

『すべての、白いものたちの』は
硬質で、繊細で、緻密で、
しかも悲しみが溢れた壊れそうな作品で、
うまくハマれなかった思い出が
あるからでした。

ハン・ガンさんの代表作、
『菜食主義者』は
日本でも、単行本が出た時、
韓国文学好きには話題になりました。

ハン・ガンさんの、
物事を見事なまでに極め尽くす
結晶力は、やはり健在でしたが、
『すべての、白いものたちの』ほどには
悲しみの深さはちょっと薄らいでいた。 
つまり読みやすくなっていたんです。

でも、改めて、
ノーベル賞が人気や売れた部数に
影響されないで、尖った作者を 
まっすぐにちゃんと選ぶ姿勢には
感嘆しました。

発行部数なら、
キム・ナムジュさんでしょう。
いや、ウォンピョンさんか。

しかし、この2人は、
読みやすく、親しみやすいが
悪くいえば、
物事をギリギリまで極めてはいない。
芸術性は弱い。

日本の女性作家でたとえるなら、
角田光代さんや三浦しをんさん
あたりでしょうか。

それに対して、
今回ノーベル文学賞に選ばれた
ハン・ガンさんは、
人を寄せ付けないほどに
緻密で硬質で美しい作品を
つむいできた作家だ。

日本でこうした作家はいるだろうか。
石牟礼道子さんあたりかな。

ノーベル文学賞を決めた人の
まあ、最終的な好みや感性が
大きいのでしょうけれど、 
それにしても、
日頃、やれ何万部のヒットだの、
何十万部で映画化だの、
言ったり考えたりしている自分が
つくづくイヤになりました(汗)。
 
ちなみに、
「ハン・ガン」で今、
Amazonで検索をすると、
話題作『菜食主義者』は
最初の出版社では、絶版になり、
古書店で、一番安くて5980円と
値付けされていました。

最近の日本は、本当に貴重な本も
平気で絶版にしていくなあ。
日本の書店業界を苦しめているのは
こうした売上げ至上主義でしょうね。
粘り腰がなさ過ぎる。

これで仮に、『菜食主義者』が
普通に今、新刊として
1800円くらいの定価で取引されてたら
まあ、今頃、Amazonで
爆発的に売れてたろうになあ。
あ、また、売上ばかり考えてしまう。
(汗)。

あの、つつじヶ丘の書店「書原」で
読書会のテキストに、
ハン・ガンさんがまだ
マニアックな扱いをされた時代に
『すべての、白いものたちの』を 
選んだ書店員さんは
今頃、きっとこの受賞を
喜んでいるにちがいない。

それにしても、韓国!
韓国ドラマ、
韓国映画、
韓国文学! 
そのどれもが世界標準らしい。

それだけ、
ここ10年20年の韓国社会が
通過し、体験してきた物事が
とても文化的に豊潤だったことは
まちがいないでしょう。

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