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【新訳】没後100年。カフカの新しい『城』が出た

カフカ『城』の新訳がついに出た。
これは記事にせねばと
勢いこんで目次を開くと、
うわ、これはなんだろう!
まず、面食らってしまった。

以前なら、カフカ『城』を
読もうとするならば、
まずは新潮文庫の翻訳を
あたるのが常道でした。

翻訳家は前田敬作。
1921年生まれの東大卒、
ドイツ文学研究者だ。

ちなみに、
ヘッセの翻訳は高橋健二氏が
ほぼ全部一人でやっている。
同じく20世紀の人だ。

また、カフカ『変身』は高橋義孝氏。
20世紀前半に活躍した翻訳家。

ドイツ文学の新潮文庫の翻訳家は、
みな、20世紀前半生まれの
東大出のドイツ文学畑ばかり。
時代柄、20世紀文学を
翻訳する人なんだから、
翻訳する人間も20世紀生まれの人に
なって当たり前かあ。 
でも、正直、今の時代から見たら、
1世紀前の人だから、
どうも文章が古い感じになるのも
致し方ないのだろうか?

でも、最近では、新潮文庫も、
海外クラシックを敢えて新訳で
出したりしている。
ドイツ文学だけ、なかなか
一新できない事情でもあるのかな。

訳文を新規にするには、
よほどお金が発生してしまいます。
その海外作家が21世紀の読者に
歓迎されるかをしっかり 
見定めようとしてるのも分かる。 
でも、カフカやヘッセなら
新しい翻訳家を招いて
新訳に取り組んでも損はしないはず?

おっと。
話を元に戻すと、
カフカの『城』は
新潮文庫では、
全体は、普通の長編小説なのだが、
今回『城』が出された
光文社古典文庫の
丘沢静也さんの訳では
目次の面容さにびっくりさせられる。
まず、今まで、新潮文庫なら
小説の第1ページとなる箇所の前に
5ぺージにわたる作品序文がある。
また、全体の順番もカフカの死後に
繋げられた案の一つらしい。

ということは、 
新潮文庫は、勝手に?
カフカの序文をカットしてたことになる。

たしかに、カフカは生前に、
出版されることもなく、
書いた作品は全て焼いてくれと
友人に託して死んだのだから、
序文が入るか入らないのか、
カフカが決めたのではないかもしれない。

それはそれでいいとして、
ならば、編集意図として、
序文は省いたと、解説で
ひとことあってほしかったかな。
 
『城』は実は
単なる大長編ではなく、
どんな長編にするか、
編集者や翻訳家の意図で
大きく変わる類の小説だった訳ですね。

さて、先ほどから、
私は新潮文庫と、
今回新訳を出した光文社古典文庫の
話ばかりをしてますが、
カフカにはもう一冊、
誰にでも手に入るものがあります。
白水社から出ている
カフカ・シリーズで、
その翻訳は池内紀さんです。

あ、ああ、池内紀さんなら
自分はどの底本を
どんな意図から翻訳したか?
巻末に書いてくれてるでしょう。

今日ちょっと申し訳ないのは、
今手元にその池内訳が見つからず、 
明確なことを調べられず、
皆さんにも正しい話をお伝えできない
ということです。
申し訳ありません。

今度、新潮文庫と
白水社シリーズと
今回の新訳の三つを比べて、
カフカの『城』論を
きちんと書いてみたいと思います。

いやあ、カフカの作品、特に
長編は、カフカ没後にさまざまな
検討が繰り返されてきたことを
もっとよく知るべきでした。

それにしても、
目の前にずっと当たり前のものとして
あった新潮文庫の『城』が
あくまでひとつの仮のものである、
ということはかなりのショックでした。

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