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嫉妬しない編集者になりたかったけど、あきらめました

ジェラシーが、なくなってくれません。

仕事には成績がつきものです。
受注件数とか、顧客満足度とか、ライン作業のスピードとか。

定量化しやすい仕事やそうでない仕事がありますが、基本的にどんな仕事も成績が出され、それに応じて評価がされます。お給料や昇進に関わることもあるでしょう。
一般的に成績がわかりやすいのは営業職でしょうか。販売件数や、受注金額。自分の努力でどれだけの売上を会社にもたらしたのか可視化されやすい職能です。

そして、成績がわかりやすいのは編集者も同様。

自分が立案した本がどれだけ売れたのか。それが部数という形で見事に定量化されます。
もちろん営業や宣伝などの協力があって売れているわけですが、やはり企画なくして売り上げはたちません。チームの結果ではあれど、成功も失敗も一身に請け負うのは編集者だと思います。

※本のヒットが一番称賛されるべきは作家さんだと思っておりますが、あくまで編集者という視点に絞って記事を書いておりますので、ご了承ください。

だから担当作が発売になれば、初速が出てヒット作に成長することを全力で祈ります。
文庫や新書なんてより必死。売り場も販売日も、ほかの編集者の本と同時によーいドンなので、明確に売れた売れないの差がついてしまいます。
とにかく自分の本が一番売れますように。なんなら他の奴らの本は売れませんように(本当にすいません)。邪念を込めながら5分おきにPOSデータを確認します。

そう。売り上げ成績が出るということは比較されるということで、やっぱりほかの編集者に負けたくないんですよ。

正直な感情を吐露しますが、自分の担当作がヒットすれば誇らしいし、ほかの編集者の作品がヒットすれば悔しいし妬ましい
同僚の編集者のヒットについては仲間として嬉しさが多少ありますが、心の根っこには嫉妬が巣食っています。他社の編集者のヒットについては全嫉妬です。悔しさ100%です。キーっとなります。
ちなみに一般論のように書いていますが、決してそうではありません。たぶん僕が嫉妬深いだけなのです。

編集者ってみんな知的で穏やかで、「あの本売れて良かったね~」「すごいいい本作りましたね~」とにこやかに話しかけてくれます。ヒット作をポンポン出している超一流の人に限って、そういう人格者ばかりなのです。しかも嫌味がなくて、表面を繕っている風でもない。ほんと完璧超人ばかりで嫌になっちまいます。
一方の僕ときたら、「コンチクショウ」という悔しさや「ああ僕はなんてダメな編集者なんだろう」という自己嫌悪がぐるぐるするばかり。大変に器がちっちゃい人間で、他人の幸せを喜べる清らかな心が湧いてこないのです。

誰かの成功を素直に喜べるように。もっと前向きな気持ちで仕事に取り組めるように。
もっと素敵な人格の編集者になりたくて、でもなかなかなれなくて。
そんな自分のことが、ずっと嫌いでした。

でも最近、こう思うようになってきたんです。
「もう、このままでいいかあ……」と。

つまり、諦めました。

三つ子の魂百までと申しますが、人の性格はそう簡単に変わらないものです。いまさら菩薩のように変われたりはしません、たぶん。
他の編集者の作品がヒットしたら悔しいし、負けたくない。次は僕のほうが売れてやる。
残念ながら、僕は嫉妬の炎を燃やしがち系な編集者なのです。

自分の嫉妬深さを受け入れること。それは諦めであり、安心でもあります。
まだ僕は編集者として戦いたい気持ちがあるのだなと。

行動の原動力にはいろんなものがありますが、「負けたくない」という感情も一つの起爆剤です。ここまでなんとかかんとかやってこれたということは、僕はきっと「負けたくない」を糧に動くタイプなのでしょう。
ということは、僕はジェラシーがなくなってしまうと原動力を失うのです。
嫉妬の雲が消え去った時、それはすなわち引退の時。
悔しさや自己嫌悪をなくすことができれば、心に穏やかな時間が流れるかもしれません。しかし「なんとしてもヒット作を作ってやるぜ」みたいな気概も同時になくしてしまっている気がします。

だからジェラシーがあるうちは、現役でいられる証拠。
そう考えると、自分の心のモヤモヤした部分もちょっと愛おしく思えるようになりました。

こんな風にいい感じに書いていても、やっぱり心はドロドロしていますし、SNSで誰かのヒット情報を聞いては「チキショー!」と思うし、「やっぱ自分、編集者向いてないわ……」と酒瓶を開け始めたりします。
諦めたといいつつも、そんな自分を簡単に受け入れられはしなくて、迷いと悩みの日々です。生きるって本当に難しい。
それでも「諦める」ということを前向きに捉えられるようになったのは、ささやかな自分の成長なのかもしれません。

ジェラシーがなくならない系編集者であると諦めて、嫉妬を燃やして次のヒット作を目指そうと思います。

★★★


<最近読んだ本>
太田忠司さん『
読んだら最後、小説を書かないではいられなくなる本
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