今こそ知りたい!「ジョブ型制度」により変わる働き方 第4回
年功序列の発想からの脱却
司会:こちらの質問が来ています。
「今まで職能等級制度で年功序列が強かった企業が、ジョブ型へ移行するにあたり考えられる障壁と対処法を教えてください」
柴田:じゃあ、それぞれ違うと思うので。
私の経験から言うと、要は経営者も含めて、ちゃんと組織の経営幹部と言いますか、経営層の方々がちゃんと年功序列の発想から脱却できるのかというとこが一番大きいですよね。
よくあるのは、制度はジョブ型を入れましたと。でも運用自体は、要は人の配属ですとか、昇格自体が重要になっちゃっているというケースがものすごく多いんですよね。結局あいつ優秀だけど、若いからまだ部長になれないよねとかって言っていると何も変わらないわけですね。
ところが、頭では理解しても、上の今の役員以上の方々って、ずっと年功で生きてきた方々なので、もう自然と頭の中そうなっちゃっているんですよね。いかにその経営幹部と言われる方々の意識を変えていくのかがポイントです。
既得権益との戦い
加藤:別の観点から私も補足させていただくと、1つは既得権益との戦いです。
年功序列という言葉はやっぱり年に対して支払っていたわけですね。なので、いわゆるジョブ型人事制度というものに移行すると、その人ではなくてその仕事というのが会社にとってどれくらいの価値があるのか、ということの全部の見直しになっていきます。
これに対して、どういうふうに会社として正当性をきちんとお伝えして、そして全体としてなぜこれをやっていくのか、ということをきちんとお伝えするということが大切です。このときに、下がることばっかり皆さん目が行くんですけれども、逆もあるんですね。
これは若手のエースの方で多いんですけど、若くして抜擢されて、登用されている方ほど、今までシニアの方の半分くらいの報酬で、非常に毎晩毎晩奔走されてるような方々っていらっしゃるんですね。そういう方々が上がるっていうのはどういう意味合いなのかっていったら、公正に会社は貢献を見ていますよって、こういうことなんですね。
人件費って適正処遇、適正配分をしなければいけないので、誰に配分するかというと、仕事をちゃんとしている人、会社に貢献ができる人。これにちゃんと配分していくというのが一番フェアですよといったことを会社としてもきちんと啓蒙していく。既得権益をおそれずにきちんと会社がメッセージを出していくってことが、私は1つ重要なポイントかなというふうに考えています。
司会:ありがとうございます。
「政策レベル、法制レベルで年齢差別禁止まで日本で進むと思われますか?」
というご質問をいただいております。
加藤:たぶん行かないと思います。
司会:そこまではいかないですね。
加藤:はい。日本というのはある程度儒教の国でもあるので、年長を敬えというのは、法令で定められているわけではないですけど、価値観としてはあるんですね。おそらくそこまで強い法制度の変更というのは起こらないんじゃないかなというふうに見ています。
司会:なるほど。ありがとうございます。
「ジョブ型の対象が管理職からというケースが多いようですけども、経営職への導入というのはどういった展開になっていきますか?」
という質問が来ています。
役員の世界にもジョブ型の難しさ
柴田:今、まさにそこもホットテーマで、役員と言っても当然取締役と執行役員と両方ありますけれども、偉くなっちゃったらそれでお金がもらえるみたいな世界だったんですけども、これじゃまずい、となってきました。
従業員にジョブ型を求めておきながら、上だけ楽園が残っているって変な話ですし、ガバナンスの観点からキチッと役員の方々にも仕事を定めて、お金を払っていかなきゃいけないという動きが非常に加速されているので、間違いなくこの数年で、ジョブ型に切り替わっていくだろうなというふうに思います。
司会:ありがとうございます。そうですね。本当、役員だけがジョブ型ではなくて、下の人たち、管理職以下の人たちがジョブ型というのもなかなかおかしい話ですので、今後広がっていくということですね。
柴田:どうしても日本の社会って格みたいなものが残っているんですよね。いくら仕事の大きさだと言っても、例えば部長といったら偉いわけですね。こういう見方を自然とするので、ここを全否定してかかっても多分うまくいかないんですよね。
なので、役員でよく話に出ますけど、常務とか専務って言葉があるじゃないですか。これ、明確な定義何ですか?って誰も答えられないんですよね。ただ、より偉い人。
これを全否定したジョブ型の世界ってたぶん日本でなかなか展開するのは難しいので、格みたいなものと、ジョブ型とどう折り合いをつけていくのかってまだ答えはないですけれど、そこを意識しないとたぶん日本の企業ではうまくいかないかなって実感値としては思っています。
加藤:あとはもう1つ付け加えると、役員クラスのほうがやっぱり難しいというのは、サンクチュアリという意味もあるんですけど、役員までいくと、社長の候補者なんですよね。
で、社長の候補者ということになっていくと、大きな事業、主要な事業をちゃんと見ていくというのは大切なんですけれども、コーポレートの部門を経験して、ある程度の嗅覚というのを備えていかなきゃいけない、ということが同時に必要になってきます。
異動とジョブ型ってすごく組み合わせが良くないんですけれども、特に役員になると、戦略的に人を異動させなければいけない。いわゆるエースの役員さんを立て直しの局面に入っていただかなければいけない。こういうことがあるので、単純にジョブ型の理論だけで処遇をアップダウンさせていくと、そこと齟齬が出てしまう可能性というのは非常に高いです。
基本はジョブ型の要素を残していきながら、一方で少しローテーションをさせていく、戦略的に異動をさせていくということを、一方でにらまなければいけないので、非常に悩ましいというのが役員のところの議論かなと思います。
司会:ありがとうございます。今回この『ジョブ型人事制度の教科書』をご執筆されて、書籍にはちょっと載せなかったけど、実はこれも書きたかったんだというようなことってありますか? あるいは編集者がちょっとこれは外しましょうと言って外したけど実は載せたかったみたいな。
コンピテンシーやリーダーシップのソフト面の見極め
加藤:私、編集に載せなかったことの1つは、ソフト面のことなんですね。
ジョブ型人事制度って処遇を決めるとか評価をする。どちらかというとハードの仕組みなんですけれども、企業をグッドサイクルに載せようとすると、やっぱり人の見極め、いわゆるコンピテンシーであるだとか、リーダーシップというのは非常に重要なんですね。
そのソフト面というのがどういうふうに作用していくのかというのは、紙面の関係上ちょっと載せきることができなかったというのが少し心残りな部分ではございますが、もし皆さんご興味、ご関心がございましたら、弊社でもいろいろなコンピテンシーの本とかリーダーシップの本出しておりますので、ぜひお手に取っていただけるととてもうれしいです。
司会:柴田さんは何か執筆裏話とかありますか?
柴田:基本的に思いはすべて詰めた、この制度という面では詰めたつもりなんですけれど。もう1つ、何て言うんでしょうか。書くべきといいますか、ジョブ型の世界を本当に作り上げるうえで重要なポイントがもう1つあるとすると、人の配置をどう考えるのかというところがすごい肝になるわけですよね。
制度も組織も要は箱なので、そこにいかに適材を配置をしていくのかという能力って日本企業はすごく低いんですよね。
ここは多分ジョブ型の中でも一番大きなテーマかなというふうに思っていまして、機会があったらそういうことも発信していきたいなと思っています。基本的には魂は込めているので(笑)。
司会:魂は込められている。まずはこれを読んでくださいということですよね。まさに決定版と言えますような、この教科書ですので、今日お聞きになっている、ご覧になっている皆さまは比較的もうすでに読んでらっしゃる方も多いかもしれませんけども、書店行ってまずはご覧になっていただいて、ぜひご一読いただければと思います。本日は柴田さん、加藤さん、大変貴重なお話をありがとうございました。
柴田:ありがとうございました。
加藤:ありがとうございました。
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