井沢 歯車

子供の頃からファンタジックな作り話が好きでした。現実と交錯する不可思議な時間や妄想っぽ…

井沢 歯車

子供の頃からファンタジックな作り話が好きでした。現実と交錯する不可思議な時間や妄想っぽい話、短編、ショートショート、童話など。暗めのファンタジー、夜の話多め。

最近の記事

月夜のごりら

ステンドグラスのような三日月が輝く夜更け  一頭の若いごりらが目を覚ました 森を抜ける風音の中  遠くから聞いた事のない不思議な音の連なりが微かに聞こえていた ごりらは音に吸い寄せられるように森を抜け  河沿いを下って人里に降りたった  ひと気のない村の大きな屋根の家屋からそれは聞こえていた ごりらが窓の端から覗くと 中では小さな楽団が演奏をしていた  楽団は夜更けに倉庫に集まり 祭りに向けて練習していたのだった  ごりらは目を閉じ 壁にそっと耳を寄せた 生

    • 青い石(後編)

      「いらっしゃい」 アポロは我に返った。 自分は今知らない町の店にいて、棚に飾られた鉱石に見とれていたのだ。 改めて棚の中の青い石を見直すと、それは最初見た時と同じに、飾り台につんと置かれているだけだった。 声の方を振り返ると、すぐ後ろにカウンターで仕切られた厨房があって、その奥に、大きな頭と体にはちきれんばかりの黒いベストを着込んで紐ネクタイを付けた、焦げ茶色のヒグマが立っていた。 「ウチはカッフェーだ 何か注文してくれ」   アポロは口を開けて、風変わりな店主を見て

      • 青い石(前編)

        夕暮れ時の空き地の草むらは北風に煽られて沖の海原のようになびいていた。 昼の間、ここは近所の子供たちの格好の遊び場になるのだが、こんな時分になるともうその姿はなく、駅舎から北側の住宅地へ向かう近路にと、時折横切る勤め人の影があるばかりだった。 アポロも幼い頃はよくここで遊んだものだ。 草むらの中程に立って、アポロはコートのポケットから美しい青色に透ける鉱石の結晶を取り出した。 「これでお別れになるよ」 手にした石を見つめながら、アポロは優しく話しかけた。 「大丈夫だよ」 

        • エイプリルと黒い穴

          昨日屋根裏に巣くっていたネグロジリスが 一匹残らずこの家を去った。 連中は災害を予知する。   この家も、もう間もなくと言うことか。 老いた父の横たわるベッドの脇の分厚い窓硝子には昼間だというのに真っ黒な闇がへばりついている。 十ヶ月前、西の空に現れた小さな黒い雲は幾日もそこを動かないばかりか、少しづつ膨らみ始め、やがて空間にふわりと空いた巨大な穴となった。 穴の広がりは大地に及び、先月には隣町をすっかり呑み込んでこの村の縁にまで達した。 人々は慌ただ

        月夜のごりら

          らくだと男

          いつのころからか、通学路の途中の空き地に、ひげを生やした外国人の男が住みついていた。 男はイスラム商人のような格好をしていて、毎日二度、空き地のまん中で水の入ったバケツを空にかかげては、目を細め低い声で何やらつぶやいてから、その水を空に向かってぶちまけていた。 友達はあいつはアラブの魔術師であれは悪魔を呼ぶまじないだと言った。 母は近づいてはいけないと言った。 ある晩、砂漠を旅する夢を見た。 広大な砂漠をあてもなく彷徨っていると、目に見えるものはみんな幻のように思えた。

          らくだと男

          夜のロボット

          「知ってる?あれ 自衛隊のロボット工場なんだって」 グループの中で一番年かさの少年が、有刺鉄線の向こうに佇む古びた工場を指差した。 仲秋の枯れ野原で、少年達は防衛庁によって極秘裏に開発された何体もの人型兵器がその工場の中に格納されているという噂についてささやき合った。  彼らより少し幼い雅人は、驚いた顔で年長者達の話を聞いていた。 それに気付いた少年は雅人に向かって話し始めた。 「夜中にウオオンウオオンて音聞こえるじゃん アレ、ロボット達が工場を抜け出して泣きながら夜の町を

          夜のロボット