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らくだと男

いつのころからか、通学路の途中の空き地に、ひげを生やした外国人の男が住みついていた。

男はイスラム商人のような格好をしていて、毎日二度、空き地のまん中で水の入ったバケツを空にかかげては、目を細め低い声で何やらつぶやいてから、その水を空に向かってぶちまけていた。

友達はあいつはアラブの魔術師であれは悪魔を呼ぶまじないだと言った。
母は近づいてはいけないと言った。

ある晩、砂漠を旅する夢を見た。
広大な砂漠をあてもなく彷徨っていると、目に見えるものはみんな幻のように思えた。
目に見えないものだけが本物のように思えた。

翌朝、学校に行く途中にあの空き地を見た。
男のかたわらには大きならくだがいた。

らくだはとても影がうすくて、角度を変えると見えたり見えなかったりしたけど、目を細めて斜めから太陽光に反射させると、たしかにそこにいた。
男はいつものようにバケツをかかげて、らくだに水を飲ませながら外国の言葉でささやいた。

「なぁ 調子はどうだい?出発はまだかい?そろそろ次の場所を目指そうじゃないか」
そんな風に聞こえてきた。

そうして、残った水を太陽にほてったらくだの背中に力一杯かけてやった
はね返った飛沫が朝の日射しを透かしてきらきらと砕けた。
 
その日の放課後、友達を連れて もう一度空き地に行った。
らくだが自分だけに見えたのかどうか確かめたかった。
 
でも空き地には もう らくだも男もいなくなっていた。

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